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さちの七不思議・小志郎の七不思議③完

*日記風Short Story。

同僚など3名が一緒だった。さちは次のプロジェクトのことを聞いて貰いたかったらしい。食事しながら時に熱弁を振るう。皆も目を瞠る内容だった。(着眼点がいい)小志郎もそう思った。

昼休み、さちがオフィスに来た。皆、出払っている。さちは小志郎に昼食に付き合うように促した。新プロジェクトの内容が煮詰まってきているようだ。

次にさちが来た時、さちは小志郎だけを呼び出した。集中して話したかったらしい。小志郎に話すとスケルトンが固まっていく。一緒に昼食を摂りながら、自ら疑問点をあぶり出そうとする。小志郎は具体的な仕事遂行能力は優れていたが、プロジェクトを固めることは好みではない。さちが苛ついてきた。

「コジさんはさぁ~」さちに小志郎の表情が漂ってきた。さちは開けた口をゆっくりと閉じる。理知的なさちに苛立ちが襲っていたが、小志郎の反発の表情で収まっていく。最期にふてくされの一言「もう、いい」を残し、二人は無言のまま、オフィスに戻った。

さちは反省していたが、表には出さない、小志郎にも伝えない。小志郎に悪ガキの芽が伸びていた。2週間に1回、土曜日に出勤する。小志郎は午前の勤めが終わると、さちのオフィスに行った。案の定、皆帰宅している。さちは残りの仕事を片付けていた。小志郎はポケットから手で掴んでなにやら取りだし、さちに手を広げるように促した。

「ハイっ」小志郎は持っていたおもちゃを、さちの手の平に。悲鳴が上がったのも不思議ではない。トカゲを模したゴムのおもちゃだった。しかし、さちは投げだそうとはしなかった。さちは少女に戻ったように「うん、このー」と小志郎をにらみつけるが、なぜか口がほころんでいた。

小志郎は見届けると、さっさとオフィスを後にした。痛快とは思わなかったが、一矢を報いた気分になった。(トカゲのおもちゃは今もある。)

まだ腹の虫が治まらないのか、小志郎は再び土曜日を選んで、カメレオンのおもちゃをさちに手渡した。さちは驚いたが、前程ではなかった。「なんなの」と笑いながら問う。(カメレオンのおもちゃは今もある。)

プロジェクトの中身が固まってきた。小志郎達も内容を聞かされた。さちは纏めてチームリーダーに提出した。その週末、さちは整理残業をしていたが、終わる頃、小志郎がわざわざやってきた。小志郎は(最期の悪ガキだ)、そう述懐しながら、さちに手を広げるように促した。小志郎はポケットからやや大きいものを取り出し、さちの手の平に。さちはまた驚いた。少し刺すようだが、体温が伝わる。ハリネズミだった。さちの驚きは収まり、ハリネズミのかわいさに頬が緩んでいる。理知的で、きついさちの表情が緩んで、温かい表情に変わっている。

「一緒に、ハリネズミを育てよう」

さちはゆっくりと頷く。

---Fin

さちは今でも不思議に思う。なぜ頷いたのか、小志郎も不思議に思う。なぜハリネズミを選んだのか。ハリネズミがかすがいになったことは間違いなかった。

※言い忘れましたが、友人・同僚は「小志郎」を呼ぶ時、言い難いので、「こじろう」と呼んでいました。親しくなり、面倒になったので、略して「コジ」と呼ぶようになりました。