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心象風景

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2019年12月の記事一覧

ある山道を車で走っていました。
カーブで速度を出しすぎた車はガードレールを突き破って谷底へと真っ逆さま。
音は聞こえない、
車の飛ぶ音もフロントガラスが割れる音も聞こえない。
彼の声だけが聞こえた。

「ごめん」

それはまるで桜の花びらが落ちるのを見ているように
ゆっくりとした時の流れだった。
谷底に落ちるこの瞬間はこんなにも心穏やかなのか。

「愛してる」と私は言った。
そして首の後ろに手を回

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舞台

ステージに出る時間が近づく、
セリフが頭に入らない、どうしよう。全然覚えられていない。
スポットライトが当たる、下手な演技をする。

左右に揺れながらわざとらしい感情表現で
覚えてきたセリフを声に出す。
ああ、自信がない、今すぐ舞台の袖へひっこみたい。
今のこの瞬間はきっと思い出したくない思い出になる、そう思った。

次の瞬間セリフを忘れた。
このつぎのセリフが見つからない。
顔から火が出るほど恥

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金色の卵

金色の卵を家で飼っているニワトリがうみました。
金色の卵は普通の卵より一回り小さいです。

子供はそれを持ってはしゃぎました。

卵は縮んで小さな種くらいの大きさになった。
それでも気が付かず種を頭の上に掲げて、父親と妹とはしゃいでいました。

その姿をニワトリの隣で眺めている私は、その卵が腐ったから小さくなったんだと思いました。
腐ったから小さくなっていて、そこに金色が塗られているだけなんだって

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心象風景を追うことは死を招くか

心象風景は追いかけてはならないのだろうか
心象風景は居場所とはなりえないのだろうか。

薄暗く静かで肌寒い時計の針の音だけが響くような場所は
探しても見つからず遠ざかる。

死んだらこういう場所にたどり着くのだろうか、
それともこれも想像の賜物なのかしら。

心象風景が見られる日はくるのだろうか。