ノコギリで木を切り倒せるのは、そのしくみを理解して再現できるから。
4期生の大賀です。
ヤモリーズでは初夏の季節、町内の小学生と間伐体験をやるのがすっかり恒例になっています。
小学生にチェーンソーはもちろん扱えないので、伐倒のための受け口・追い口を切るのはノコギリです。
「しっかり両手でノコをまっすぐ引いてー」とか、
「その角度じゃダメだよー」とか、
いろいろ言ってる最中、ふと己に問いました。
お前、ひとりでノコギリで木を切り倒したことがあるのか?
・・・。ない。チェーンソーでしか切ったことない。
ノコギリで切ったこともないのに、小学生に偉そうなこと言えるのか?
・・・。
お前の伐木技術は所詮、チェーンソーの動力まかせのペラッペラなもんじゃぁないのか?
・・・。
というわけで、ひとりでノコギリで切ってみました。
結論:うまく伐倒できました(ホッ)。
以下、かんたんな手順です。
0.使用するノコギリ
つかったノコギリはシルキー「ガンファイター」。
ノコギリの必須条件としては、刃がカーブソーでなくストレート(まっすぐ)であること。理由は後述します。
1.伐倒方向をきめる
まず周囲の状況を見て、木を倒す方向(伐倒方向)をきめます。
今回は星印の間をねらいます。
2.ロープのセッティング
今回の木(ヒノキ)は周囲の枝振りをみると、クサビで木をかたむけるだけでは倒れなさそうでした。
なので最後にロープを引っぱって倒します。伐倒方向から引くのは危険なので、滑車をつかって別の角度から引けるようにします。
3.木の根元の片付け
木の根元にある邪魔なものを片付けて、しっかりと足場を確保します。
4.伐倒方向の補助線を引く
これから受け口をつくっていくための、方向決めの補助線を引きます。
木は「受け口の口元の直線」に対して直角に倒れます。
「受け口の口元の直線」はつまり「ノコギリの刃の直線」です。
ノコギリをあてる角度で倒れる方向がきまるので、ここは超重要。
伐倒方向をよーく確認しながら、その補助線をすぐ近くに書いてやることで、受け口をつくるときの目標になります。
5.受け口をつくる
先ほどの補助線をしっかり確認しながら、斜めと真横から切りすすんで受け口をつくります。
横側から切るときは、ノコギリがしっかり水平になっていることを確認します。
うまく切り結べばパカっととれます。
6.受け口の方向確認
受け口がきちんと伐倒方向に向いているかを確認します。
受け口の口元にまっすぐなものを直角にあてれば、それが指す方向が伐倒方向になっています。
今回は普段どおりクサビをあてて確認。
クサビが指す方向。
目標とする木の間には入っていました。少し右よりになっている気もしたので、これは追い口で修正します。
(方向がずれていれば基本的には受け口を切り足して修正します。けどノコギリだとそもそも切るのがたいへんなので、最初の斜め切りの角度をしっかり伐倒方向に合わせるのが大事。)
7.追い口をつくる(その①)
ここから追い口をつくっていきますが、受け口よりも難易度があがります。
まず水平に切り込んでいけるよう、受け口の下切りにノコギリをあてます。
次にそのままの角度をキープしながら追い口を切る位置にノコギリをあてて、そこから切り込んでいきます。
受け口下切りの水平を基準にすることで、追い口の水平が出しやすい。チェーンソーで切るときと同じです。
しばらく切りすすんだら、クサビを抜けない程度に打ち込みます。
追い口を切っている途中、木が追い口側にかたむく場合もあります。そうするとノコギリがはさまれてしまうので、クサビはスペース確保のため。
8.追い口をつくる(その②)
ここから追い口の最終ラインをきめていきます。
受け口の口元との間には「ツル」という切り残しをつくります。
ツルは木が倒れる支点になるとっても大事なものなので、切りすぎはぜったいダメ。
そしてツルは均一な厚さになるようつくります。なので「受け口の口元」と平行になるよう、追い口の最終ラインをきめていきます。
口元の直線にまっすぐなものをくわえさせてやれば、それを目安に平行に切っていけます。
切りすすんでいくと、木の重心によっては途中で受け口側に倒れていくこともあります。その場合は逃げなきゃいけない。
なので追い口は受け口をつくるよりも危険な作業です。木の様子を確認しながら切りすすみます。
そしてツルが完成しました。
9.ロープで引っぱって倒す
目標としていた場所にきちんと倒れてくれました。ホッ。
切り倒すまでに
・セッティング:5分
・受け口:10分
・追い口:10分
くらいかかりました。
スギにくらべてヒノキは固いので、ノコギリで切るのはめちゃくちゃたいへんでした...。
10.切り株の確認
伐倒した木の切り株を確認してみます。
黄色は追い口の最終ライン。しっかり直線になっていますが、追い口側から見て右側はすこし多めに切れています。
これは伐倒方向の調整のため、最後に右側だけ多く切り込んでツルの強度を変えてみた跡。
「受け口方向がやや右よりかな?」と思ったので、右側のツルを弱くして左側により倒れやすくしてみました(誤差の範囲な気もするけど...)。
こんな感じで切り株を見れば、伐倒のうまくいった点や失敗した点がわかります。成績表みたいなもの。
まとめ:切り倒すしくみを理解するのが大切
注意点をあげればキリがないので、細かい説明はけっこう端折っています。
けれどチェーンソーでもノコギリでも基本は同じ、受け口と追い口。これらは木を確実にコントロールするためにつくります。
木を切り倒すのは奥が深くておもしろい作業ではあるけれど、危険な作業でもあります。
林業における労働災害の中で、伐木作業中がもっとも死傷災害が起きているのも事実。
参照:林野庁 林業労働災害の現況
・・・正直、わりといいかげんにやっても木は切れます。けれど、
「もし伐木を人に教えるなら、木をコントロールするためのしくみを理解して、それが再現できる技術習得は必須だな」
とあらためて思いました。ノコギリで切ってみて。
おしまい。
書いたひと:大賀圭介
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