成分表示

「小学校の六年間で、
私が割った牛乳瓶の数は
いくつだと思う?」

お風呂上りにはこれでしょ、と
当然のように差し出された牛乳瓶を手に
私は唖然とするしかなかった。

拒絶は破壊の理由になりうるけれど、
そこに正当性は溶け込めない。
(フルーツ牛乳のように上手くは折り合えないもの)

ひとつ、ルールに従うこと
ひとつ、約束を守ること
ひとつ、嘘をつかないこと

必要不必要を検査する余裕はなくて、

「緊急オペが必要です」

手術室までの直行便に乗り込んで。

トカゲのしっぽ切りのように
早々と切り捨てた
道徳という名の枷

重すぎるしっぽを引きずっていては
とても歩いていくことができなかった。

やがて、衝動性だけに従順だった
思春期を脱ぎ捨てて、
新たに身に纏ったのは
虚偽のシュミーズ。

”チラリズム”の法則に則って、
誘惑的な隙間を提供します。

一本目を飲み終えた彼が
私の手から未開封の牛乳瓶を取り上げた。

「飲めないなら、もらってもいい?」

銭湯通いをしたことのない私にとって、
牛乳瓶は思春期の証明。
もう大人なのに、どうしてそんなものを飲むの?

「まだ成長期なんだ」

腰にタオルを巻いただけの姿で、
彼は空になった牛乳瓶を振りながら、
得意気に前歯を覗かせた。

そのとき、愛しい人の骨が
私の大嫌いなものを取り込んで
醜く育っていく音を
ふと、聴いてみたくなった。

私は彼の足元で膝立ちになって、
タオル越しにその足を抱きしめた。
膝に耳を押し当てる。

「何してるの?」

彼が不思議そうに私の顔を覗き込む。

「骨が伸びる音を聴いているの」

ここから先は

0字

¥ 100

期間限定 PayPay支払いすると抽選でお得に!

いつもサポートありがとうございます。 『この世界の余白』としての生をまっとうするための資金にさせていただきます。