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公園デビューから見えた私の伸びしろ

"公園デビュー"なんて言葉、まだ存在するのだろうか。

子どもが乳児から幼児になり、歩き始めた頃から本格的に遊びの範囲が拡大するのに伴って、単なるお散歩だけではもの足りず、公園で遊ぶ時間が多くなる。
子どもが遊ぶということは、そこには必然的に、その子どもの親が存在する。
その公園のコミュニティが既に出来上がっている場合、そのコミュニティに入って行くかどうか。それはきっと、親になって公園に行った大人なら、一度は頭の中で、今置かれた状況の最善策は何かについて、考えたことがあるのではないだろうか。

息子は、少し前に公園デビューをした。0歳ごろから歩きはじめた子であれば、そのくらいの時期から公園に行き、歩いたり遊具で遊んだりしていたのだろう。ただ、我が息子は歩き始めがゆっくりだったので、やっとつい最近靴を買って、近くの公園にデビューした。

デビュー初日は、私は同席できなかった。つわりでベットから出られず、うずくまってじっとしていた。夫が息子を散歩に連れて行ってくれた時に、一緒に公園に行った動画や写真が送られてきた。初めての公園でヨチヨチと歩く息子の姿は、急に頼もしく見えたし、何より息子の瞳はキラッキラと輝いていた。比喩表現ではなく、本当に瞳はキラキラと輝くんだなと、ベッドの中で動画や写真を見ながら感動した。

息子は、今のところ"人見知り"ではないようだ。夫によると、朝の早めの時間だったこともあって、公園にいたのは数人だったらしいが、初めて会うその子たちに興味津々で、屈託のない笑顔で近寄っては「ヤッホー」と覚えたてのあいさつを繰り出していたらしい。子どものそばにいるお母さんが、「こんにちは」と優しく返事をしてくれたそうだが、どの親子の元に近寄っても、子どもからの反応は返してもらえなかった、と。仲良くなりたい気持ちの片思い。そんな空振りの挨拶さえ愛おしい。

公園でのエピソードを聞いて、毎度私は、ああ…はやく悪阻よ終われと願い、はやく一緒に公園に行きたくて仕方なかった。
つわりは終わる気配がないが、公園に行く願いは以外とすぐに叶った。

9週5日。妊娠初期の検査をするために妊婦健診を受診。その帰り道、夫と息子がお散歩がてら迎えにきてくれた。病院から帰る道の途中に、公園がある。行く予定はもちろん無かったが、公園の魅力を知ってしまった息子は、ベビーカーから身を乗り出して指をさし、公園に行きたいとアピールする。はやく家で横になりたい私を気遣って、夫が「今日は行かないよ。おうちに帰るよ」と息子に話していたが、息子は一生懸命に、行こう行こうと指を指す。はやく家に帰りたい。でも、公園にいる息子も見たい。私が頑張ればいい話なので、夫に公園に行こうと伝えて、私も念願の公園デビューを果たした。

公園には、ブランコと滑り口が2箇所ある滑り台、動物モチーフのまたがる遊具と砂場がある。比較的コンパクトな公園だ。公園にはあちこちにベンチがあって、入口近くに屋根付きの一番大きなベンチが設置されている。その日、一番大きなベンチには、母親と思われる3人組が座っていた。きっとこの方々のお子さんは、今滑り台の大きな滑り口の方を占領して遊びを繰り広げている小学校低学年くらいの男子3人組。その反対方向の小さな滑り口の方では、1歳くらいのお子さんとそのお母さんと思われる女性が遊んでいる。そして、その奥には、公園全体には背を向ける形でベンチに座る女性。足元で、砂場セットを使って遊んでいる女の子のお母さんだろう。
私たちは、空いていたベンチに一旦座り、息子をベビーカーから降ろして靴を履かせた。靴を履くと、息子は滑り台に向かって、1歩1歩と歩いて行く。可愛い。その姿だけでも可愛すぎて、感動した。

息子はまず、まっすぐに小さな滑り口の滑り台へ向かった。そこには同じくらいの男の子がいて、さっきから何度まで階段を登っては、滑り台を滑っている。その子のお母さんと思われる女性も一緒に滑り台に登って、ぴったりその子をサポートしていた。息子は、滑り台の階段を登っていきたい様子は見せるが、そんなのお構いなしに先にいた親子が何度も上っては滑るを繰り返すのをしばらく楽しそうに見て、身を引いた。息子なりに、順番を待ってたつもりだったのだろうか。切なくも、今日のところは息子に順番は回ってこなかった。

次に息子は大きなベンチに向かって歩き出した。私は、荷物を置いたベンチに座って眺めていたので、夫が少し離れて後を追う。息子は、大きなベンチに座る女性3人組に向かって、大きな声で挨拶をしながら突き進んでいく。ベンチの屋根の中に入る寸前までそんな様子で突き進み、夫に捕獲されてブランコに連れて行かれていた。その間、女性3人組は、一度も息子の呼びかけに反応しなかったし、笑顔を向けることもなかった。
そんな様子をぼんやり見ていて、ああ、私が夫の場所にいたら、あんな空気感耐えられないな…と思った。あの大きなベンチの周りには、なんとなく張られているのを感じる結界がある。無垢な1歳児でさえ突破できない、なんとも言えないムードを纏った結界だ。私はそんなものに近づけないし、もっと早い段階で息子を撤収させるだろうな、できればあの3人に息子が近づいてることが気づかれる前に。

それからふと、奥のベンチで公園に背を向けている女性を見て、もしかしたらこの人も、あの結界を察知しているのかもしれないなと思った。
今日は夫ときた公園だから心強いけど、女性が3人固まっている中に、私も息子を1人で連れてきていたら、同じようにひっそり結界を感じずに済む場所にいるだろうな、とも思った。よく見ると、その女性の胸には、まだ小さな乳児がいた。
夜泣きだってあるような月齢だ。公園を社交の場になんて絶対したくないよね、そっとそっと親子で楽しく密やかに過ごせますように、と勝手にいろいろ妄想して、勝手にそんなことを願った。

気づくと息子はその親子の近くに来ていた。
女の子から笑顔で砂場セットを拝借し、楽しげに遊んでいる。おい、何してる、その親子はひっそりさせてあげなさいよ。
私は息子に駆け寄り「急にごめんなさい」と、その親子に声をかけた。お母さんは、とても優しく「砂遊び最高だよね、いいよいいよ使っていいよ。いいよね?」と女の子に声をかけ、女の子も「いいよ」と、息子を見守ってくれた。なんて優しい世界なんだ。息子がもう少し大きくなったら、息子より小さい子が同じように来るかもしれない。その時は、この親子のように対応しよう!と、胸に誓いながら、果たしてこの優しい世界はどのように過ごせばいいのかが、その瞬間の最大の難問だった。
なにか、話しかけた方がいいんだろうか…いやいや、初めて会ったくらいでご迷惑では…こちらから何か提供できるものもないし…あああ、選択肢すら浮かばない…。
そんなことを頭の中でぐるぐるさせてるうちに、女の子が集めた綺麗な砂を息子が無邪気にぶちまけた。はい、終了。
親子3人で女の子に謝ると、「いいよ」と。お母さんも「また集めればいいもんね」と。
これをきっかけに息子を抱き抱え撤収。ついでに公園も後にした。振り返ると、女の子がまたお母さんの足元で綺麗な砂を集めていた。ごめんね、ほんとに。

公園デビュー、というものを私は、コミュニティに入っていくことかと思っていた。でも、実際はそんなシンプルなことではなかった。
子どもを介して自然発生するコントロールの難しい関わり合いの中で、どう相手と向き合って関わるのか。どんなスタンスを取るのか。その瞬時の判断スキルと、高度なコミュニケーション能力を求められるものなんだな、と。ちょっと大袈裟かもしれないけど。

とにかく、私は親としてまだまだ未熟者だ。息子が無邪気に相手のおもちゃを拝借して遊ぶ場面でアタフタしてしまうなんて、きっと、初心者もいいところ。
"親"という役割での家の外での立ち振る舞いを少しずつ身につけよう。まずは、息子に公園遊びグッズを買う。ノーアイテムで挑むなんてハイリスクだ。アイテムを手に入れてから、次のチャレンジだ。

挑むのは、つわりが終わってから。

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