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2023年12月~2024年2月のアルバム感想&好きな曲

年末に年間ベストアルバム記事を書いていると、どうしてもそれに漏れた隠れた名作について触れることができません。3か月に1回こうしてアルバム感想記事を書くことでそういったアルバムを救済していきたいと考えています。


Nicki Minaj 『Pink Friday 2』

 前作の『Queen』リリースから約6年ほどのブランクを経てリリースされたNicki Minajのアルバム。前作リリース時から大きくラップシーン、特に女性ラッパーを中心にシーンが様変わりしたので、2010年代からその中心的でパイオニア的な存在であったNickiがどんなアルバムで勝負してくるのかと楽しみであった。ただ同時に2023年は一部を除いてラップ(とりわけトラップ)が下火になったということがあった。ただ逆に言えばゴリゴリのトラップで勝負しなくても、Nickiが初期に『Pink Friday』『Pink Friday : Roman Reloated』明るいまるでピンク色みたいなラップが受け入れられる土壌がまたできたということでもあった。また2023年は映画『バービー』の社会的ヒットも起因してオルターエゴ的にバービーというペルソナを付けていたNickiに再注目されることも何かと多かったし、それゆえ『バービー』サウンドトラックへの参加もあっただろう。じゃあ肝心のアルバムの中身は?というと、まあいくら『Pink Friday 2』を名乗っていても、テイストの違う明るいNickiが戻ってきた感じだ。大胆にBillie Eilishの"When The Party's Over"をサンプリングした、"Are You Gone Already"ではNickiのお子さんの声が。自身の父親と自分の子どもの父(つまりNickiの夫)について触れている。この感じの始まりは『The Pink Print』を彷彿とさせる。続く"Barbie Dangerous" "FTCU"ではNickiのゴリゴリの早口ラップが聞ける。短い曲の中にあらゆる言葉を詰めるのはさすがだ。シーンに女王Nickiが戻ってきたことを高々と宣言しているようにも聞こえる。"FTCU"のヒットも嬉しい。"Fallin 4 U"ではミドルテンポでコーラスではNickiの甘い歌声も聞ける。よくよく考えればNickiはこういうコーラスも自分で歌っていたのも強かったですよね。ここにもDoja Catへの系譜を感じる。J. Coleが参加した"Let Me Colm Down"では甘いラブソングでJ. Coleがウィル・スミスについて言及している場面も(少し皮肉っぽい見方もできる)。そのままLil Wayneが"RNB"に流れる形で、タイトルにあるようにメロウなR&Bの曲調にラップを乗せるスタイル。新しいスタイルに挑戦している感じも伝わってくる。旧友であるDrakeが参加している"Needle"はハウスっぽさを出している。"Cowgirl"は本当に分かりやすいポップラップでテイストとか歌詞が所謂カントリー調で少し幼稚っぽいところが逆に魅力的に聞こえる。トラップ、ドリル、R&B、ハウス、カントリーと1つのアルバムに多種多様なここ数年でシーンを席巻したサウンドを取り入れているのがアルバム中盤まで聞いていて分かる。Lil Uzi Vertが参加した"Everybody"はちょっと驚くが、この明るさと唐突の無さが実は『Pink Friday 2』の根幹にあって、このアルバムの方向性をこの1曲に集約している。"Forward From Trini"ではNickiの故郷トリニダードトバゴに思いをはせている。そして続く"Pink Friday Girls"ではCyndi Lauperの"Girls Just Wanna Have Fun"を大胆にサンプリング。実は昔NickiはKaty Perryと一緒にこの曲をライブでカバーしたこともあるのだが、それにしてもこのサンプリングには驚いた。NickiとCyndiも好きな私には嬉しい曲だが、サンプリングというかほぼそのまま曲にNickiがラップをのせているので雑な気もする。そしてそのまま"Super Freaky Girl"に続く。この曲の大ヒットも記憶に新しいが、まさか本作に収録されてるとは。そしてまたまた驚きのBlondieの"Heart of Glass"をサンプリングした"My Life"。まあ確かにこの曲が収録されるなら"Pink Friday Girls"のCyndi Lauperサンプリングもありかな。おそらく"Girls Just Wanna Have Fun" "Super Freaky" "Heart of Glass"はNickiが子ども時代に聞いていた曲なのかもしれない。Futureが参加した"Nicki Hendrix"は王道のトラップ。一つのアルバムにDrake, Lil Wayne, J. Cole, Lil Uzi Vert, Futureが参加できるのも女王の風格ゆえか。アルバムから1stシングルのような形で先行リリースされた"Last Time I Saw You"。こうしてアルバム通して聴くと、このアルバムの魅力を上手に集約した曲だったんですね。ちょっと"The Night Is Still Young"を彷彿とさせるのが嬉しいですね。22曲と少し胃もたれする曲数ですが、どうしてもアルバム通して弱い感じがあって、それをカバーするための曲数の多さと12月リリースという謎なリリース時期なのが残念です。それでもやはりラップの上手さは抜きん出ているし、サウンドも今まで以上に自由で面白いアルバムだ。


Tate McRae 『Think Later』

 2000年代にたくさん見られた踊れるポップスターやR&Bスターの音楽を正統に光景した感じのあるTate McRae。MVやパフォーマンスもBritney Spearsを思い出す人は多いはず。前作のポップロックなサウンドが好きだった私にとっては"Greedy"や"Exes"は初めは受け入れられづらい感じがあったのですが、ただ悪いものがこんなに大衆で受け入れられるわけがないので、世間的にも歌って踊れるスターに枯渇していたところに丁度Tateが上手く入った感じですかね。一つのアルバムに何人ものプロデューサーが絡んでくるあたりもちょっと2010年代っぽいですね。ただこういうアルバムってどうもアルバム通して聴くことができないんですよね。


Lolo Zouai 『Crying In The Carwash』

 SlayyyterとShygirl経由でLoloのことを知りましたが、本作は去年の12月にリリースされたEPです。軽めに聞いてくれって感じですね。私のエレクトロ系への知識不足もあって、上手い感想が浮かびませんが、自分の直感を信じて言うと、まあ聞きやすいアルバムだと思います。ただLoloは自分でプロデューサーもするくらい曲作りに深く関与しているので、それだけで評価できてしまいますね。


MIKA 『Que ta tete fleurisse toujours』

 MIKA初の全編フランス語アルバムです。アルバムタイトルの意味は「あなたの頭の上にいつも花が咲きますように」。タイトル通り、というかいつものようにMIKAワールド全開の明るいポップスが多くおさめられていて聞いていて楽しい。"Bougez"は『The Origin of Love』に収録されていてもおかしくないエレクトロポップ。"Jane Birkin"は2023年に惜しくも亡くなられたレジェンドのジェーン・バーキンを讃えているかのように自由に生きることの渇望を取り上げている。"Sweetie Banana"はトロピカルハウスで、続く"Apocalypse Calypso"でも南国な雰囲気を追及している。"C'est la Vie"は本作からのリードシングルになっているだけあって、本作の要素をすべて詰め込んでいる。コーラスで繰り返される「人生はそういうものだから」という歌詞はシャンソンのような世界観だが、少しDoris Dayの"Que Sera, Sera"も思い出したり。後半はミドルテンポやバラードが多く占めている。フランス語曲でもしっかりMIKAの曲だなと認識できるので、唯一無二なポップな世界観を確立している素晴らしいアーティストであることを再認識させられるアルバムであった。


Park Hye Jin 『Sail the Seven Seas』

 韓国出身のプロデューサー兼DJのPark Hye Jinの新作です。アルバムタイトルやリードシングルの"Foreigner"でも分かるように、7つの海を渡っている、その国に属していない感覚、いわゆる外からやって来た感覚で作られたアルバムのようです。サウンドはまあ前作の延長にある感じですが、もうちょっと派手に決めてくれても良かったかなと言うのが正直な感想。同じく韓国出身でオタクっぽいYaejiが2023年にかなりマス受けを狙った良いアルバムを作ってくれたので、Park Hye Jinにもそれを期待したいです。


The Smile 『Wall Of Eyes』

 もうこんな高難度で完成度が高いアルバムを作っちゃったら、Radioheadでますます新しいアルバム作れないじゃんと思ってしまうくらい凄いアルバムだ。逐一の音が洗練されていて、驚いたよ。オーケストラの使い方なんて痺れたよ。あー悔しい。Radiohead名義でリリースしてもいいじゃん 笑。


Sara Jarosz 『Polaroid Lovers』

 確か彼女のこと女性シンガーソングライターを紹介する本を通して知った。一瞬カントリーにルーツがあるのかなと思いきや、本作では(過去作でも)キャッチーなバンドサウンドでした。"Jealous Moon"では失恋した自分を月に見立てている。"When The Lights Go Out"ではアルバムのタイトルにもなっているPolaroid Loversという言葉が登場する。キャッチーだけど、どこか悲しい歌。"Runaway Train"では自分かまたは誰かを暴走する列車に例えている。こうして聞くとSara Jaroszはバンドサウンドでアメリカーナを作りたかったのだなと思った。"Columbus & 89th"では歌の世界をニューヨークに移していて、切ないアコースティック調な曲だが曲も後半に行くとカントリーになる巧みな構成をしている。今年はBeyonceがカントリーアルバムをリリースするし、かつてないほどカントリーやアメリカーナに注目が集まる年だと思うので、本作が本当に評価されるのはそれらのアルバムがリリースされ切った後半かもしれない。


Green Day 『Saviors』

 名盤『American Idiot』の共同プロデューサーであるRob Cavalloと再び組んだアルバム。先行リリースされた"The American Dream Is Killing Me"でも顕著なように、どうしても今年あるアメリカ大統領選挙の前にメッセージある曲を作りたかったいうのがビシビシ伝わってくる。それでもちゃんとポップでパンクで歌いやすい理解しやすい曲を作ってくれるのは見事だ。"Bobby Sox"では"私のガールフレンドにならない?ボーイフレンドにならない?"と同性愛にも言及しているのが嬉しい。MVでもバンドメンバーがボーカルのBillyにキスしているのが愛しい。"Dillema"ではすごく明るく曲調で死んだ男が歩いていると何度も繰り返されるが、この死んだ男はきっと家父長制のことだろう。死ぬ定めにあるはずの家父長制がまだ生きて我々人間の社会の中で歩き回っていることを歌っているようだ。アルバム後半もいつもの通りのGreen Dayで最後まで楽しんで聞くことができる。後はこのアルバムで歌われる恐怖が2024年後半に実現しないことを祈るばかりだ。


Sleater-Kinney 『Little Rope』

 ワシントン州オリンピアのバンドSleater-Kinney。紆余曲折あるもライオットガールムーブメントの中でも定期的にアルバムを発表しているバンドだ。メンバーのキャリーの実母と継父が自動車事故に巻き込まれたことから受けた心理的影響と世界的な危機を関連付けている暗く悲しい歌詞が続く曲が多いが、擦り切れたギターサウンドがどことなく背中を押してくれる。特に"Say It Like You Mean It"は新たな境地を目指すバンド自体のアンセムだ。シングルとして発表された"Hell"にはミランダ・ジュライ、"Say It Like You Mean It"J・スミス・キャメロンが出演しているのも本バンドのアイコニックさの証明だろう。


Kali Uchis 『ORQUIDEAS』

 2023年に『Red Moon In Venus』をリリースしたばかりなのに、1年もしないうちに新作をもうリリースしてくれました。曲作りによほど自信があるのか。本作では久しぶりにほとんどスペイン語で構成されているアルバムです。しかしいつも通りあらゆるバリエーションのスタイルある曲で構成されているのでカラフルな印象で聞いていて全く飽きないし、スペイン語がほとんど分からない私でも、聞いていて楽しい。2023年の8月に先行リリースされた"Munekita"は明らかにROSALIAの"BIZCOCHITO"を意識した曲になっていて同じラテン音楽をオルタナティブで新しいモノにしている同士の関係性を感じれて嬉しい。"Igual Que Un Angel"は本当にゴーシャスなシンセポップでディスコが好きな人はハマること必至。"Te Mata"はオールドスクールなスペイン語のポップスで、日本人からすると歌謡曲を聞いている気分。古今東西問わす、ちょっと前のロックが登場する前の歌謡曲みたいな雰囲気のある曲ってあるんですよね。コロンビアのミュージシャンKAROL Gとコラボした"Labios Mordidos"でラテン圏全体へオマージュを捧げているのも良いですね。他にもフラメンコ調のポップスやトラジョナルな曲やダンスホールやレゲエなどとにかくバリエーションが豊富。でもどの曲にも根底にはKali Uchisのアイデンティティを感じる要素(おそらく声だ)がしっかりあるのが凄い。


Marika Hackman 『Big Sign』

 4年前にリリースされたアルバムがカバーアルバムだったことを踏まえれば、Marikaがオリジナルアルバムをリリースするのは実に5年ぶりだ。インディミュージシャンにしたらこの5年の間は長いだろう。本人曰く創造性の枯渇状態だったそうだが、こうして新しいアルバムを聞くに、その枯渇状態からしっかり最高の状態で戻ってきたようで安心した。アルバム冒頭の"The Ground"からインストゥルメンタルミュージックでかつミニマリズム的なサウンド志向かと思いきや"No Caffeine"でしっかりバンド音楽へシフト。ただ歌詞はパニック発作に怯えながら恋人との虐待関係に怯えている。"Slime"でも引き続き次のステージへと進むことができない葛藤を歌っている。MVで騎士に扮していて、強く戦士でいたいけど自分のなかにある気弱性も捨てきれないMarikaの心の姿を表現しているようだった。10曲あるうちの内2曲は歌無しのインストゥルメンタル。それ以外の心がこもった8曲が素晴らしい。最近の女性インディシーンの活気さを見ているとMarikaもその恩恵を受けていいはずだが、どうも本作はあまり再生回数も伸びていないようで勿体ない感じが。アルバムが名作なだけにどうにか届くべきリスナーに届いてほしいと思う。


Elliphant 『TROLL』

 前作がパンク、ロック調だったのに対して本作ではElliphant本来のエレクトロ路線に戻ってきましたね。アルバムというにはあまりにも短い気がしますが、彼女の強みはしっかり生かされている曲が多いと思います。MVも作られた"THERAPY"は聴いていて元気を貰えます。こういう女性ミュージシャンが自由に活動できるのがそもそもスウェーデンの音楽シーンの強みですからね。


UMI 『Talking to the Wind』

 去年のサマーソニック出演から確実に日本でもファンを増やしたUMIです。本作はアルバムではなくEPでここ数か月でリリースされたシングルのまとめ的な意味合いが強そうですが、相変わらず曲は素晴らしいです。R&Bというより限りなくインディロックに共振しているのも今どきっぽいです。


Kid Cudi 『INSANO』

 まあ正直Kid Cudiの大ファンって程ではないのですが(ごめんなさい)、それでも本作の出来が微妙であるのはしっかり分かる。本人が100%出来に満足しても、なぜか1曲1曲がバラバラでコンピレーションアルバムみたいに聞こえる。


Lau Noah 『A Dos』

 実は全くLau Noahのことは存じていなかったのだが、Jacob Collier経由で知りました。まず純粋にLauの声に引き込まれましたね。世界各地で多くのミュージシャンとコラボしたのに、しっかり各曲にLau本人の個性があって素敵です。


The Last Dinner Party 『Prelude to Ecstasy』

  2023年にふと聞いた"Nothing Matters"で聴き惚れ。これはタダ物ではないUKの新人バンドが来るなと思っていたところにデビューアルバム。Kate BushやDavid BowieなどUKの先輩の息吹を感じさせつつ、女性バンドでFlorence + The Machineをやろうという、前衛さ荘厳さ派手さ。Maneskinもそうですが、ロックはもっとこうやって派手で良いんですよね。ロックにこそルネッサンスが必要。 ”Caesar on a TV Scream”はverseからhookまで4つの曲展開があって、それが全く不自然な感じがしない巧みさ。"Burn Alive"は「生きたまま焼いてほしい」というグロテスクナ欲望だが、もしかしたらこれは音楽業界で生きていくバンド自身の気持ちを歌っているのだろう。"Sinner"は"Nothing Matters"に続く曲としてリリースされた曲ですが、ピアノで始まりhookで最高に盛り上がる展開でこの曲でこのバンドの方向性が決まりましたね。"My Lady of Mercy"はバンドの多重コーラスが素晴らしい。バンド全員がコーラスを担当できるってかなり強みですね。とにかく素晴らしいアルバムで、その凄さにいち早く気付いたのかさっそくフジロックに呼ばれたというのがこのバンドが大物になる布石のように感じます。


Kim Petras 『Slut Pop Miami』

 2022年にリリースされた『Slut Pop』と地続きにある作品なのか、去年もオリジナルアルバムをリリースしたKimですが、かなりのハイペースで活動しています。まあそれを可能しているのは多くのプロデューサーが関わっているからですが、それでも聞いていて楽しいアルバムの合格点だと思います。ただ毎度思うのですが、どうにかしてDr. Lukeとの関係は絶ってほしいな思うのが本音ですし、Keshaのことを考えると『Slut Pop …』みたいなタイトルは普通つけないと思うのですが、そもそも曲作りにKimがどこまで関わるのか不明です。


Kanye West & Ty Dolla Sign 『VULTURES 1』

 最近のkanyeの問題発言が嘘のように思えるくらいここ数年の中でとても良いアルバムだと思います(「俺にはユダヤ人の友達がいる」みたいな歌詞は相変わらずですが)。もちろんKanyeのセンスもありますが、Ty Dolla Signが果たした役割が大きそう。特に後半の"VULTURES"と"CARNIVAL"は『My Beautiful Dark Twisted Fantasy』を思い出しましたからね。特に"CARNIVAL"のヒットは純粋に音楽に向き合ったKanyeを祝福するかのようにヒットしています。


Zara Larsson 『VENUS』

 EDMブームの時に名をはせたZaraですが、ソロになると苦戦しているのが現状ですが、2ndでもとても良いアルバムでヒットしてないのが勿体ないくらいです。本作でも相変わらず上質なポップスで構成されていますが、シングルカットされていない曲がいかせんあまり多くの人に届いていないような。明るいポップスにフェミニズムのメッセージをストレートに込めてくるZaraの姿勢は応援したいですね。日本盤が本作でもリリースしてくれればいいなと密かに期待。


Little Simz 『Drop 7』

 Little Simzが企画として毎年出している『Drop』シリーズも本作で7作目です。アルバムには入らないであろう力の抜けているような曲が中心のように見えますが、実は最近のリスナー傾向をするどく切り取ったアルバムです。本作では果敢にもアフロビートに挑戦したりと、楽しんで聞いてねって感じだ。


Brittany Howard 『What Now』

 バンドとしての成功、ソロとしての成功を通して心機一転し新しいレーベルへ。挑むサウンドの幅がとても広くなり驚くが、でもしっかりBrittanyの個性を感じます。前作よりカラフルな印象で(アルバムのアートワークも)、こないだのコーチェラのパフォーマンスも伸び伸びとしたゴッドマザーみたいな雰囲気で、本当にバンドにいた時は窮屈していたんだなと改めて感じた。


Usher 『COMING HOME』

 スーパーボウルのハーフタイムショーのパフォーマンスで踊れるR&B男性アーティストの復権かなと思ってたけど、ただ4月にもなってもその様子が見られませんね(まあスーパーボウルの話題は全部TSが持っていきましたけど)。でも新しいアルバムを作ろうという姿勢は同じく踊れるR&B男性アーティストのJason Deluroよりずっと評価できる。ただJ.Loのアルバム同様で変にトラップとか取り入れないほうが良いかなと。でもカッコイイ曲も多いですね。Summer Walkerとか客演のセンスはさすがです。


Shygirl 『Club Shy』

 これもオリジナルアルバムよりかは気軽に聞いてねって感じで、ハイペースで新曲作る創作意欲は凄いと思います。王道に乗りやすい曲も多くて、堂々とヒットを狙っている感じがありますね。


Paloma Faith 『The Glorification of Sadness』

 レトロテイストな曲とかこぶしがある歌声は相変わらず良い(RayeとかPaloma Faithの系譜だよね)。ブルーアイドソウルとかUKシーンの強みだなと(Adele, Amy Winehouse, Duffyとか)。リードシングルの"Bad Woman"はPalomaの良さが爆発しているけど、4thアルバム以降の弱さというか、どうしてもアルバム全体で他に良い曲が少ない。それを胡麻化すための曲数の多さなのかと思ってしまうくらいだ。もうJessie Wareみたいにガラリと変化してみても良いかな、声は素晴らしいものを持っているのだし。


Jennifer Lopez 『This Is Me…Now』

 ここ数年はシングルは小出ししていましたが、アルバムは久しぶり。ただ久しぶりに出すアルバムにしてはあまりに普通というか、シングル以外は微妙。変にトラップとか意識しなくてもいいのにな~。歌詞も私生活のゴシップありきの感じでベン・アフレックスと結婚できて良かったねって感じで、まあそうやってJ.Loはキャリアを形成してきたので文句はないし、嫌味な感じもしないのですが。ただMVは壮大で笑えるセンスでさすがだなと。


Jason Derulo 『Nu King』

 アルバムはリリースしていないが実はTikTokなどでシングルヒットを飛ばしているJasonが久しぶりにリリースしたアルバム。だけど30曲以上も収録していて、もはやベスト盤みたいな扱いで、どうしてもアルバムというフォームを軽視てしているように見えるのがどうも。Michael Bubbleと共演した"Spicy Margarita"は面白い曲だと思うよ。


Allie X 『Girl With No Face』

 大げさなゴシック様式と誇張された80年代のシンセポップがもはや芸術の域ですね。ちょっと馬鹿らしい歌詞も全く嫌な感じしない。前作より取っつき易いと思いますし、Tove Loと同じくもうちょっと売れてもいいアーティストだと思います。


Hurray For The Riff Raff 『The Past Is Still Alive』

 ラテンにルーツがありブルースやカントリーやインディロックなどアルバムをリリースごとに進化しているHurrayですが、本作は今年のトレンドであるカントリーやアメリカーナに挑んでいます。前作にあった疾走感が見られず少し残念ですが、しっとり聞かせて、その人の生き方がしっかり反映されている歌詞などカントリーの良いところが出ています。ただアメリカの音楽業界(特にカントリー)がHurrayのようなアーティストを売り出せる土壌を一ミリも持ち合わせておらず勿体ない限りです。


Laetitia Sadier 『Rooting For Love』

 彼女のことは女性シンガーソングライターを紹介する本で知りました。本作で初めてアルバム聞くのですが、フォーク系ではなくエレクトロ系のソングライターのようですが、バンドっぽいアレンジですごく聞きやすいです。


Friko 『Where we've been, Where We go from here』

 日本のXですごく話題になっていたので聞いてみたら、確かに日本で好まれそうなアレンジの曲が多いです。それを知ってか知らずか今年のフジロック出演をセッティングしたフェス側も素晴らしいセンスですね。


Residente 『LAS LETRAS YA NO IMPORTAN』

 IbeyiとSilvia Perez Cruz経由で彼のことは知りました。コンシャス系のラッパーで、とにかくアレンジがゴージャスでオーケストラを多用している曲が多くて良いですね。


次に好きだった曲を紹介します。ここで紹介した曲がおのずと年末のThe 100 Best Songs of に選ばれると思います。

"Take Me Home, Country Roads" Lana Del Rey 

 さっそく紹介する曲がカバー曲ですが、Lana Del Reyとあれば話は別です。今年リリースされるらしい彼女のカントリーアルバムの前日譚的な扱いでしょうが、しっかりピアノが利いていてLana Del Reyの曲って感じが出ています。ただ本作のカバーはコートニー・ラブはお嫌いなようですが。

"FTCU" Nicki Minaj

Fuck This Club Upの略ですが、その名に恥じないバンガーです。シングルカットしてMVを作れば良いのにな。

"Jane Birkin" MIKA

 MIKAの全編フランス語アルバムから1曲。実は3rdアルバム以降のMIKAの良さが全部出ている曲だったりします。ディスコ調なのにどこか切ない感じがJane Birkinへの追悼にもなっていて巧みな展開だと思います。

"Wall of Eyes" The Smile

 何回も言うけど、曲展開が巧み過ぎるんだよ。どこか不穏な感じがホラーっぽくて。RadioheadじゃなくてもうThe Smileで全力を出していくんですか?

"Runaway Train" Sarah Jarosz

 年末に向けて色んなカントリーアルバムが続々リリースされるだろうが、先にカントリーやブルースの良いところを名曲にしたSara Jaroszの名前を残しておきます。

"Bobby Sox" Green Day

 Green Dayはパンクですが全然マッチョじゃない。そこが良いんですけど、この曲なんてそのGreen Dayらしさが全面に出ている曲でしょう。

"Untidy Creature" Sleater-Kinney

 Green Dayと同じく90年代から定期的に活動を続けているバンドです。擦り切れたギターに「壊れている私を愛してくれる?」と何度も懇願してくる歌詞。

"Igual Que Un Angel" Kali Uchis

 ゴージャスなディスコに官能的なKali Uchisの歌声。洗練されたポップスとはまさしくこの曲のことだと思います。

"The Yellow Mile" Marika Hackman

 新しく出たアルバムで内省的で落ち着いた曲が多い中で、そのアルバムの雰囲気が一番出ているのがこの曲。おそらく死について書かれているのではないかと。

"HISS" Megan Thee Stallion

 昨年リリースした"Cobra"に続く蛇をモチーフにした一曲。名前を出さずともNicki Minajを怒らせた巧みさは目を見張ります。相変わらずラップのスキルは素晴らしいです。Nicki Minajがアンサーとして出した"Big Foot"も情けない感じで(最後の方とかただ喋っているだけだし)、このビーフは間違いなくMeganの勝利だと思います。

"Caesar on a TV Screen" The Last Dinner Party

 [Verse1] + [Pre-Chorus] + [Chorus] という曲の構成で、4回も曲調が変化するという複雑な構成。見事としか言いようがない。そんなドラマチックな曲構成と呼応するような演劇がテーマのMVもさすがです。

"Turn the Lights Back On" Billy Joel

 数年ぶりに新曲をリリースしてくれました。自分より幾分も年齢が離れたプロデューサーとの出会いがいい刺激になったようです。ただプロデューサーがBillyのファン過ぎるのか、特に目新しさもない感じなのですが、それでも美しいメロディに貫禄ある歌声は素晴らしい。ただその目新しさが少しAI生成した感じにも感じて、それを後押しするかのようなMVもちょっと驚きました。

"何色でもない花" 宇多田ヒカル

 サウンドは『BADモード』の延長線上にあるのですが、ミニマリズムと複雑なリズムを極めたらこんな新曲ができましたと言う感じで。このセンスと成長はちょっとありえないレベルで進化していると思います。

"CARNIVAL" Ye, Ty Dolla Sign

 いくらKanye Westが滅茶苦茶な言動をしても大衆や音楽ファンがほっておけない理由がこの曲に詰まっているというか、まんま2024年版『My Beautiful Dark Twisted Fantasy』じゃないか。やはり私もまだまだ音楽が良いと本人の問題発言を許してしまいがちになってしまいます。

"You Love Who You Love" Zara Larsson

 ディスコやシンセのテイストにZaraらしい男性の不誠実を女性側に忠告するポップソングです。

"Mood Swings" Little Simz

 アルバムよりかは気軽に聞いてよという感じでリリースされたEPからの一曲。巷で流行しているアフロビーツのようですが、そもそもナイジェリアにルーツがある彼女ですからアフロビーツに共振するのはごくごく自然な成り行き。気分の浮き沈みを上手に表現できている曲だと思います。

"Prove It to You" Brittany Howard

 いきなりクラブで流れていそうなスネアのドラムで始まるので驚きますが、Verseが始まりBrittnanyの声が聞こえると不思議なものですっかり彼女の曲だと認識できます。前作でも顕著でしたが、これで完全にArabama Shakesとは一線を画した感じがあり、さらにソロで伸び伸びと活躍していくのでしょうね。私はBrittanyの堂々としているパフォーマンスが好きなので、これからも自由に自分のサウンドを追及して欲しいですね。

"Dancing with Myself" Maren Morris

 タイトルからしてカントリー版Robynの"Dancing On My Own"だけど、実は今年Beyonceが使用としたことをMarenなりにやろうとしているんです巣よね。そもそもMarenはカントリー界でも積極的にEDMに参加したりと挑戦することに積極的なので、この曲のテーマも自然の成り行き。女性差別で人種差別が横行するカントリー界に別れを告げているようにも聞こえます。

"Butterfly Net" Caroline Polachek & Weyes Blood

 曲自体は去年Caroline Polachekのアルバム『Desire, I Want To Turn Into You』に収録されています。ライブで何度か本曲でWeyes Bloodとステージ上で共演していたのですが、この度正式に曲としてリリースされました。二人とも声がまろやかで、とても自然にマッチするのがさすがです。

"Off With Her Tits" Allie X

 もう誇張されたシンセサウンドにバカバカしいくらいな歌詞、でもしっかり曲になっているのだから凄い。カッコイイ。別に"Slut Pop"を自称しなくてもしっかり芸術になるのだから、Kim Petrasとその周囲の人間たちは見習ってくださいよ。

"Alibi" Hurray For The Riff Raff

 アルバムごとにアメリカーナやインディロックやカントリーやブルースなどに変化しているHurrayですが、本作ではずばりカントリーに。流行の女性カントリーをマイノリティである1人の人間として扱っています。

"Coffee" Hinds

 スペインの4人組バンドでしたが、メンバーが2人脱退して、この度二人編成にて再スタートを切ったHinds。4人いた時と比べて少し明るく理解しやすくなった感じがありますね。今後も二人で頑張って行って欲しいです。

"Love On" Selena Gomez

 この記事を書いている時期にSabrina Carpentersの"Espresso"がヒットしていて、sad girlとはまた違うセレブで豪華のある女性によるポップスが戻ってきている節があり、そういえばそれを隠すことなくここ数年やり続けていたSelenaは凄いんじゃないかと思い、観直しました。

"Doctor (Work It Out)" Pharrell Williams & Miley Cyrus

 グラミー賞も受賞して上り調子なMileyが久しぶりにPharrell Williamsと組んだ曲です。MileyのというよりPharrell主導の曲のようですが、最初から最後まで隅々までPharrell節が炸裂している曲です。まあ曲は普通ですが、Mileyが自由に楽しそうに歌っているので良しとしましょう。

"Lighter" Galantis & David Guetta & 5 Seconds of Summer

 本記事の至る所でEDMをディスっていますが、まあ詰まるところ私はこういう明るい曲好きなんですね。サビの部分が5 sosのかつてのライバルであるOne Directionの"Best Song Ever"を思い出したのはここだけの話にしておきましょう。


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