あと1歩
些細な一言で全てが崩れ落ちていく。
自分が今まで必死にやってきたものは,案外意味がなく傍から見ると大したものではなかったようだ。
やめちゃえばの一言でやめられるのであればとっくにやめている。やめられなくて,やらなきゃいけないことを理解しているから苦しいんだ。私はまた,貴方の感情の吐け口に使われる。
学校の階段をゆっくりと上がって屋上への扉を開ける。冬になりはじめた外の空気はとても冷たくて痛い。この前までこの時間の空は赤かったのに,気が付くと藍色に染まっている。
空が黒に染まるにつれて自分だけがその時間に置いてけぼりになっているのではないか,立ち止まっているのは自分だけなのではないかと気持ちが焦る。
重い足を少しずつ動かして手すりにふれ下を見る。さっきまで騒がしかったグラウンドは誰もいなくてとても静か。あの部活,この時間には終わっているのか。教室の電気も消えて,学校の看板だけが自分を主張するかのように光っている。
「案外高いんだなあ。」
呟く私の声はちょうどよく通った電車と風の音でかき消される。
ここから思いっきり叫んだらすっきりするのだろうか。否こんなところで叫べる勇気など私にはない。そもそも何を叫ぶというのか。この感情をうまく言葉にすることもできないし,だからといって無意味語を叫ぶのもまた違う。そんな事を考えながら私はまたぼーっと下を見る。
なんだか寒くなってきた。何してるんだろう,早く家に帰らなきゃ。
階段を降りながらつぶやいた私の声は,建物と脳に反響して鮮明に聞こえる。
「次こそは。」
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