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北欧アントレプレナーシップ教育/インキュベーション施設訪問の旅(その8)

3/11。ついに旅は最終日を迎えた。

日本では3/11は特別な1日。今朝目覚めた時間がちょうどその時間であった。SNSを見ればそれに関する記述が目立つ。が,私はいつも通り過ごす。なぜなら,生きられなかった人の分まで生きるなんておこがましく,ただ私自身が日々を一生懸命生きることが志半ばで亡くなってしまった人への鎮魂であるように思うからだ。

さて,ここまで7回に渡り書いてきた旅日記も最終局面に。これまでの記録は下記のとおりである。

北欧アントレプレナーシップ教育/インキュベーション施設訪問の旅(その1)
その2
その3
その4
その5
その6
その7

最終日の今日は,デンマーク・コペンハーゲンから再びエーレスンド海峡を渡り,スウェーデン・ルンドのルンド大学へ向かう。

タイムプラスで海峡を撮影してみた。

今ではEUとなり,両国が争うことはなくなったが,そもそもスウェーデンとデンマークは長年領地を争った過去がある。その昔,冬になるとこの海峡は凍るため,凍った海を渡って戦争を仕掛けたなんて話もあるくらいだ。この海峡に橋がかかったのは2000年のこと。極めて画期的なことだった。

今回の旅でたびたび食事で出てきたのは,スウェーデン語とデンマーク語は親戚のようなものだから,片方がスウェーデン人,片方がデンマーク人でも互いにそれぞれの言語を喋っていても相手の言うことを理解できるという話だった。コペンハーゲンから空港を経由し,マルメ,ルンドへ向かったが,空港から乗車,マルメ,ルンドで下車する人が非常に多かった。国境という概念,パスポート・コントロールって概念はいったいなんなんだろうか(国境の駅でスウェーデン警察が乗り込んできて重々しい空気になるが,周りは至って普通)。

ルンドに到着。ルンド大学へ。

そうこうしているうちにコペンハーゲンから約40分。大学の街,ルンドに到着した。

スコーネ県のバスは都市内がグリーン,都市間が黄色と分けられている。このバスはガスで走る。

ルンドは990年ごろにできた街で人口が約10万人。約半分がルンド大学の学生で,外国人の在留者比率が18.8%という。ルンド大学は1666年に創設された北欧最古級の大学の1つ。目的地までバスを10分ほど乗ったが,周りは大学施設ばかり。街が大学でできているといっても過言ではない。(一部の人には極めてわかりにくいが)北九州市のひびきの学研都市的なものか。建物は落ち着いていてレンガ造りなのが全く異なるけど…。

元々ルンドは大学の街として知られていたが,デンマーク等の外国と近いこともあり,スウェーデンを代表する大企業の研究所等が多く設置されていたそうだ。大学はその共同研究の場所として協力関係にあり,イノベーション=大企業による新規事業開発支援を行っていた経緯もある。しかし,グローバル化,国際競争の激化の中でスウェーデン政府がスタートアップ支援に乗り出したため,21世紀に入り大学をあげてアントレプレナーシップ教育を推進していたという。

今回の目的地はこちら。ルンド大学内に設置されているSten K. Johnson Centre for Entrepreneurshipである。このセンターは2011年に設置され,Sten Johnsonさんから2,000万SEK(現在のレートで約2.4億円)の寄付によって作られた。Sten Johnsonさんはその2年後にも同額の寄付を行っている。

この方がSten Johnsonさん

名刺を頂きそびれたが,現在このセンターには日本人研究者もおられた。ちょうど午前中のFIKAの時間に到着したため,少しだけご挨拶した。どこにでも日本人はいるものである。

前センター長のMarie Löwegrenとのミーティング。同行者はこのセンターができた当初から知っているので,この10年の変化について尋ねていた。他の都市と同様,国際的な多様性が増してきており,スウェーデン人の受講者が少なくなっていることが課題とのこと。EUができて自由にスウェーデン国外でもビジネスが可能になり,(受講料無料の)スウェーデンの大学で教育した人間がスウェーデン国内に雇用や富をもたらさないことはいかがなものかという意見もあるそうだ。

続いて,現センター長のThomas Kallingとのミーティング。ここでは大学間連携,福岡という街についてディスカッションが行われた。Marieとのミーティングがインタビュー調査の色合いがあった一方で,こちらは「何ができる?どうしたいんだい?」というビジネスミーティングの様相。それでも非常に熱のこもったミーティングが行われた。

アントレプレナーシップ教育@ルンド大学とは?

ここで頂いたパンフレットを読んでみると,こんなことが書いてあった。

YOUR FUTURE CAREER
Companies need employees with entrepreneurial competence. The society needs entrepreneurs. You need an education in entrepreneurship and innovation.

Create your own dream job
(中略)
Job Market
(中略)

"Being an entrepreneur is absolutely not for everyone and that is how it should be, but everyone gains on becoming more entrepreneurial."

アントレプレナーシップを学ぶ意義が書かれている。アントレプレナーシップとは起業を志す人間のものだけではない。

企業はアントレプレナーシップ的競争力を持った従業員を必要としている。
社会は企業家を求めている。
あなたはアントレプレナーシップとイノベーション教育を受ける必要がある。

企業家であることは皆のためではない。それはあるべき姿だが,誰もがより企業家的になることで成り立ち得る。

ここにアントレプレナーシップ教育の本質がある。とかく私も誤解されるが,別に起業させようとこんなことをしているわけではない。あくまでも1つの選択肢に過ぎない。起業の成功率は30代後半から40代が最も高い。だから学生起業の方が打率が低いし,よほどの覚悟がなければできないと思っている。が,企業においてアントレプレナーシップを持って企業家的に働くことはできる。

現在面白い,好調だとされている企業は,そうした人材を求め,採用し,適材適所に活用することによって企業は生き延びる,あるいは成長を遂げている。当たり前の話である。が,就職活動や中小企業の採用支援となると途端にこうした話は薄まっていく。

若手に闇雲に新しいことをさせろと言っているのではない。アントレプレナーシップ教育は,思考・思想として理念系を教えるだけでなく,課題に向き合い乗り越えていく方法論(プロセス)を学ぶ極めて実践的な学びである。アントレプレナーシップ教育と言わずとも類することをやっているケースもあるが,何が目的かということはもう少し問われても良いかもしれない。

少なくとも今回見てきたスウェーデンでは,機会を発見し,事業計画に育て上げ,そうした活動をじっくりと支援する機関があること,場合によっては学生・院生自身がその事業シーズをもとに起業する可能性があること,起業しなくてもアントレプレナーシップ・マインドを持って社会に飛び出していくこと。こうしたエコシステムが構築されてきたことを学ぶことができた。

翻って日本はどうか。この話はまたふりかえりで検討することにしよう。

いよいよ帰国の途に

ルンド大学からバスに乗り,ここで一行とはお別れ。どうしても外せない校務のため帰国の途につくことになった。コペンハーゲン空港から成田空港までのフライトである。

行き同様,帰りもほぼ満席。前回は機内食で酒を頼めなかったが,今回は頼めたのでビールを頂きました。

実は,搭乗してからあるはずのものが無いことに気づいてハラハラしていた。「まあ,あそこにあるだろう」と高をくくっていたのだが,成田空港到着後に探しても見当たらずに血の気が引いた。

最後にそれを見たのはコペンハーゲンのホテルだったので,同じ宿舎に今日も泊まっている友人に夜中にもかかわらずメッセージ…。

ところが,バスに乗って落ち着いて探してみたところ,おみやげを入れていた紙袋の中に入っておりました…。相変わらずおっちょこちょいである。

そして,現在は羽田空港。

帰国早々刀削麺と小チャーハンという炭水化物祭りである。空港でこの記事を書いているが,日本は暖房が効きすぎなような気がする。もう春なのだから暖かいのかもしれないが,このラウンジで北欧仕様の服装はかなり暑い。

さあ,まもなくのフライトで福岡に戻ります。機内で2時間ほど眠れたが,そろそろしんどくなってきた。福岡までの機内で眠れると良いのですが。

今回の旅,あるいは深圳と北欧と続いたアントレプレナーシップ教育からの学びのふりかえりはまたいずれ。まあ,今まで言ってきたことの繰り返しになるかもしれないけれども,大目に言っていい線行ってるんだなと確認できたのが最大の成果かもしれない。ということで,今日はここまで。

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