ゆく夏を 思い起こして さるすべり
ツバメ:https://note.com/n_kojuro_k_0829/n/n3c2ce2d360a5
「ゆく夏の、宿題だけは、残りけり。」から。
ごくうが行く:ゆく夏を 思い起こして さるすべり
ごくうが来てまもなく、中学3人組が家の側を通って帰って行く。朝は遅いので、ごくうが庭に出ることは無い。その3人組はいつも一緒に帰ってくる。ごくうが庭に出ていると、3人組の動きに合わせて追いかける、近づけないのに。
春にはツツジが咲いてくる。ごくうも一緒にツツジを見て回る。そこに中学生が帰ってくると、喜んで近寄る。女の子達もごくうを見ると、可愛がって帰る。3人の内、2人はごくうを撫でて分かれて行く。1人はその様子を眺めている。
女子高生になってそれぞれ高校が別になり、帰る時刻に同期することはなくなった。様子を見ていた一人が回覧板を持ってきた。ごくうを撫でたいと思っていたのに、短い時間で遠慮していたと理解していた。たまたま来たときにごくうと一緒にいた。ごくうを抱き上げ、その子にホイと手渡した。女の子は少し驚いたが、ごくうを可愛がり、戻してきた。
女の子は犬が嫌いだったのではないかと、気を揉んでいると、父親が回覧板を持って来だした。女の子が犬を嫌いだと確信した。残りの二人は高校生になってから姿を見たことはない。
ごくうは時たま散歩時間が短いと思ったときには、団地の中を回ろうとする。それに応じて、回数はごくごく少ないが、団地を回ることがある。散歩で出会うボーダーコリーの家の前が残りの二人の内の1人の家の前である。その家にはポメラニアンがいる。そのポメラニアンには吠えられるが、ごくうは意にも介しない。
ごくうが団地を回って緩い坂を下っていく。シンボルツリーとして植えられたサルスベリが、夏には花を咲かせている。その家の娘がもう一人の女の子の家である。
その母親は散歩の時に同期していたのか、前のワンちゃん「さくら」の散歩時も交差点で出会う度に挨拶していた。ごくうが来てからすぐ、その母親は散歩時に交差点で出会った。犬が変わっていることに気がついたのか、信号の待合中に挨拶する。
その母親は病院で働いている。その病院に行ったとき、幼子を扱うように、始めておじいちゃん扱いしてくれた。「年をすでにとっているんだなぁ。」とあらためて気づかせられたが、そのホスピタリティが心地よく安心して診察室に入ることができた。
ごくうの散歩をし始めてしばらくして、よく出会っていた車に出会わなくなった。同期がズレたのか、と最初の頃は思っていた。その内、時に思うことも少なくなっていた。
夏になった。サルスベリが咲き出した。お隣さんが訪ねてきてサルスベリの花について話し始め、家にも欲しいというので、種から育てたサルスベリの苗木を植えに行った。そのとき、サルスベリがある家について話し始めた。確かに、サルスベリを植えている家が多い。
「あそこにもサルスベリがあるよね。」
「そう、だけどね・・・」
お隣さんは親しかった。顔が曇り、寂しげな表情に変わった。
「そういえば、車がなかった。」
ごくうの散歩で車がないことに気づいていた。その理由が分かり、言葉をつぐみ、話題を変えた。
今年は苗木を植えたサルスベリが花を咲かせている。ごくうの散歩時に坂の上を見ると、シンボルツリーのサルスベリの花が咲いている。
ーーー
サルスベリの花は6数性である。メシベは1本だが、オシベは2種類ある。受粉の仕組みが面白い。短い中心部のオシベで花粉を昆虫に着けさせるが、長いオシベで十分受粉できるように昆虫を押しつける。
花弁が波打ち、まさに「ちりめん(crape)」のように縮れている。
中国原産と言われており、日本には江戸時代頃には取り上げられている。