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◆小説◆ おばあちゃんの喫茶店15「かみきられた」

はなび「姉ちゃん、風呂空いたー」

パジャマ姿のはなびが畳の部屋にやってくる。
スマホ画面を見ながら返事をするこのは。

このは「んー。あれ、はなび髪切った?」

はなび「かみきられた」

このは「その言い方だと誤解を招きそう。へー、いいじゃん。やっぱおばあちゃんすげえな」

はなび「はやく風呂入れよ」

このは「ちょっと後ろ向いて」

眉をしかめながらも後ろを向くはなび。

このは「うなじも綺麗じゃん。写真とっていい?」

はなび「ダメに決まってんだろ、パジャマだぞオレ」

このは「セクシーでいいと思います。はなびくんかっこいー」

はなび「棒読みやめろよ気持ち悪いな。別にかっこよさなんて求めてないんだよ」

このは「え? いいじゃん、世界一かっこいいよはなび」

はなび「あぁーーっ! うるせえやめろぉーーっ!
人間は見た目じゃないんだよ! 中身が大事なの!
着飾ったりカッコつけたりするの、オレいちばん嫌いだから。
虚飾っていうんだよそういうの」

このは「きょしょきゅ?」

はなび「言えてねーし」

このは「ご飯食べられなくなるやつ」

はなび「しょれは拒しょきゅ症」

このは「言えてねーし。いいじゃん別にかっこいいのは。害はないし」

はなび「人を見た目で判断してはいけません」

このは「見た目からしてヤバい人もいるじゃん」

はなび「危険とか迷惑とかそういう見た目の話じゃなくて。
美しいか醜いかで中身を判断するのが問題」

このは「ぬぐぅ、意外とまともな意見を言いやがるな。
じゃあさ、着飾るのが嫌ならありのままでいればいいんじゃないの?
もう服とかいらんでしょ君には。脱げ、脱げ」

はなび「はい、脱ぎまーす! 脱いじゃいまーす! 服なんか人間にとっちゃオプションに過ぎないもんねー!」

はなび、パジャマに手をかけて捲り上げる。
このは、スマホのカメラを向ける。

このは「続けて」

はなび「いや、とめてくださいよ。あと撮影は禁止です」

このは「なんだつまらん。弟の成長を記録しておきたかった」

はなび「変態か。てか、全裸は見た目からしてヤバい部類だろ。危険や迷惑のたぐいです。
お風呂とか、そういう特殊な場所以外では脱いじゃだめなんですよ」

このは「ソウダッタノカー。そしたら不潔はどうなの? 
美しいか醜いかで言ったら醜いと思うし、けっこう迷惑なときあるけど」

はなび「不潔は、ものぐさが理由なら問題かなぁ……。周りにとって迷惑かどうか。ただ貧困から清潔さを維持できないって場合もあるから、一概には言えない。
まあ、真面目に働いてたら今の日本なら普通に清潔にできると思うけど」

このは「ワーキングプアとか格差社会とかあるし、その点はあんまり同意できないな」

はなび「とにかく、清潔にしてればいいんだよ身だしなみなんて。
お洒落とかカッコつけるのは悪と言っていい。見た目に恵まれない人たちをさげすむ行為だ」

このは「なんか過激になってきた」

はなび「拒食症だってそうじゃん。
痩せてる方が美しい、優れている、社会的に有利、みたいになっちゃってる。だから痩せようとするし、それで苦しむ人が出てくる」

このは「あぁー、まあね。あたしも体重気にしちゃう」

はなび「だから悪なんだよ。美しさを賛美するのは悪!」

このは「でもはなび、髪切ってサッパリしてかっこいいよ?」

はなび「やめろぉーーーっ! オレの心を侵食するな!
ちょっとでも嬉しいと感じた、オレはオレを恥じる! 
許せない! つらい!」

このは「あたしはお洒落な人好きなんだよね。
着飾るのもまぁ……自分は照れくさいけど、人が着飾ってるのを見るのは好き。誰かによく見られたいっていうのより、その人がお洒落を楽しんでるっていう感じの。別に美しいって思わなくても、楽しそうにお洒落してる人は素敵だなって思う」

はなび「差別主義者め!」

このは「ええー?」

はなび「人を見た目で判断する! 美しさで優劣を決める! それがどんなに人を傷つけることか!」

このは「や、だからさ。別に美しくなくても、本人が楽しければ好きなファッションでいいじゃんって立場。危険や迷惑でない範囲で」

はなび「あっ、うっ、えっ……あ、そうですか。それならいんじゃね?」

このは「なんだかんだ、美しいものが好きだっていう感覚はどうしようもないのかもね。
はなびだって、さなえがぶちゃいくだったら好きになってないでしょ?」

はなび「はぁっ? べっ、別に顔がどうとかじゃないですし!
っていうか、好きだとかどうとか適当なこと言わないでくれますか!?
過去の話! 確かに過去、あいつを好きだった時期はあるのかもしれない!
それをお前、その程度の話をいつまでもしつこく掘り返して! 恥ずかしくないんですかね?」

このは「必死だなぁ」

はなび「むっきぃー!」

このは「例えばだよ? 例えば、大好きな人が怪我をして、腕が無くなっちゃったり、顔に傷がついちゃったらどうする? 嫌いになっちゃう?」

はなび「そんなわけないだろ! 一生大事にする!」

このは「おぉ、即答。かっこいいな」

はなび「かっこよくねぇーし! 嬉しがらせるな! オレの心を侵略するな!」

このは「まあ、一生大事にするって言ったところで、はなびが選ばれるとは限らないんだけどね」

はなび「うぐっ」

このは「醜い人は可哀想だから、自分が選ぶ立場だって思っちゃった? 残念でしたー!」

はなび「うわあああああーーーーーっ! オレはっ! オレってやつはっ! 許してくれ、許してくれぇーーっ!」

おばあちゃんがふすまを開けて顔を出す。

おばあちゃん「どうしたの、ケンカしてるの?」

はなび「おばあちゃん、ケンカではない、大丈夫……。
人を見た目で判断していた、オレの心が許せないんだ……。
ケンカというならそう、オレはオレ自身と闘っているのかもしれない……」

おばあちゃん「そっかぁー、大変そう。このは、お風呂入っちゃいなさいよ。冷めちゃうから」

このは「はぁーーい」

はなび「オレは、オレは……」

おばあちゃん「なんかオレオレ詐欺みたいになってるけど、大丈夫?」

はなび「オレはオレのことで精一杯だから……。このままじゃ、だれも幸せになんかできない……」

おばあちゃん「青春ね!」




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