暑中お見舞い申し上げます
庭に咲いた白百合の花を手折って、ミニワンピースに仕立ててみたの。披露がてら、ちょっとそこのポストまで出かけてきます。
「太腿、いかがですか?」
道中、ブロック塀に寝そべって、しっぽで釣りをしている猫に問いかける。
青葉の茂る桜の木に置き忘れられた、蝉の脱け殻はお守り代わり。
大人になった瞬間から、砂時計の砂は零れはじめる。ひっくり返してくれる存在などここにはいない。
神様は片道切符しかくれないもの。だけど、どのみち生は丸いのだから、同じことでしょう。
五年間、綿密に練り上げてきた計画を、一カ月以内に実行しなくては。
蝉たちは慌ただしい交尾合戦を開始します。
彼らの交尾は果たして快楽を伴うのかどうか。
ところで、あなたのお母さんはどんな顔をしていましたか?
……意地悪な質問をしてごめんなさい。
赤いポストはタバコ屋の前に生えていた。
無記名で投函した私の舌、二枚で1セットです。
要らない方は、後日返送してください。
『暑中お見舞い申し上げます。
世界の濃度はいよいよ高くなって参りましたが、あなたはどうお過ごしでしょうか。
私には父がおりません。母も。
だけど、私は確かに十五年前、この世界に産み落とされました。
人は神の子なのですから、これで十分でしょう。
ところで、神様の存在って、あなた信じます?
私ですか? 私は生来無神論者です。
だって、神様も悪魔も人間そっくりなんですもの。
盛りのついた太陽は、そろそろ月と交尾でもおっぱじめるのかもしれません。今年はいくつ新しい星が生まれることでしょう。
まだまだ暑い日が続くようです。くれぐれもご自愛くださいますように。』
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