ごくうが行く:ナンパされる?
ごくうは犬に吠えられても吠え返したりはしない。ごくうのように吠えない犬は多い。たまに吠える犬に出くわす。そんなときでも、吠え返すどころか、何食わぬ表情で、関心も示さず、黙々と散歩する。
今日は中学校の側を通るコースを選択した。中学校は明日から新学期で、まだ中学生は通っていない。中学校の側を通り抜けると、昔の山陽道を通る。舗装は十分ではなく、細い道路だ。山陽道から住宅地に入ると、路地を通り、坂を下る。
その途中で、チワワがリードなしで坂を上がってくる。
「あれっ!」
と思う間もなく、チワワは臆しもせず、ごくうの目の前。チワワはごくうにスキンシップ。ごくうの腰が引けている。チワワはごくうにまとわりつくようにスキンシップを図ろうとする。
「アレッ、アレッ。」
チワワは馴れ馴れしく、動じもしない。ごくうは動けないのか、顎を引いてたじろいでいる。
坂の下から話し声がした。おばさんと作業着を着た人が話ながらやってくる。
「あれ!さくら、だめよ。」
「さくらちゃんって言うんですか。」
「そうよ。」
おばさんはチワワを抱き上げながら肯定する。
「うちにも。先代の犬がさくらだったんですよ。」
「そうかね。」
問いもしないのに、
「うちのはよう肥えちょる。」
見ると、お腹が出て、腹回りが確かに丸い。
ごくうはおばさんに向かって行く。例によって両足を上げて媚びを売る。言うまでもなく、チワワにではない。チワワは宙に浮いたような状態で抱えられている。
おばさんはチワワを抱えながらごくうを片方の手で撫でる。
作業着を着た人がおばさんに話しかける。おばさんはごくうにバイバイし、チワワを小脇に抱えて話ながら去って行った。
もうごくうは普段通りの様子で散歩に行く。チワワのことなんて頭の片隅にもないかのように。