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ヴァイオリン


サラサーテのヴァイオリン曲「ツィゴイネルワイゼン」を誰もがどこかで耳にしたことがあると思う。およそ、ヴァイオリン曲の音色がかもしだす哀愁的な抒情、あるいは華麗優美なリリシズムは、ヴァイオリンがリズム楽器と言うよりも流麗な旋律を奏でる楽器に適しているところから来ると言えるが、ヴァイオリンの名曲は非常に多く存在する。

いろいろな西洋楽器があり、それぞれの楽器の音色にそれぞれの魅力があるのは当然のことであるが、音楽の世界を多彩に色取り、聴く者たちを魅了し、深い感動と喜びを与えてくれる器楽曲の中で、ポピュラーな楽器の代表格がピアノであり、ヴァイオリンであることはほぼ異論のないところであろう。

その二大楽器の人気は、ピアノ曲やヴァイオリンの曲が非常に多いことからもわかる。また、日本には庄司紗矢香さんや諏訪内晶子さん、千住真理子さんなど、非常に優れたヴァイオリン演奏家たちが多くいる。

ヴァイオリン協奏曲の有名なものと言えば、ベートーベンの「ヴァイオリン協奏曲ニ長調作品61」、メンデルスゾーンの「ヴァイオリン協奏曲ホ短調作品64」、ブラームスの「ヴァイオリン協奏曲ニ長調作品77」、チャイコフスキーの「ヴァイオリン協奏曲ニ長調作品35」などが挙げられる。

そのほかにも、ヴィヴァルディ、モーツァルト、バッハなどの、実に多くのヴァイオリン協奏曲がある。作曲家も演奏家もヴァイオリン曲に熱心に取り組んできた証しである。

ベートーベンと並び称されることの多いブラームスであるが、彼はベートーベンと同じく独身で生涯を終えた。

彼の気難しい性格からすれば、対人関係、特に、女性に対する愛情の表し方はぎこちないものがあったと思われる。大人との付き合いが下手であったのと対照的に、子供に対しては優しい愛情を示したエピソードが残されている。

散歩の好きなブラームスは、いつも沢山のキャンデーを持ち歩いて子供たちに与えていた。純粋無垢な子供たちだけにはブラームスの心は開かれていたようである。

何人かの女性に心を寄せて、結婚の機会もなくはなかったと思うが、結婚までに至らないところにブラームスの性格が関係していたと言えるのかもしれない。

しかし、その内気なブラームスの内面に充満したエネルギーはひとたび音楽創造に向かい始めると、多くの傑作を生み出すことになったのである。

ブラームスの心境は、晩年、宗教的な世界へと沈潜していった。自然と子供だけには格別に愛着を示しながら、大人世界には非常につれない素振りを見せることの多かった彼の性格がたどり着くべくしてたどり着いた至高、至聖、至美の神の世界に最後の救いを求めたのかもしれない。

しかし、大人世界であっても、親戚の者たちに対してだけは、惜しみなく金品を分かち与えていた気前の良いブラームスであったから、身内の者たちへは例外的に心を開いて、愛情を示すことが出来たというのもブラームスの一面である。

いくら独身者と言えども、家族や親戚縁者は大切なものであり、心の支えであることは否定することが出来ない。家庭の支え、家族の愛情、親戚、友人知人との交流、これらの近しいところでの人間関係は、人間らしい生き方に最も密着した要素であり、家族主義という人類世界の平和な未来を築き上げていくための必須要件となるものである。

サン=サーンスの傑作「序奏とロンド・カプリチオーソ」はヴァイオリンの名手サラサーテのために書かれたものであり、非常に人気の高い作品である。

一般的に、クラシックに限らず、ヴァイオリンは大衆音楽にも大いに威力を発揮していて、例えば、さだまさしなどはヴァイオリンの音を彼の作品に多く反映させている。

また、アメリカのロック・バンドのカンサスがヒットさせた「ダスト・イン・ザ・ウィンド」などを聞くと、曲の途中で入ってくるヴァイオリンの音色がこの曲に品格と優美さを与えており、ビューティフルロックの代名詞と言ってもよい仕上がりになっている。

ヴァイオリンは、弦を張った本体と弓と演奏者の三位一体から、楽曲を奏でる仕組みであるから、ヴァイオリン音楽はこの三者の絆の音楽と言える。

ヴァイオリンを聴きながら、家族の絆、社会の絆、人類の絆を深めるという平和願望の思いが湧き立ってくるのはどういうことだろう。自然なことかもしれない。今、ぼくはそういう気分だ。


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