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この世界に必要な「ぞんざいさ」について

昨日、人生で3回目の矢野顕子さんのコンサートを見た。数曲でわかったのは、矢野顕子さんは圧倒的なオリジナリティと、音楽との愛情関係を、ある意味ぞんざいに扱えるから最高だなということ。

私の思う「ぞんざいさ」について書いてみる。

今日、なかなかいいお値段の、味もサービスも素晴らしい蕎麦屋に初めて訪れた。徹頭徹尾パーフェクト、文句のつけようが無いお店。とても良い体験だった。

だけど、私と夫は恐らく次はまた、いつものぞんざいな蕎麦屋に行ってしまうのだと思う。そのぞんざいな蕎麦屋は家族経営で、完璧にはほど遠く、接客にもムラがあり、忙しいとみんながパニックになってくる。なのでこちらも忙しい時間はなるべく避ける。味はちゃんと美味しくて、でもとびきり何かを語るような美味しさではない。だけど、ちょうどいい。

それは、お店をする人間が「我々の個性はこれ!」などと強く思いブランディングしていたら成し得ない空気で、お店の方々はただ懸命に生きてお店をやっているだけで、何かを犠牲にしていない。食べログでどう書かれていようがそもそも読んでないだろう。ただ毎日、目の前のお客さんをぞんざいに愛している。それはこちら側もぞんざいに食事を楽しんでいい、という許しを与えられていることでもある。その許しあっている空気の中いただく酒や飯は、ちょうどよくて、おいしい。

話を戻して矢野顕子さんのライブ。矢野さんは、世界で唯一無二のオリジナリティ、音楽と自分の境界線の無さ、音楽家としての太さを圧倒的に見せつけながら、「あ!まちがえた!」と途中で詰まったり、「曲のキーが思い出せない…これはやるのやめた!」と本当にやめちゃったり、「久々にやるから間違えるかも!」と言ってからやり始めたり、でかいホールをソールドさせてるとは到底思えないくらい好き放題やっていた。

私も昔から相当自由にライブをするほうだが、彼女の背負っている「矢野顕子」というブランド、集客、レジェンドであること、もうすぐ70代に差し掛かる、それらを加味したときに、それでもここまで自由でいいのか、と衝撃を受けた。そして、それでもやっぱりみんなが笑顔で満足して帰れるのは、シンプルに当たり前に音楽が最高に素晴らしいこと、そして矢野顕子さんが自分自身と音楽の関係性を全く疑っていなくて、ご自身もおっしゃっていた「私は私がアートだから」という言葉の通りのライブをするので、こまけえことはどうでもいい、この天才が目の前で生で歌ってくれてマジでありがてえしかないっていう気持ちにさせてくれる。

ああ、なんだかとってもいいなあ、これは現代人に必要な力だ、と感じた。

日本人はただでさえめちゃくちゃに几帳面で真面目なのだが、昨今は若い人たちも含めより一層「完璧に、隙がなく、文句を言われないようにやる」という流れになっている気がする。文句を言う人たちの声が大きすぎて、それがあまりにもクソ面倒なので、とりあえず文句を言われないようにみんな気をつけてる、という空気。私はこの空気がとてつもなく嫌だ。すげえ嫌だ。

大体、人間なんてみんな不完全であり、だってほら、あなただってそうでしょう?完璧なわけがない。それはすべての人間においてそうで、あの大谷翔平さんだって絶対完璧ではないはずだ。文句を言わせないのが上手なだけで、きっとアラはある。それが当たり前なのに、完璧に見える人がちょっと何かアラを見せるとそこを叩きたがる人たちが一定数いる。

かわいそうに、と思う。きっと自分の人生に満足がいっていないのだろうから。

誰かを簡単に攻撃する人は、他者に攻撃をしかけているようで、自分自身をいじめている。完璧を求められる社会の中、到底完璧になれない自分を責め続けていては生きていけないから、SNSの世界で自分以外の人の足りない部分を責めることで何かを解消しているつもりになっているのだろう。まじでかわいそうだと思うけど、言われたほうからしたら突然石を投げられてるのと同じなので言われた人もやっぱりかわいそうだし、本当にもうそういうのはやめようやって思うけど、なかなかそうもいかないのが困った人間界。

そんな人間界の中で、「愛をもってぞんざいである」ことを堂々とやる人たちは、きっと世界をよくしている。足りない部分を隠さない、できないことを取り繕わない、人にどう言われても思われてもいい、私には私にしかできないことがあるんだよん!っていうことを気負わず生きてる人たちを見るたび、これは希望だな、と思う。

なぜこんなに熱くぞんざいについて語り始めたのか今わかった。私自身、実は「ぞんざい」が得意じゃないのだ。かなり完璧主義だし、先日のライブでもたくさんの方が涙を流して「大好きです」と声をかけてくれたのに、「いやあ、私的にはクソライブすぎて恥ずかしいです・・」みたいな気持ちになってしまい、人々がかけてくれた声を素直に受け取ることができなかった。これはもう昔からずっとそうで、私は私を許すことが本当に苦手だ。こと音楽に関してはもう能力が足りなさすぎて毎回発狂しそうだ。

でも、矢野顕子さんも、「ピアノうまくなりたいなあ、本当にうまくなりたいなあ」ってライブ中に独り言みたいに言ってた。あのレジェンドクラスの彼女ですらまた途中だし、まだ何も満足はしていない。だけど、私は私なのだ、という腹をくくって、自分の中のぞんざいさもそのままに、あそこに立っているんだと思う。音楽と愛し合っているという真実のみを持って。その姿は私に途方もない勇気を与えてくれたし、自分の未来への希望を新しく抱くことができた。

私はこれからも満足などできないまま、もっとぞんざいな自分になっていこうと思う。「あいゆうえにい」の最後、「これでいいのだ〜!」と歌うとき、本当にこれでいいのだって思いたいのだ。

みんなも、もっと「ぞんざい」でいいよ。人間は、愛し合い、許し合うために生まれてきたんだって、私は思うから。

ぞんざいに、またライブに会いにきてね。

<つるうちはなのライブ>

9/16(月祝)昼公演
mona records presents『LOVECALL #7』
出演 中村千尋 / kiwano / つるうちはなと家族
時間 open 12:00 start 12:20
料金 ¥3,000+1Drink ¥700

<各ページURL>
イベント予約ページ
https://www.mona-records.com/livespace/21021/

ツイキャス予約ページ


2024/12/21(土)昼公演 新宿Marble

花とポップス企画「べにちゃんとはなちゃんのクリスマス会」
●出演 usabeni/つるうちはな[ゲスト]MaNaMaNa/Nakanoまる/凜佳
●OPEN 11:45 / START 12:00
●前売り¥2900(D別) / 当日¥3400(D別)
ご予約は https://tiget.net/events/340097 まで
●ツイキャスプレミア¥2000

※アーカイブ2週間(〜1/4 23:59)

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