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日本の今後の核政策はどうなっていくのか?

今回も「War On The Rocks」から。日本人の太田正勝氏が投稿していたので紹介させていただきます。
太田正勝 共同通信社シニア・エディトリアル・ライター。テレビ朝日「報道ステーション」のコメンテーターとしても活躍中。

反核兵器の立場から書かれたレポートです。日本の知識人と呼ばれる人たちはこういったレポートを海外に投稿されています。


原子爆弾投下以降、安倍政権以降、米大統領選後の核政策

安倍晋三首相は8月6日、日本の2つの都市に投下された原爆の被爆者を前にをした。そのうち広島市は同日、核攻撃から75周年を迎えた。コロナの影響で参加者が減ったが、平和記念公園での式典では安倍首相のメッセージを、被爆者は熱心に耳を傾けていた。

「唯一の戦争被爆国として、「核兵器のない世界」の実現に向けた国際社会の努力を一歩一歩、着実に前に進めていくことは、我が国の変わらぬ使命です」

あいさつの中で、安倍首相は非核三原則の約束を忘れていなかった。この堅実な国是は、安倍首相の大叔父である佐藤栄作首相(当時)が1960年代後半に公式に宣言し、策定したもので、1974年にノーベル平和賞を受賞したのも、この非核宣言政策のおかげである。

しかし、被爆者や平和を愛する支持者の強い願いとは裏腹に、日本は約8年間、近代日本史上最も保守的で軍事的な首相の一人である安倍首相が統治し、主要な同盟国である米国の『核の傘』への依存度がますます高まってきている。

この傾向の主な理由は、2つの地政学的要因である。一つは、東シナ海の尖閣諸島の領有権を固く主張する中国の積極的な軍拡である。第二に、北朝鮮の核・ミサイルプログラムの拡大である。ドナルド・トランプ米大統領は、不完全ではあるが、よく言われる二国間首脳会談のプロセスを経て、これまでのところ、これを覆すことに失敗している。

一つの事実は、安倍政権が推進してきた核依存政策が、国民の大多数が核兵器全般に反対し、2017年に国連で採択された核兵器禁止条約に署名・批准することを望んでいる日本のジレンマとアンビバレンスを深めていることだ。

この点に関する国民感情は、8月6日の同じ式典での別の声明によって雄弁に裏付けられた。湯崎英彦広島県知事は、安倍首相のあいさつの後に「絶対破壊の恐怖が敵攻撃を抑止するという核抑止論は、あくまでも人々が共同で信じている『考え』であって、すなわち 『虚構』に過ぎません」とあいさつをした。


トランプ大統領の『核の約束』

ここ数年、日本が米国の『核の傘』への依存度を高めていることを最も象徴する政治シーンは、2017年2月10日、安倍首相とトランプ大統領が『日米共同声明』を発表した時に見られた。

そこには、「揺るぎない日米同盟は、アジア太平洋地域の平和、繁栄、自由の礎である」と書かれている。核・通常兵器を問わず、あらゆる米軍の軍事力を駆使して日本を守るという米国のコミットメントは揺るぎないものである」としている。

安倍首相とトランプ大統領の2017年初の公式首脳会談の最重要議題の一つが北朝鮮だった。両首脳がマーラーゴで会談していたのと全く同じ時期に、北朝鮮は中距離弾道ミサイル「ムスダン(舞水端)」の改良版とみられるミサイルを発射した。会談は、2016年以降、一連のミサイル実験を加速させた同国の核の脅威に影を落としていた。

そんな中、安倍首相とトランプ大統領は共同声明を発表した。日本のトップが米大統領に、公の場で米国の核保有を通じた日本の安全保障を求めたのは史上2度目である。

1度目は1975年8月6日、当時の三木武夫首相とジェラルド・フォード米大統領が「米国の核抑止力は日本の安全保障に重要な貢献をしている」ことを確認した日米共同声明を報道機関に発表したことであった。

日本の政策立案者は、特に北朝鮮との緊張が高まる中で、トランプ大統領の安全保障同盟へのコミットメントに懸念を抱く理由があった。2016年の選挙運動中、トランプ大統領は「しかし、もし米国が攻撃されても日本は私たちを助ける必要は全くない。日本人は米国への攻撃をソニー製のテレビで視ることができる。これが小さな違いか、どうだ?」とツイートした。

トランプ大統領は、日米安全保障同盟を批判した初めての米国大統領だった。約75年前にアメリカの占領下で起草された平和憲法の下で、日本は日本の領土外での米軍の戦闘行動に直接関与することを禁じられている。

このような状況下で、安倍政権の安全保障政策のエリートたちは、トランプ大統領就任のごく初期の段階で、一連の米政権が約束した核抑止力を再確認しようと最善を尽くした。その努力が実を結んだのは、トランプ大統領自身が「核の傘」の信頼性と有効性を再確認する共同声明に関与したときである。

トランプ大統領が共同声明が米国の抑止力コミットメントの意味をどの程度理解していたのかを知ることは非常に困難であったが、日本の安全保障関係者は、日米間の「核の絆」を強化すると思われる重要な声明に安堵していたに違いない。


トランプ大統領の核戦略の見直しに「高い評価」

最初の安倍・トランプ首脳会談が行われてからほぼ1年間、日本政府は、日本を守るための米国の核コミットメントを再確認するための別の措置を試みた。

2018年2月3日、当時の河野太郎外相は、米国への明確なシグナルとなる簡潔な声明を発表した。それには次のように書かれていた。

米国の「核態勢の見直し(NPR)」の公表について(外務大臣談話)

2月2日(米国東部時間,日本時間3日未明),米国防省は,「核態勢の見直し(NPR: Nuclear Posture Review)」を公表しました。

今回のNPRは,前回のNPRが公表された2010年以降,北朝鮮による核・ミサイル開発の進展等,安全保障環境が急速に悪化していることを受け,米国による抑止力の実効性の確保と我が国を含む同盟国に対する拡大抑止へのコミットメントを明確にしています。我が国は,このような厳しい安全保障認識を共有するとともに,米国のこのような方針を示した今回のNPRを高く評価します。

河野氏の声明は、トランプ政権が核体制の見直しを公表した翌日に発表された。日本の意図は非常に単純明快だった。北朝鮮による度重なるミサイル発射と、急速に近代化する中国の軍事力という危険な状況に直面した安倍政権は、トランプ政権の核政策を全面的に支持する姿勢を示すことで、日本の安全保障が米国の核拡大抑止力に大きく依存していることをワシントンに再確認しようとしたのだ。

しかし、この「核態勢見直し」には、いくつかの物議を醸している点が含まれている。海軍の戦略潜水艦への低出力核弾頭の導入を提案していること、敵の戦略的サイバー攻撃に対する核報復の選択肢を排除していないこと、包括的核実験禁止条約の上院批准に反対していることなどである。

特に最後の点は、日本政府にとって政治的に不可解な点である。オバマ政権下では、米国はこの重要な軍縮アジェンダについて日本と連携して同じ目標を掲げていたが、トランプ氏はその方針を覆した。

先日、安倍首相の最後の防衛相を務めた河野氏とこの問題について話をする機会があったので、「包括的核実験禁止条約(CTBT)の批准を全面的に否定しているのに、なぜトランプ大統領は核体制の見直しを高く評価する発言をしたのか」と聞いたところ、河野氏は「トランプ大統領は、日本が核実験禁止条約(CTBT)を批准する可能性を否定しているからだ」と答えた。トランプ政権の核政策を支持する同盟国のテコ入れを利用して、当時のレックス・ティラーソン国務長官を説得し、条約に関するトランプ政権の立場を変えさせようとしたと説明した。

私の知る限り、日本はトランプ政権の核体制見直しを明確かつ全面的に支持することを表明した最初の国である。日本の外交関係者は、トランプ政権に核軍縮に前向きになってもらおうと外交的な計算をしていたが、河野氏はそれを実現できなかったようだ。

この逸話は、日本の核政策のアンビバレント性を思い起こさせる。河野氏は、米国との「核の絆」を強めれば、日本が重視してきた核軍縮政策に対する日本の政治的影響力が高まることは間違いないと考えていたかもしれない。しかし、河野氏が直面した現実は暗いものだった。


口だけの核兵器禁止

広島、長崎の両市長は75年の式典で、核兵器禁止条約の署名・批准を安倍首相に一声で強く訴えた。しかし、安倍政権はこの禁止条約とその熱烈な支持者である被爆者に冷たい態度をとってきた。(長崎では、式典の最前列の席に座って、田上富久市長の平和宣言に耳を傾けている安倍総理の姿がよく見えた。しかし、安倍は長崎でも広島でも核兵器禁止条約には全く触れていない。)

2017年、安倍政権は、日本国民の間で核兵器禁止条約への幅広い支持があったにもかかわらず、国連での核兵器禁止条約採択に向けた多国間交渉プロセスに参加しなかった。共同通信が2016年11月に実施した世論調査によると、日本国民の71.1%が日本が条約交渉に参加すべきだと考えている。

日本の政策担当者は、2017年に安倍政権が条約への参加が日本の安全保障環境を損なうと判断したことを示唆している。

条約に反対する核保有国と条約を支持する非核保有国の間に深く深刻な分裂があったことも要因の一つだ。しかし、東京が核禁止条約を拒否し続けている最大の理由は、米国の「核の傘」に依存していることにある。

日本の関係者は、この条約を支持することで、2017年2月に安倍首相とトランプ氏が発表した共同声明によって再確認された日米の「核の絆」を傷つけてしまうことを恐れたのではないだろうか。

安倍首相とその安全保障政策のエリートたちは、条約交渉に参加しないことを決めたことについて、日本の反核の国民からの強い反発を予想していたに違いない。にもかかわらず、「核の傘」の唯一の保証人である米国との二国間安全保障関係を条約参加よりも優先すべきだという明確な判断をしたのである。

このエピソードは、日本の核政策の一貫性と両義性の両方に光を当てている。また、もう一つの現実も明らかにしている。日本のジレンマは深まっており、いまだに反核の強い国民と「核武装勢力」の同盟国との間に挟まれている。


今後どうなっていくのか?

日本の安全保障関係者は今、バイデン政権の核政策がどのようなものかを考え始めている。

オバマ大統領は歴史的な広島訪問の後、核の「先制不使用」政策を真剣に考えた。しかし、日本が核兵器禁止条約の交渉に参加しなかったのと同じ理由で、米国の「核の傘」を維持するために、日本をはじめとする同盟国が反対したため、この政策は失敗に終わった。

言うまでもなく、バイデンは先制不使用を最後に推し進めた政権下の副大統領である。バイデンもまた、任期の最後の最後にオバマに代わって世界に向けて重要なメッセージを残した。2017年1月11日、ワシントンで開催されたカーネギー基金の会合で、バイデン氏は米国が先制不使用を採用する可能性があるとの考えを述べ、「我々の非核能力と今日の脅威の性質を考えれば、米国による核兵器の先制使用が必要であるか、あるいは意味をなすであろう、もっともらしいシナリオを思い描くのは難しい」と述べた。

バイデン氏は今年初めのフォーリン・アフェアーズ紙の記事でも、同じような主張をしている。「2017年に述べたように、私は米国の核兵器の唯一の目的は、核攻撃を抑止し、必要であれば、核攻撃に対する報復であるべきだと考えている。大統領として、私は米軍と米国の同盟国と協議しながら、その信念を実行に移すために努力します」と述べた。

もちろん、彼が言及した「米国の同盟国」には日本も含まれている。11月3日以降、日本のアンビバレントな核政策はどうなるのだろうか。安倍首相が退陣しても、菅義偉氏をはじめとする安全保障意識の高い後継者が政権を握っている限り、大きな変化はないだろう。


雑感

反核兵器の立場から書かれたレポートです。ある程度海外向けに取り繕った文章になっていますが、日本周辺の情勢を論じた文章は全く出てきません。また、理論的に論じ提言することもありません。バイデン政権は反核兵器を一歩すすめてくれそうだけど、日本の政権は反対するよね。が、結論です。普段、紹介しているレポートと明らかに違うのはこの2点でしょう。

こういったレポートは世界に発信され続けています。このレポートだけでは日本という国に影響を及ぼすことはありませんが、発信され続ければ影響を与える可能性もあります。

核兵器は最終的に根絶させるという理想はとても素敵なものだと思います。ただ、それにより国民が大きな不利益を被る可能性があるのなら、まずは現実を直視することから始めなければいけません。

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