真っ暗な楽園から。2

 ある女の子のお話です。女の子は田舎町の小さなお家で,お母さんとお父さんに大切に大切に育てられました。

 女の子が2歳になった頃です。いつもと何も変わらない日常の中,お母さんは女の子に言いました。「抱っこしてあげるからこっちおいで。」普段の女の子なら喜んで抱っこしてもらいに行くのに,この日は「大丈夫!だってママのお腹には赤ちゃんがいるから!」と断ったのです。
 それを聞いたお母さんはとても驚きました。お腹が出始めた訳でも,吐き気など体調が悪い訳でもありません。なぜ女の子がそんなことを言ったのかわからず,「何言ってるの?赤ちゃんいないし大丈夫だよ。おいで?」と言っても女の子は抱っこされるのを頑なに断り続け,「赤ちゃん楽しみだなぁ。」と言うのです。

 それから少し経った頃,お母さんは女の子を連れ近くの病院へ行きました。「妊娠されてますね。おめでとうございます。」お母さんのお腹の中には赤ちゃんがいたのです。「だから言ったでしょ?」女の子は得意げに笑いました。

 女の子は生まれてくる赤ちゃんをとても楽しみにしていました。「赤ちゃんはね,ーーちゃんって言うんだよ。」お母さんは笑って「まだ女の子か男の子かもわからないよ?」と言っても「女の子だもん。」と楽しそうにお腹に話しかけます。病院へ行ってもお腹の子を「ーーちゃん」と呼ぶので,お医者さんも女の子だといいねと笑って言ってくれました。

 妊娠から4ヶ月ちょっと経った頃,病院へ検診に行くと性別がわかりました。女の子です。女の子はまた得意げに「だから言ったでしょ?」と笑いました。その夜お父さんとお母さんはどんな名前をつけようか沢山話しました。「予定日が6月だからあめのつく名前とかどうかな?」「それはもしかしたら暗い感じしちゃうんじゃないかな?」「じゃあ愛のつく名前は?愛がある子に育ってほしいし...。」
 名前の候補が決まっても,女の子はお腹の赤ちゃんをずっと「ーーちゃん」と呼び,病院の人まで「ーーちゃん生まれてくるの楽しみだね。」「ーーちゃん元気に動いてるよ。」と女の子に話すのです。

 6月〇日,お母さんの陣痛が始まりパチンと弾ける音と共に水が全部出てしまいました。お母さんは病院に破水したことを伝え,ゆっくりと病院に向かいました。分娩台にのりキリキリと音を立てて20分,助産師さんが「あーっ!」と叫び言いました。「この子全然血ついてないし目あいてるよ!ほら!」とお母さんの目の前に赤ちゃんを持って見せました。

 6月11日生まれてきた赤ちゃんは,女の子がずっと呼んでいた「ーー」と名付けられましたとさ。

おしまい

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