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祝詞 -norito-

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永遠に解けない暗号を、祈りの言葉に代えて。 詩集のような短編集のような。 書き手の意図など置き去りにして、言葉の羅列から立ち上ってくるイメージや感覚、それらが自分の内側にある世界… もっと読む
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#散文詩

月になった恋人

 近くの公園に半分を鉄板に覆われた球状の電灯がある。それは見る角度によって月のように満ち欠けする。
 それと同じように、人間の頭も髪型によっては月に見えなくもないはずだ。 

 だからーー

 と、あくまでも彼は「自分は月なんだ」と言い張った。天井から吊るした透明のモビール糸に、頭部だけをぶら下げた状態で。

 三日前に彼が突然、この姿を取るようになってから、私は泣いたり怒ったり諭そうとしたり、

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空中金魚

空中金魚

 わたしの弟は部屋で金魚を放し飼いにしている。 
 水もないのにその子たちは実に気持ちよさそうに泳いで見せる。鳥のように羽ばたくでもなく、ホコリのようにただようでもなく、ぽっかりと空気中に浮かび、長い尾ひれを女の髪のようになびかせながら、優雅に移動をくりかえす。

「エサはどうやってやるの」

 と、わたしは畳の上にあぐらをかいて弟に質問した。部屋にはほとんど金魚以外にはなにもなくて、それは弟の部

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