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土は寡黙(かもく)に生み続ける

私は飢えた土壌
これ以上この中には、
なにも育たないのだと思っていた

だから今後は、
いま熟している実だけで
しのいでいくしかないのだと
頑(かたく)なに閉じた

それから十年以上の歳月が流れ
私はこの土が
思っていた以上にふくよかであることを知った

未だここでは、
毎日のように新しい芽が顔を出し
毎年のように新しい実が結ばれる

誘われるように
蝶や鳥たちが寄ってきては
蜜や果実をついばんでいく

そしてこの先も、
彼らの死骸や食べ残しを肥やしに
ほんのいっとき、
己を不死のように錯覚しながら
せっせと種を育て続ける

いつかすべて食い尽くされて
底に埋まった骨だけになるまでに

なるべく多くの

おいしい、あまい、からい、にがい、しょっぱい、
すっぱい、みずみずしい、まずい、

を結実させたい

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