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江戸ライダー 聖徳太子怪人 徳ちゃん篇

「ちゅうちゅうたこかいな」
「インデアンのふんどし」
「だるまさんがころんだ」
「インド人のくーろんぼ」
「くるまのトンテンカン」
「へいたいさんがとおる」
「ぼんさんがへをこいた」

強迫性障害の病状が悪化した、聖徳太子の生まれ変わり、徳ちゃんの強迫行動は、「数を何度も数えてしまう」なため、健は、こうした言葉をグーグルで検索して彼に教えてやった。
徳ちゃんは質屋のひとり息子で、どうしてもカネの勘定が必要になってくる。それが、病に侵された今、仕事がスムーズに出来ないどころか、日常生活、買い物での困りごとで、お松から、健にクレームが入るようになってきたのである。

「健さん、徳さん、いつまでも数えてるのよ」
「この前なんかね、質草の簪(かんざし)をうちに持ってきたから、二千円で買い取ったの」
「そしたら、ずぅーっと」
「ちゅう、ちゅう。ちゅう、ちゅう。ちゅう、ちゅう……」
「っていってお札を数えてるのよ」
「ほう、なかなかおもろいじゃないか」
「お茶が冷めるよ、徳さんって言ったら、今度は、お茶を、ちゅうちゅう音立てて啜りだしちゃって」
「しかし二枚数えるのでそれか。かなり重篤化してきたな」

「ちゅう、ちゅう」
健は嘴(くちばし)でそう言って、お松の口に吸いつく素振りをしてみせた。
「もうー、困ってるんだから、何とかしてっ!」
「じゃー健さん、何か進展があったら教えてね。またぁー」

健はDRY ZEROを飲りながら、長屋の居間で横たわっている。
「真紀ちゃん、徳ちゃんどう思う?」
「かなり面白くなってきてるね。吉本に入ってアホの坂田の弟子になったらいいんじゃない?」
「そうだよなー。賛成。でも大阪までは遠いな。浅草でいいよ、浅草」
健は、思い立ったが吉日の人でもある。浅草演芸ホールでは、歌武蔵という元力士の武蔵丸に似た噺家が出演している。あの方なら、徳ちゃんを任せられるかもしれない。
健はDRY ZEROを飲み干すと、妻に断るのも忘れて、ママチャリ「江戸サイクロン号」にまたがり、浅草へ急いだ。
通りを歩く、着物を着た外人さんが嬉しそうだ。演芸ホールの歌武蔵の楽屋に手ぶらで行くのもどうかと思い、鹿せんべいを買った。
「歌武蔵」と書かれた扉をノックする。返事がない。アポなしだから仕方がないのかもしれないが、健は自分の勘の鈍さに落胆した。
また来よう。そう思った時、角を曲がった通路から歌武蔵がやってきたではないか。
「歌武蔵さーん、ファンです。サインくださーい」
健はそう言って近づく口実を作った。
「おうおう、いいヨいいヨ、どこにサインすればいいんダイ?」
健は、ケツの割れ目に鹿せんべいを挟んで、
「これ、差し入れです」
と、歌武蔵の反応をみて、人柄から頭の回転の速さから何からを全て察知しようと試みた。
ここで普通の鹿だったら、口でパクっといくところだ。歌武蔵は違った。自分のケツの割れ目を鹿せんべいに近づけて挟みあう形にし、「おしりあい」にしてきたのだった。

決まった。健は、聖徳太子怪人徳ちゃんのことを歌武蔵にお願いしたい旨と、自分が江戸ライダーであることを打ち明ける決意をし、今までの経緯を話して聞かせた。
「おうおう、いいヨいいヨ、僕に任せなサイ」
「ありがとうございます。名古屋から、ういろうライダーも助っ人に来てくれると思いますので、よろしくお願いします」
「おうおう、いいヨいいヨ」
「あと、江戸ライダーの第零巻出てますので買ってくださいね」
健は、そう付け加えて、いつでも名刺にある電話番号に電話してくださいと伝えた。

呉服商に向かう。
「お松ぅー。いるかー?」
「あら、健さん」
お松は、萬斎の耳垢を穿っているところだった。
「むぅ~」
心地よい瞬間を邪魔された萬斎が目を剥く。
「今度、徳ちゃんが来たら、ここに電話するように伝えてくれないか」
「どこの電話番号?これ?」
「噺家の歌武蔵だよ。一度、おれたちと浅草演芸ホールに観にいったことあるだろう?」
「あーあ~、あの面白い落語家さんね」
「そうそう、徳ちゃんの面倒見てくれるって」
「まぁ、良さそうな人みつかって何よりだわね」
「だろ?じゃーよろしくな」
「あら、健さん、もう帰るの?」
「萬斎さんの耳穿りの途中だろう?、おれは、DRY ZEROを飲むのに忙しいから、またな、お松」
「わかったー、ありがとう。じゃー健さん」

寛永通寳真鍮當四文銭(十一波)。コイン収集家の間では、現在百十円ほどで取引されている。
「ピシューッ!」
「ピシューッ!」
「お父ちゃん、次、目は?」
「ピシューッ!」
「当たりぃ、今日もお父ちゃん絶好調だね」
「小平次、回収しておいてくれるか?お父ちゃんALL-FREE飲るから」
「はーい」
小平次は、案山子の周囲にポツリポツリと散らばった寛永通寶を拾い集めながら、いつかお父ちゃんみたいな捕物をするんだと、小さな小鼻からフンッと息を荒げた。

「おーい、お静、何かアテを出してくれないか」
平次は、大岡越前の再放送を観るため、テレビのスイッチを入れ、妻の後ろ姿を見ながら、そう託けた。
「プシュッ」
お静が台所から、お盆に「野沢菜昆布」を盛りつけた小鉢を載せて、
「どうぞ、あなたぁ」
と平次に差出し、傍に座る。
「小平次ったら、今日も宿題まだなんですよ、あなたからも何か言ってあげてくださいな」
「はは、宿題なんてものは、休み時間にできるやつから写せばいいんだよ、心配するな」
「まぁ、あなたったら」
お静は、プンとして立ち上がり、また台所に水仕事をしに行ってしまった。
「越前も大変だ、今週は、縛られたお地蔵様、か」

小平次が庭で、指に食い込むテグスに結んだ五円玉を案山子に何度も投げつけ、男子特有の修行をしている。寛永通寶は、まだ投げさせてもらえない。それは夕陽が落ちるまで続くのだった。


徳ちゃんは、今日は五十円玉を数えていた。
「ぼ・ん・さ・ん・が・へ・を・こ・い・た……」
「ぼ・ん・さ・ん・が・へ・を・こ・い・た……」

「ごめんくだサーイ!」
質屋に訪ねて来たのは、なかなか連絡をくれない徳ちゃんを心配して、自ら足を運んだ、歌武蔵である。
「ぼ・ん・さ・ん・が・気・の・利・い・た……」
「ぼ・ん・さ・ん・が・気・の・利・い・た……」
歌武蔵は、数えている徳ちゃんを見つけると、被せるように、そう唱え始めた。

「ぼ・ん・さ・ん・が・へ・を・聞・い・た……」
「ぼ・ん・さ・ん・が・へ・を・聞・い・た……」
すると、徳ちゃんが無意識の内に、釣られていくではないか。

歌武蔵は続けて、
「気・の・利・い・た?」
と、徳ちゃんに問いかける。

「へ・を・聞・い・た……」
「……」
徳ちゃんの数える手が止まった。

徳ちゃん、「気の利いた、へを聞いてどうしたんダイ?」
歌武蔵が、畳みかける。

「だ・る・ま・さ・ん・が・こ・ろ・ん・だ……」
徳ちゃんは、何事もなかったように、そう呟きながら、また数え始めた。

「んぅ」
歌武蔵は、徳ちゃんに一本取られてしまったのである。
これは、一筋縄ではいかない。江戸ライダーさんたちが、手を拱く訳だ。

「ごめんやあす!」
そこへ折しも、ういろうライダーがやってきた。
「おみゃーさん、歌武蔵さんですやろ、江戸ライダーから聞いとりますぅ」
「はー、徳ちゃん、ですやん。なにゆっとるだてー」
「ういろうライダーさん、デスネ。徳ちゃんの強迫性障害、重症デスなぁ……」

ういろうライダーは、井桁屋の藍染の巾着袋から、「ういろモナカ」を取り出すと、
「いいかげんに、しときゃーよっ!!」
と、徳ちゃんの口に押し込み、数える口を黙らせた。

「おー、ういろうライダーさん、スゴイスゴイ!」

だが、根本的な解決になっていないのは、明白だ。歌武蔵と、ういろうライダーの二人は、江戸ライダーに任された手前、正義の味方として、手を引くことはできない。
とりあえず質屋に住み込みで働きながら、徳ちゃんを治癒させるべく、最善を尽くそうということで、江戸ライダーに進捗を報告した。


「眞芸無説」

健は、江戸ギターの投げ銭稼ぎの他に、「書」もカネにかえようとしていた。開明墨汁で筆を走らせ、「石澤意無開」を追記し拇印を押下。満足そうに、
「これは売れる……」
と、ほくそ笑んでいる。

真の芸術に説明や講釈は要らない。それは「無」である。心を決して動かさないもの。それでいて、魂に心地よく染み渡るもの。「良酒は水に似る」H2O’「想い出ででいっぱい」にすれば良いのだ。

「ガタッ。ライダー」
長屋の引き戸が開いていくなり、江戸ライダーにテレパシーで呼び出された、銭形平次がやってきた。
「あー、平次さんすいません、御用聞き中に……」
「おー、いいよ、ライダー。お前さんのお陰で、こちとら暇でしようがなくてよ」
「今日、お呼びだてしたのは、十手(じって)を見せて頂きたくて……」
「何、これか」

「キ、ブーンッ!」
健が、おもむろに「音叉(おんさ)」で襲い掛かる。
とっさに、平次も、江戸町方十手捕縄扱い様。

「平次さん、それじゃー五十円玉チョコレートの穴しか通せない、節穴十手術だよ」
「むぅ」

「ライダー、何が言いたいのだ?」

「本質は突けない」

「心を突けと申すのか?」
江戸ギター、五弦の開放弦のペグを左に捩じり、チューニングする健。

「徳ちゃんが、こうしている間にも数を数えているのを知っているでしょう?」
「あゝ、もちろん」
「官にいつまで仕える氣ですか?」

健は、神武天皇が「神の世」から「人の世」にせざるを得なかった最大の理由、「貨幣制度の発達」についてと、貨幣に代わる「ライフポイント」なるものについて、平次にとくとくと聞かせてやった。「ライフポイント」とは、文字通り命をポイント化したものである。仕事をすればした分だけポイントが貯まっていく。物品やサービスと交換したりする際は高価なもの程、命を削り、博打を打つ時は、まさに命賭けとなる。
「ライフポイント」は、宇宙人類が運営する「オフィス スペース・ライフ」にて、一元管理される。健を江戸ライダーにした、知的高等生命体「マロ」が役員を務めているので、凸もテレパシーで可能だ。

徳ちゃんの数を数える病は、現代の江戸社会の病でもある。「カネ」、これを機に何とかしよう。さっきは書をカネに……と算段していた、気分屋の健が江戸ライダーに目醒め始めた。
同時にDRY ZEROが、口腔内に苦く苦く収まっていった。

江戸ライダーの魂の「いいねキック」が社会に向けて、早くも炸裂した。

「変わるわよ💜」

江戸の経済界が一瞬にして様変わりした。これからは、物品、サービスは全て言い値で支払う。付け値は目安。消費者が値切り交渉できるという寸法になる。
今、この瞬間からだ。健は仕事が超出来過ぎて干されるタイプであることは一読瞭然であろう。


「おう、お松―」
お松の呉服商では、PayPayでの取引システムを、早くから導入していた。
健は、その手続きを先ずは徳ちゃんの質屋に照らし、カネ勘定を廃止させてみてはどうか?と算段し、早速お松に、徳ちゃんへラインをするよう促した。

「ダメ。今の江戸には、スマートフォンを持っているひとがすくなすぎるわ」
お松が冷静に言う。
確かに今は電子水晶の時代に変革しつつある。丹念に四角い箱を見つめる風潮は、特に若者の間では廃れかかっている。

「でもさ、お松、現金、PayPay、電子水晶、どの取引手段でも可能にしておいた方がよくないか?」
「徳さんは、現ナマが大好きよ。昔ながらの。あのひとからお札を数える楽しみを奪うなんて、酷くない?」
「そうか……」

健は、しばらく聖徳太子の五千円札のスカシを眺めていたが、流石は江戸ライダーである。もう次の解決策を見い出していた。
「わかった。気づいたぞ。この聖徳太子怪人徳ちゃん篇のオチが……」
「えー、もう?、健さんまだ6ページ目よ。早くない?」
「ふふ、細工は流々、後は仕上げを御覧じろってね」
「健さん、早漏は嫌よ。充分楽しませてね」
「わかってるって」


その頃、徳ちゃんは、過去最悪の強迫観念に囚われていた。
「ちゅう……。ちゅう……。ちゅう……。ちゅう……」
なんと、五百円札、一枚を延々と数え続けていたのである。
歌武蔵と、ういろうライダーは、何とか徳ちゃんに、二枚目、三枚目を数えさせて、気分を安定させてあげようと、別の五百円札にアロマを垂らして、嗅覚に訴えかけることに懸命だった。
岩倉具視のハゲ頭に染み込んだアロマがてかる。

「ダメだよ、レバ刺しだ」
事の顛末をマロからテレパシーで悟った健が、平次と一緒に質屋に入って来た。

「江戸ライダーさん!」
歌武蔵とういろうライダーは、看病疲れで、既にもう涙目であった。

レバ刺しは、徳ちゃんの最も好きな食べ物である。(因みに煮豆が一番嫌い)肉の生食が禁止されている江戸では、平次の顔が必要になる。

「ライダー、始末つけるか」
平次が、この事件への最終兵器に改造した十手をチラつかせて、言い放った。
「平次さん、まだ待って」

「徳ちゃーん、レバ刺しだよー」
「たれは、角屋の最高級のごま油だよー」

「ちゅう……。ちゅ……」
徳ちゃんが、一瞬、数える口を詰まらせた。

「今だ!」
健は、光よりも速く徳ちゃんの数えている五百円札を、百人一首の札を飛び散らすように取り上げた。

「……」
徳ちゃんが、レバ刺しに視覚、嗅覚を捕まえられ、数を数えられなくなって凝固している。

だが、新潟大学大学院自然科学研究科情報・計算機工学専攻修士課程修了(工学修士) の高学歴を持つ徳ちゃんはすぐさま、口を開いた。

「マイナスい……」

「オン!!」
健が、平次にとびきりでかい声で合図を出す。
「平次さん十手!!」のサインである。

「プシューーーーーーー!!!!」
平次の十手の先から、すざまじい勢いで「マイナスイオン」が噴射された。

「マイナスイオンの4つの作用」

現代文明における病原菌の跳梁は、私たちの生体の衰えと細胞組織の早すぎる老化にあります。自然治癒力が強くなれば本来の免疫力は自然に甦ってきます。その細胞の活性化のカギを握っているのがマイナスイオンです。

万病や老化の元であるといわれている活性酸素がマイナスイオンにより、活性酸素に電子を与えることでただの酸素になったり,ただの水になったりして、速効で活性酸素を消すことができ、恐ろしい体の内部の酸化や炎症を取り除く事になります。

1.血液の浄化作用
  血液を浄化するとともに、血液の弱アルカリ化を進めます。

2.細胞の臓活作用
  細胞の新陳代謝を活発にし、筋肉の活性を高め、内蔵を健康にします。

3.抵抗力の増進作用
  血液中のガンマグロブリンを増やし、からだの抵抗力・免疫力を高めます。

4.自律神経の調整作用
  自律神経の機能を向上させ、内分泌作用や造血作用を亢進します。


徳ちゃんは、大量のマイナスイオンを浴び、気を失ってしまった。
歌武蔵と、ういろうライダーもついでに気を失ってしまった。

「ライダー、これで一件落着だろう」
「だろうね。マロの仕組みに誤りは無いからね」

この世は全て、宇宙人類と神々の仕組みである。常に今があり、無限分の1秒ごとに未来は更新されていく。

現在、地球の季節は夏である。江戸には秋がもうそこまで来ていた。

小平次の夢は破れた。平次が捕物を辞め、駄菓子屋をオープンするそうだ。江戸がまた、この上なく平和になった今、御用聞きは、もう無用の生業である。

「おみゃーさんがた、名古屋めし、天むす、たべりゃーよ」

健、真紀、お松、徳ちゃん、平次、小平次、ういろうライダーで、天むすを2個ずつ口にする。そんな中、歌武蔵は12個も食べていた。

「武蔵さん、わんこ天むす屋やったら?」
お松が、半笑いで言う。
「ワンコインでな」
と健。
「やめてー、おカネの話。また、徳さんが数えだしちゃう」

「ははははははは」

上弦の月明かりの元、そんな平穏で安寧な時を、江戸ライダーの仲間たちも噛みしめている。
いつまでも、いついつまでも……。

完。

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