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「見られる」ということの認知心理学 ~または私は如何にして心配するのを止めて撮影されることを愛するようになったか~

1. 見られるということの緊張感

 日本人の歴史的な病理として「見られる」「目立つ」というのを嫌う文化がある。これを語りだすと長くなるのでまた別の文章で書こうと考えてますが、基本的に社会的活動が増すほど「見られる」ということを好まない傾向が出てきます。これが人物撮影の時に大きな問題になってくる。この文章はどうやって視線を意識しているのか、そしてその延長上のどうやって写真撮影をされることを意識するのかという点を考察していきたいと考えています。

2. 視線をどうやって感じているか

2.1 近接場面での視線の感じ方

  •  これは直接眼を見て意識します(当たり前ですがw)もっと言えば瞳孔ですね。視線は瞳孔の位置を見て判断していますのでそういう意味では分かりやすいです。通常見られることや視線はこういう風に判断しています。それとカラコンつけているモデルさんはカラコンがずれていると視線がどこ見てるかわからなくなるので要注意です。日本人の瞳孔の大きさは平均11mmから12.5mmといわれており、視力1.0の人ならランドルト環の視力検査では定義として、5mで1.5mmを弁別できることから約40mまで瞳孔を弁別できる計算になります。

2.2 中距離から遠距離での視線の感じ方

  •  ある程度距離が離れると、必ずしも瞳孔の向きで判断しないようになりますし、40m以上離れていても視線が自分に向いているかどうかの判断は認知心理学的に可能になっています。じゃあ、どのように視線を判断しているかというと顔の向きなんです。顔の正面がどちらに向いているか(もっと言えば鼻の向いている位置、数学的に言えば顔面を楕円形に見立てた場合の垂線のベクトルw)、そしてその延長線上に視線が向いていると判断しているようです。

2.3 視線を感じない撮り方が必要とされるとき

  •  これは、ポートレートなどでも被写体が撮影慣れしていない場合(家族や友達、初心者のモデルさんなど)は視線をあまり意識しない撮り方が緊張を下げます。これは「見られる」ということに緊張感が付きまとうせいですね。またフィンランド出身の世界的写真家、ペンティ・サマラッティも「最も優れた写真家は、対象に影響を与えない観察者である」といってますので観察者として撮影する場合が視線を感じさせない撮影が有効だと思われます。

3.視線を感じさせない工夫

3.1 「視線の機械化」としてのレンズとカメラ

 ということで本論に入っていきたいと思います。まず、眼のメタファーとしてのレンズについて。レンズは「眼」の代理であるし、カメラという機械の入力部位でもあります。で、レンズの口径が大きい(概ねF値が小さい)レンズほど眼として強調されるので、強く視線として感じられます。ですので、この緊張を避けるのにはなるべく小さいレンズを用いるのが有効と思われます。レンズが瞳孔ならカメラは「脳」でしょう。見るという行為が最終的には後脳の視覚野に放散されることを考えるとカメラ自体が小さいほうが撮られるという緊張感は少なくなります。が、まあこういうこと考える人は少ないかもwww

レンズもカメラも小さいと「見られる」という緊張感は減少する。写真はLeica Sumaron 28mm F5.6+M10-P

3.2 EVFによる視線を意識させにくい工夫

 これは前の章でながながと説明していた通り視線の感じ方の延長になります。すなわち、顔の向きを被写体に直接向ける(正立させる)ことを避けると見られる・撮られるという緊張感を軽減することになります。EVFがつけられるカメラでEVFの角度が調整できるような場合は下の写真のようにして構えるとフォトグラファーの顔の正面が被写体と正立せずに済むので見られるという意識・緊張感は緩和されます。まあ、勿論カメラの知識がある人にはこれで撮影していることはわかりますが、直感的・感覚的には緊張を緩和できます。ただどうしても目のメタファーであるレンズは正立しますのでその兼ね合いになります。

Leica M10-P+Visoflex(EVF)。これで上から覗き込むように撮ると顔と顔が成立せず緊張感を緩和できます。これだとちょっとバランスが悪いですが、Super Anguron 21mmなどではバランスがよく撮影しやすいです。超広角だと寄ることが多いので顔が正立していないのはさらに有利。

3.3 背面液晶による視線を意識されにくい工夫

 これは前項と同じやり方ですね。液晶が稼働できる場合は水平にして上から液晶を見て撮影すると、撮影の緊張感が緩和できます。自分が撮ってもらうと、これって撮影していると感じるよりなんだかカメラをいじっているように見えてしまって別の意味でとれてるかどうか心配になりますがw

Fujifilm GFX100Sでの液晶での撮影方法。上から覗き込むようにして液晶面でフォーカスの指定ができるので便利
ただし、レンズやカメラが大きいためどうしても撮影されているという意識が避けられない

3.4 シャッター音の問題

 さて先ほどから視覚的なものばかりを上げてきましたが、実は聴覚的なものもあります。それがシャッター音です。おおきいシャッター音はどうしても撮影を意識してしまいますので、消音ができるものやシャッター音自体が小さいカメラを選ぶことが大事です。

3.5 その他の工夫

 それ以外の方法としては、ノーファインダー(ノールック)などもありますがこれは偶然性にゆだねることが多いので好き好きでしょう。また、フイルムの2眼レフやハッセルは「心が写る」といわれますが、どちらもファインダーを上からのぞき顔を正立させない撮影スタイルなので被写体の緊張感が緩和されている可能性があります。ヘルムートニュートンなんかは割とそう感じますね。また、ヴィヴィアン・マイアーはローライ使っていたのでそのあたりも影響してそうです。

4. 視線・撮影を意識してもらうには

 これは3番の逆をしてもらうと概ねうまくいくと思います。撮影慣れしたモデルさんなどはその方が「撮られやすい」でしょう。大きなレンズ、大きなカメラはフォトグラファーが今どこを撮っているのかがわかりやすく、その画角内で映えるポージングが提供できますし、おおきなシャッター音はポージングを変えるキューの役目になります。それとストロボ撮影は嫌でも撮影を意識しますのでベテランほどやりやすいでしょう。特に大型ストロボほど商業っぽくてのってくれるモデルさんもいらっしゃいますね。

5. 最後に

 視線の感じ方、撮影の緊張の緩和などまとめてみました。僕自体は割と撮影慣れしたモデルさんが多いので最近はあんまりこういう技は使っていませんが職場で撮影するような(半分仕事のようなw)場合はこういうことを意識してやっています。つたない文章・思い込みの強い論理展開ですが(汗ん)、ご参考になれば幸いです。


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