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組織は戦略に従うbyアルフレッド・チャンドラー①


組織は戦略に従うbyアルフレッド・チャンドラー①
 
アルフレッド・チャンドラー(1918-2007)は、アメリカ合衆国の経営史学者であり、ハーバード・ビジネス・スクール及びジョンズ・ホプキンズ大学において経営史の教授を務めました。
 
彼は、現代企業の大規模化と経営構造の変化について幅広く執筆し、その業績は経営史、経済史を再定義するもので、「アメリカ経営史の草分け」と評されています。
 
チャンドラーは、『経営者の時代』でピューリッツァ賞の文学芸能―歴史書部門を受賞しました。また『組織は戦略に従う』(原題 "Strategy and Structure")はよく知られている彼の代表作です。
 
大学院時代に大叔母が急死し、マサチューセッツ州ケンブリッジにある家の半分とともに大叔母の父、チャンドラーの曾祖父にあたるヘンリー・ヴァーナム・プアー(スタンダード・アンド・プアーズ社の前身、プアー出版の創業者)が残した膨大な経営史資料を継承することになりました。
 
母親がデュポン家と関わりがあり、デュポン家の一次資料に接することが出来たことから、彼の著作、『組織は戦略に従う』において大企業の経営史をまとめた業績の出発点となっています。
 
彼の人柄は、非常に謙虚で誠実であったと言います。ハーバード・ビジネス・スクールで教授職にあった時に、高齢であったにもかかわらず、冬場でもチャールズ川を渡って、対岸にある経済学部に、マイケル・スペンス学部長をしばしば訪れていました。
 
スペンス学部長はチャンドラーの息子ほどの年齢であり、連絡いただければ自分から出向く旨を申し出ましたが、チャンドラーは自分が依頼する立場であるからと固辞し、自らが足を運ぶのを常としていました。
 
またハーバード大学で論文指導を受けた米倉誠一郎氏が卒業式の際に「この御恩をどうお返ししたら良いか」と挨拶すると「僕に返すのではなく、君の学生に返すのだ」と答えたと言います。
 
『組織は戦略に従う』(原題:“Strategy and Structure”)はデュポン、ゼネラルモーターズ、スタンダード石油ニュージャージー、シアーズ・ローバックの四社の経営史をまとめ、量的拡大、地理的拡大、垂直統合、製品多角化といった企業の規模拡大を伴う戦略が専門の経営者および経営会議の導入、すなわち、事業部制という組織変更へ向かったことを論じています。
 
彼は経営史の研究者として歴史から一般論を導き出すという観点で執筆し、その結果、導き出した一般論が「企業規模の拡大化を受けて意思決定を分権化する必要が生じる」ということでした。
 
その具体的な形態が「事業部制」です。『組織は戦略に従う』の序文で、組織のマネジメントに当たる人々は、大きな危機に直面しないかぎり、日々の業務の進め方や権限の所在を変えることはないと書いており、企業規模の拡大に伴う戦略の変更が、組織に影響を及ぼし、事業部制に向かうことを指摘しています。
 
実際には、組織が先に変わって戦略に影響することもありえるとも言っています。企業規模だけでなく、市場の動向によっても様々な組織のあり方が考えられ、経営者は適切な情報と手段をもって企業組織を体系化する必要があると、論じています。
 
よく勘違いされることがあるのですが、『組織は戦略に従う』(邦題)というチャンドラーの著書名から、戦略が組織に影響を及ぼすとだけ考える人がすくなくありません。しかし、チャンドラーが言っているのは、「戦略が組織に影響を及ぼすのと同じように、組織も戦略に影響を及ぼす」ということです。
 
原題の『Strategy and Structure』は、「戦略と組織」でありますから、戦略と組織の相互的関係、双方向的関係を表しているわけです。
 
チャンドラーは、徹底した企業研究を通じてマネジメントの重要な本質を示しました。あるべき組織の姿をゼロから考えずに、過去の事例から学べば、成功の可能性はより一層高くなるというわけです。
 
米国の核心的企業4社であるデュポン、ゼネラルモーターズ、スタンダード石油ニュージャージー(現エクソンモービル)、シアーズ・ローバックを、チャンドラーは研究し、この4社はすべて、1920年代に、「事業部制組織」を生み出した企業であることを知りました。
 
事業部制組織と言われても、そんなことは分かっているという企業も多いかもしれませんが、案外、その強みを生かせないでいる組織は多いのではないでしょうか。
 
事業部制は、先人たちが課題に直面し、試行錯誤の末に生み出したものです。まず、組織を考える場合、組織には、すべての意思決定をトップが握る集権的組織と、意思決定を権限委譲する分権的組織があるということです。
 
チャンドラーが研究した米国の4社は、集権的組織でしたが、事業を拡大し多角化したことで、多くの課題に直面していました。
 
デュポンは火薬メーカーでしたが、余剰人員の対策として、事業を多角化しました。しかし、業績低迷で、分析の結果、事業多角化に合わせた組織にしなかったことが原因であることが判明します。
 
たとえば、法人顧客と個人顧客、大口案件と小口案件に対してビジネスのやり方がまったく違うことを見逃し、社内では至る所で混乱が起きていました。
 
ゼネラルモーターズは、創業者が拡大路線に走り、多くの自動車会社を買収、傘下に収め巨大化したものの、適切な組織作りには関心を持ちませんでした。お互いに連携がなく、無駄の多い組織になっていました。不況で自動車の需要が低迷すると、販売も急落し、創業者は退任に追い込まれる事態となりました。
 
スタンダード石油ニュージャージーは、ロックフェラーが創業した巨大企業・スタンダード石油が、最高裁の独占禁止法に基づく命令で34社に分割されたうちの一つで、分割により多角化を図りましたが、組織体制の未熟さにより需要急落、過剰生産など様々な危機を招いていました。
 
シアーズ・ローバックは、カタログ販売で成功した会社ですが、直営小売店を展開した結果、1925~29年に事業は急拡大、しかし、カタログ販売は熟知していても、小売り直営の経営ノウハウと人材が欠如していて、事業運営は混乱に陥っていました。
 
結論として、集権的組織の上記4社は、トップ一人に集中する組織で、会社の多角化後の多岐にわたる知識や複雑な判断に対応するには、無理があり、組織の在り方の見直しは不可避であったのです。

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