♫青春時代♫が聞こえて来た

いつも流行の楽曲を流している喫茶店が電車道沿いにある。森田公一とトップギャランの「青春時代」はよくかかっていた。講義の合間によく出かけていた。今はもう大学も移転し、喫茶店も廃業している。

電車を降りて、物思い気に歩いていた。まだ昼に向かう時刻だ。交差点を斜めに渡れば、日赤病院がある。原爆の時、裏手にあったセンダンの木が女学生徒とともに倒れてしまった。思い起こしていると、交差点の信号が変わり、喧騒が強くなっていく。

ふと喫茶店に目を向けると、男女のカップルが並んで歩いている。ちょうど喫茶店から出て来たばかりだ。あれっ。(彼女と・・・)二人は玄関前の敷地内空間を抜けて近づいてくる。気が付く様子はない。(あれ、あれ)と思いながら二人を目で追う。楽し気に言葉を交わしている。彼女が「またね」の言葉を残して、電車道に向かい、ホームに並んだ。

見届け終えたように男は手を振り、正門に向かっていく。正門の横に一対の石柱が並んでいる。その小門から入るようだ。

信号が変わり、別の車列が喧騒を高めながら走り去りだした。ふと日赤の玄関が目に入ったが、再び電車のホームに目をやると、ホームに電車が入ってきた。彼女の姿を見つけられない。男も小門を通り過ぎたのか。もう姿は見えなかった。

交差点の車列の喧騒が一段と高まっていた。