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Short Short:小寿朗が高尾山に花探し

小寿朗は意固地ではないけれど、ミニチュアの花器には人一倍憧れがある。ミニチュア陶芸作家のてると氏から、ミニチュアの花瓶を手に入れた。手に入れたのはいいが、花心はない。妻の幸恵には花心があった。

「あら、いいわよ。生け方は知ってるわ」「まず、小さな花がいるわ」「コジは蝉には詳しいけれど、鼻を抓んでいるのは見たことがあるけど、花を摘んでいるのは見たことないわね」

小寿朗は勧められるまま、少し遠いが、花が沢山見られる高尾山を目指すことにした。(まず、目を肥えさそう)

登山の日程が組まれていた。しかし、前日になると、雲行きが怪しい。午後遅く雨が降り出した。天気予報を見ると、雨は翌日もしっかり降るそうだ。淀んだ気持ちになる。雨の中を高尾山。小寿朗に迷いが出た。(延期しようか・・・)

部屋でリキを世話するときも、小寿朗は上の空のごとし。半分配給のあったケーキを食べるのも上の空のごとし。ビールサーバーにも手が出ない、コップを持って彷徨いている。

見かねた長女・晴恵が「私に任せんさい」、立ち上がると、てるてる坊主を用意した。ベランダの窓近くに置いた。晴恵は手を合わせて晴れを祈る。夜になり、小寿朗はてるてる坊主を机の横に置いた。

妻の幸恵のマッサージを終えると、小寿朗は床についた。翌日の天気を気にせず、ぐっすりと。

翌朝、起きてみると、高尾山の方向に向かって虹が出ている。2本も(ダブルレインボウ)。コジは唸った。やはり晴恵は「晴れ女」。日頃から自慢するだけのことはある。小寿朗の背後から声が掛かる。

「虹が出てるわ。晴れたね。きっといい花が見つかるわ」

小寿朗がいそいそと高尾山を目指したのは言うまでもない。

(その顔を想像してご覧なさい。)

高尾山(植物は採取禁止)
高尾山では、多くの植物が見られ、牧野富太郎も植物をよく探し、新種として発表している。高尾山の自然に関する博物館も設けられている。