ごくうが行く:ナンパチワワに

「ごくうはどっちに行くかねー。」

団地の出口で上に行くか、下に行くかで、散歩コースが違う。

「昨日は下だったから、今日は上かねー。」

ごくうはほぼ確信的に上か下かを選んでいる。迷うこともなく、上を選んだ。

すぐ上の家に大好きなおばちゃんがいる。見つければ、強烈な鼻泣きをしながら近寄る。おばちゃんは「来たか。」確信を抱きながら招き入れる。が、ちょっと挨拶しただけで、すぐ散歩に帰る。

「おや、おや。」

おばちゃんは苦笑しながら、ごくうの散歩姿を見送る。

中学校のコーナーを回り、山陽道を歩く。ごくうはどちらに行こうか、迷っているが、いつもの間道コースを選んだ。

「最近ナンパチワワに会っていないなー。」

と思っていたら、角を曲がったところで、黒いチワワがリードを付けたままやってきた。ごくうは腰が引けているが、逃げたり、怒ったりせず、チワワのクンクン攻撃に耐えている。

飼い主が追いかけてきた。先回もそうだったが、これは大変から安心のモードに変わる。しばらく互いに戯れていたが、一通りミーティングが終わり、分かれて行く。

ジョギングのお姉さんがワンちゃんを連れて散歩中だ。ワンちゃんは目が見えないので、驚かせるわけにはいかない。そそくさと別れる。

交差点に出た。もう3km近く歩いている。妻は交差点から一人で帰っていく。ごくうは我関せずで、散歩にまっしぐら。

お大師堂コースを選んだ。妻はいつもお参りしている。ごくうはいつもとは逆コースになる。知った勝手に県道を横切る。細い道をなぞりながら歩いて行く。車が来た。ごくうと避ける。

車はすぐ家の駐車場に入る。出て来た奥さんは、以前娘さんとごくうを可愛がってくれた。車から降りると、ごくうを慣れた手つきで可愛がる。娘さんはいない。年を置きながら3度も会っている。2回はちょどのところで可愛がってくれる。もう5年近くになる。(ごくうが来てまもなく会っている。)

「娘さん、大きくなられたでしょう。」

前にあったときは最初に会ったときの倍くらいの身長になっていた。もう7才にはなっているだろう。

「ええ。」

奥さんは嬉しそうに応える。ごくうを見て、

「何才ですか。」

「もう7才を過ぎたんですよ。」

「散歩、嬉しいね。」

奥さんは立ち上がり、ごくうは散歩コースに戻った。

ごくうは団地コースに行きたがっていたが、もう十分散歩している。

「ごくう、帰るよ。」

ごくうは恨めしそうに団地コースに目をやったが、すぐ思い返して帰宅モードになった。

交差点を渡り、坂を上がっていると、「雨傘の女子高生」に出会った。もう高校を卒業して、働いている。立ち止まり、ごくうを可愛がる。

「どこに住んでいるんですか。」

と尋ねられた。「この上の団地ですが。」

「私、公民館の前です。」

確かに、公民館の付近に家はあるが、確信が持てない。頭が彷徨いていると、

「公民館の目の前です。」

と繰り返すが、思い当たらない。

「そ、そうなんですね。」

曖昧な返答をする。

「またね。」

女子はごくうを撫でて分かれて行った。

さあ、足を洗おう、口を漱ごう。タオルで拭いた後、ペットガムが投げられる位置まで一直線。待つこと、60秒。

目の前に、ペットガムが飛んでくる。ごくうはガムを待ち焦がれたように噛みしめる。

ーーー
「ごくうが行く:雨傘の女子高生」
https://note.com/tsutsusi16/n/n105d8e625690