僕の。僕だけの。


「これからこの子も一緒に住むことになった。」
君から突然言われた言葉に困惑する。僕と君2人だけで十分楽しくて幸せだったのに,どうやらそう思っていたのは僕だけだったらしい。てか誰だそいつは。僕は君だけなのに,君は僕だけじゃなかったのか。だけど大好きな君に言うことを聞けない悪い子だって嫌われたくないから,無理矢理つくった笑顔で聞き分けのいい子を演じ承諾する。





あいつが来てからの日々は最悪なものだった。いつもだったら僕と過ごしていた時間があいつに使われて,君と過ごす時間が減ったのだ。しかもあいつは手がかかるからって理由だけで,君と僕との時間を奪う。僕も手がかかるようにすれば君はこっちを見てくれるのだろうか。憎らしいあいつが早く出ていきますように。と,君を取られた嫉妬心から小さな意地悪をする。





「そんなにあいつが大事なら,もう僕に構わなくていいよ。」

僕があいつにこっそりしていた意地悪がどうやらばれてしまったらしい。泣いてるあいつを庇う君を見たくなくて,僕は真夜中にサンダルを引っかけて衝動的に家を出る。向かう場所は近所の橋。ここから君とぼーっと下を見て,たまに通る電車の音を聞きながらゆっくり話す。そんな2人だけの夜の時間が好きだった。

「やっぱりここにいた。帰ろう。」

ほら,君は優しいから来てくれると思ってた。だから君が見つけやすいように,自分勝手な僕は思い出の場所を利用した。君と手を繋ぎ,下を見すぎて疲れた首を上にあげて,綺麗な星を見ながら家に帰る。君を困らせてしまった少しの罪悪感と自己嫌悪には気づかないふりをして,2人だけのこの時間,この瞬間を噛みしめる。


そうか,君との時間を過ごすにはこうすればよかったのか。学んだ僕は夜中に度々家を出ては,追いかけてくれる君の優しさを利用して,安心感を得る。大丈夫。まだ君の中に,僕の居場所はちゃんとある。





「どうせ僕は邪魔者なんだろ。」

衝動的にキッチンから包丁を取り出して,僕なんていない方がいいのだと騒ぎ立てる。こうすれば君が止めてくれるのを分かってやっているし,思った通りあいつを置いて何かあったか聞いてくれる。そんな君の目に映っている僕はなんて滑稽で見苦しいのだろう。

僕だって別にこんなことしたいわけでも,君を困らせたいわけでもない。ただ僕を見てほしくて,甘えたくて,ただそれだけなのに。どうしたらいいのかその方法が僕にはわからない。だからそんな泣きそうな顔で,寂しい思いさせてごめんねなんて謝らないで。きっと君は僕にちゃんと愛情をくれている。それなのにもっともっとと欲張る僕が悪いんだ。

君を困らせる度に溢れ出てくる罪悪感と自己嫌悪。気づかないふりをしていたけどどうやらもう抑えきれないみたい。弱くてごめんなさい。いつの間にか悪い子になってしまった僕を,こんな事しないと君の気を引けない僕をどうか嫌わないで。




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