ごくうが行く:「夕彩雲 一歩一歩に 薄れゆく」
夕彩雲 一歩一歩に 薄れゆく
ごくうは坂を下る散歩コースを選ぶ。交差点を渡って、川筋に下っていくが、途中で橋を渡り、コンビニ付近の交差点を渡る。交差点を渡る頃には夕焼けが始まり、東に雲が薄く広がり、かなり広い範囲に渡っている。
(雲がなびいている)
見ると夕焼けを反映して彩雲のように色が薄い雲に広がっている。
(夕彩雲!)
ごくうは彩雲なんかには興味がない。黙々と新しい団地への細い道を辿っていく。ごくうのお気に入りの散歩コースだ。ごくうは折り返して、お大師堂コースを選んだ。
見ると、中年の婦人がゴミ出しに来ている。見覚えがあった。あの引っ越し挨拶の人だ。
さくらは年老いてもいつもの散歩コースを歩いて行た。そんなある日、さくらの散歩中、家が新築される様子を見ていた。新築の家が完成したのだろう。家族が引っ越し後の後片付けをしていた。男の子(推定4才)と女の子(推定2才)が庭で遊んでいる。
母親が入り口付近を確認していた。散歩に気がついた母親が挨拶に歩み寄ってきた。全然面識はないが、様式に則っとり挨拶を返した。スリムと言って良い体躯だった。
引っ越しの挨拶から11年が経過していた。息子と娘は中学生になった頃、ごくうの散歩で盛んに出会いだした。息子はよそ行き表情だが、娘はごくうのかわいさに吊られて話しかけてきていた。今は、息子は高校2年生になり、娘は中学3年生になっていた。
娘は15才、この年代の平均余命は92年(推計あり)。これから92年間、エネルギー資源は枯渇しないのか、あるいはエネルギー消費を続け、環境変動に晒されるようになるのか、なかなか明確には語れない。
出会った母親はこの11年で、確実に増量していた。服もゆったり目を着ている。幸せ太りか、思案しながらごくうと県道を渡り、川に向かって歩いて行く。彩雲らしい雲はすでに薄雲となり、やがて色が薄れてしまう。
妻がお大師堂に寄り、お祈りする。ごくうは承知とばかりにお大師堂前で止まり、見上げる。抱っこと。夏だとそのまま抱っこで帰る。もう秋だ。ごくは足を出し、歩くという。もう彩雲は色もなく、灰色に転じている。ごくうも黙々と帰路についている。