師匠と弟子と地域寄席、続けることで育つもの――三遊亭遊雀×三遊亭萬橘・対談【後編】
「遊雀・萬橘二人会 vol.3」の開催を記念して、三遊亭遊雀師匠と三遊亭萬橘師匠にお話を伺いました。師匠から教わったことを血肉化するための心構えとは?
(取材協力=にっぽり館)
対談の前編はこちら
2023年10月1日(日)開催!「遊雀・萬橘二人会 vol.3」の公演情報はこちら
地域寄席のこれから
――鶴川はちょっと都心から離れていますが、場所について思うことはありますか?
三遊亭萬橘(以下・萬橘) 新しいお客さまと出会える可能性というのはありますね。最近やった噺でも、都心から離れた所だったらもう一回ちょっとやってみようってこともできますし。いつも来てくださるお客さまにも、違う反応であることを見せられる。
三遊亭遊雀(以下・遊雀) 東京や大阪以外の地域寄席ってあるじゃない。長く続けていることで、そこら辺のホールでやってんのと全然違うよっていうブランドができてくれば、それはすごく大きなことだと思う。それが鶴川にあるということも、町田とか多摩地域の人たちのひとつの誇りになる。
――「鶴川がやっているんだったら信頼して行く」という、そこにようやく足掛かりができてきた感じなんです。10年やってもそうなので続けるって大事です。
遊雀 そういうふうになると一番いいよね。それを続けるためには、演者もそうだけど、いわゆる本意気的な感じでただやればいいってもんじゃない。
――落語を聞き慣れていないお客さまが多いところでは。
遊雀 塩梅しながら徐々に徐々にそうなっていくように。10年ぐらい経ったら、割と何やっても受け入れられる。それがネタ帳にあらわれるじゃないですか。
そういうふうになってきて、ちゃんと鶴川落語会のブランディングができれば、これからの10年がとてもいいものになる。
町田にあるということの意味が認識されて、大きくなっていくはずだから。そういうのはやっぱり時間がかかるよね。
無い体力と付き合っていく
遊雀 お互い本当に、年取ったね。
――このまま一緒に年を取りましょう(笑)。
遊雀 ぐずぐずになるまでねぇ。
萬橘 年の話はやめましょうよ。
一同 (笑)
遊雀 なんかこう、せっかくだからね。
――同時代に生きていて、好きだなと思う噺家さんを見つけたら、自分と一緒に年取っていくのを見ていける。それってすごくいいところだなぁと思うんです。
萬橘 それはありますね。芸をやってる時間が長いから。
――師匠方は体のメンテナンスはどうされてますか?
遊雀 まだ40代はあんまり考えないんじゃない? 50過ぎて突然、わっ、てくるもんね。
萬橘 体力はつけなきゃいけないとは思ってますね。
遊雀 走りましょうとか、筋トレしましょうとかは、おいらは勧めない。いかに、その無い体力と付き合っていくか。それでいいと思う。結局そんなに裕福でもないから、まぁまぁ運動してるんです。だって歩いてるしね。
――そうですね、タクシー乗らないですし(笑)。
遊雀 東京の地下鉄なんかさ、乗り換えるだけでびっくりする。田舎の人は驚くんだよね、乗り換えで500mくらい歩くって。
萬橘 蔵前とか無理ですよ。
遊雀 それが東京の普通。東京の人はびっくりするくらい歩くのね。だから実は運動してるのよ。
――私も毎日8000歩くらいは歩いています。
遊雀 今は1日1万歩歩いたら危険だって言われてるんですよね。8000歩くらいでいいんだって。
萬橘 暑いから?
遊雀 昔は「毎日1万歩歩きましょう」って推奨されてたんだけど、先生がいろいろ調べたら、それは駄目だってことが分かって。今、先生たちは謝ってる。
萬橘 うちにはまだ謝りに来てないですけど。
一同 (笑)
萬橘 8000歩計に変えた方がいいね。
遊雀 それいい提案だな。万歩計じゃ駄目だ。
噺の変化
――年を重ねてきたことで、噺の変化はありますか?
遊雀 テンポが落ちるから、それはそれでいいっていうかね、楽しい。
萬橘 僕はメンタルの影響が覿面(てきめん)に出ますね。真打ってなると、ある種の責任感を持たなきゃいけない立ち位置ではあるので。
遊雀 多分あと10年経つと、集中力が変わると思うよ。ある人が言ってたのは、本当に集中しないと落語喋れなくなる。
萬橘 へぇー。
遊雀 萬橘ちゃんはまだ若いので、喋りながらあれもこれも考えられる。それがだんだん、本当にその瞬間は噺に集中しないと終わっちゃう、喋れなくなっちゃうんで。背負わなきゃいけないことはたくさんあるんだけど、それを一旦は楽屋でしまって、高座に上がった15分だけは噺に集中する。そうなるとまた、全然変わってくると思う。
師匠として言うべきこと
萬橘 遊雀師匠は、置いてきたものに対して思いを馳せることってないですか? 高座はまた別ですけど、例えば若いときに、これをやっとかなきゃいけなかったんじゃないかな、ということを。
噺家って特に長い仕事だから、やっとかなきゃいけなかったはずのことを今やってないんじゃないか、って。心配になることってないですか。
遊雀 お芝居はね、若いうちに見なさいよって言われてたけど、当時は全然分かんないしつまんなかった。もちろん若い頃に面白いと思えたら、それはそれでいいんだけど。おいらなんかは、40後半とか50くらいになって改めて芝居を見る機会があって。たまたま見た時に、初めて心の底から、なんて素敵なんだろうと思った。
若いうちから見て、勉強したものをただやりなさいって言ったって、当人が技術的な意味で受け入れてるだけで感激も何にもしてなかったら、なんてことない。
例えばこの間も(神田)伯山さんの芝居に出させてもらったけど、お芝居の噺をするとかね。俺は役者じゃないけど、でも芝居を見てすごい感激して。あんなところで戦っている、そういう人たちが喋ってるんだなって思ったときに、言葉が自然と出てきたりする。
本当に感激してたら、そういうのあるじゃん。そうじゃなかったら、教わった通りのなんてことない言葉しか出てこない。間合いも違うしさ。だからやっぱりね、全然いいと思う。そういう感動と感激に出会えなかったらそれまでだ、って。
――タイミングがやってくるってことですね。
遊雀 そうそう。その人がもし、そういう瞬間が死ぬまでなければそれっきりだし。師匠としては弟子に「芝居見ておきなさい」とか「いろんなことやっときなさい」って言うべきだろうけど、それは師匠として言うべきことは言って、やるかやらないかは当人の仕事。
30代のときに面白いものに出会うのか、50になってからなのか、死ぬまでないのか、って分からない。それは芸人の運だから。その当人がとても大好きな、ドキュンとくるものって各々違うわけじゃない。
ただ師匠としては、全部何だっていいんだよっていうのは、俺は間違ってるとは思う。やっぱりちゃんとやんなさいよ、って。
通り一遍だけど、ちゃんとやりなさい、稽古しなさい、あれしなさいって、それは言わなきゃよ。お父さんじゃないけど。それを弟子がどういうふうに受け取って、どう育っていくかは師匠だって分かんないよね。
萬橘 そうですね、分かんないですよね。
遊雀 分かんないよね。「誰の弟子? えっ萬橘さんの弟子なの?」みたいなのもあるわけじゃない。
――それぞれの師匠でも、本当にいろんなお弟子さんいらっしゃいますよね。
遊雀 そうなのよ。でもそれが面白いぐらいにちゃんと“ザ・萬橘の弟子”っていうのは必ず出るし。ちゃんとしたという言い方は変かもしれないけど。
――若いときにこうした方がいいって言われても、分からないことってあるじゃないですか。
遊雀 一応やるけどね、行きなさいって言われりゃ行くけど。
――踊りをやった方がいいってよく聞きます。例えば日本舞踊とか。
萬橘 そうですね。
遊雀 それが得意な人、踊りをやって仕草が綺麗な人はいる。でも全員が全員、仕草が綺麗でお辞儀も綺麗だよねってなったら、それは気持ち悪いじゃない。
――弟子を育てることというのは、子育てに近いですか?
萬橘 責任を半分にできないですね。おかみさんに分けられない。子供はカミさんに押し付けて、っていうのはたまにあったりするじゃないですか。
――子供は夫婦両者の責任ですが、師弟は一対一。
萬橘 そうですね。だからやっぱり、そういう(子育てとは違う)部分はありますね。
テレビ、ラジオ、生の落語
遊雀 (落語を)通り過ぎてる人って、いっぱいいるはずなんだよね。
萬橘 キャッチできるアンテナだったり、それこそタイミングはあるんだろうけど。
遊雀 やり続けることによって、いつかドカンと馬鹿ハマりするような人がいると思う。そういう人を何人かでも受け入れる。その為にずっと、やり続ける。
――年齢関係なく、たまたま来た方がハマってくれたらいいなと思います。
遊雀 同じものを見てるのに、たまたまそのとき見に行って「えっ、なんだこれ!」って思う、そういう瞬間が必ず来るじゃない。そうなる前は「教養ですから、見とかなきゃいけないですから」って感じだったものが。
――そういう心境になっていなかったものが、受け入れ態勢が整ったといいますか。
遊雀 ある日突然ね、なんでもなく普通に行ったら「あら!」って。そういう瞬間が必ず来るから。落語が本当に大好きな人がたくさん来てるのも分かるんだけど、生でそんなに見たことないとか、ラジオでは聞くよっていう人こそ。鶴川に来るのは年2遍でいいからさ(笑)。
――これをきっかけに、生の落語に触れていただきたいです。
遊雀 最初は、ラジオとそう変わんねぇなって思うかもしれないけど、年2遍来てるうちに「あ、全然違う!」って心の底から思える瞬間が必ずくる。そのときに熱く語り出したら、止まらないのよその人は。
萬橘 そうですね。
遊雀 気が付いた瞬間にはもう止まらないの、いろんな意味で熱量がすごくなるから。そんな人を増やしたいね。「俺は落語まぁまぁ知ってるよ」って人こそぜひ来てほしい。
――テレビで見るのと生で見るのでは全然違うんですよね。配信してほしいという要望をいただきますが、鶴川落語会ではやらないんです。配信は配信の役割がありますが、うちはその役割ではないという。そういうところを大事にしています。
遊雀 あとは、熱意があるほうがいいよね。そこに対してお客様が誇りに思えるから。やっぱりそういうのも大事じゃない? 同じ品物を買うとしてもね。落語を品物に例えてもあれだけどさ。AmazonはAmazonの良さがあるけど、三越とか松屋っていう選択肢もあるじゃない。
――同じコーヒーを飲むにしても、お店の雰囲気が違えば味が変わるってことありますもんね。
鶴川でしか味わえない、遊雀師匠と萬橘師匠の落語をお楽しみに!
聞き手=今野瑞恵 構成・撮影=中瀬裕 文責=鶴川落語会
「遊雀・萬橘二人会 Vol.3」にご来場の方限定で、Web未掲載のトークを配布いたします
遊雀・萬橘二人会 Vol.3 公演情報
■開催日時
2023年10月1日(日)
13:00開場/13:30開演
■会場
和光大学ポプリホール鶴川
〒195-0053 東京都町田市能ヶ谷1丁目2-1
小田急線・鶴川駅北口から徒歩3分
※新宿駅から鶴川駅までは小田急線で約30分
■料金
一般:前売3,800円/当日4,000円
U22:前売1,800円/当日2,000円
※全席指定席
※U22のチケットは、鶴川落語会、町田市民ホール、かわせみチケットオンラインでのみ購入可能です。当日は年齢確認のため身分証をお持ちください。
■チケット取扱
鶴川落語会
かわせみオンラインチケット
イープラス
町田市民ホール(042-728-4300、窓口)
和光大学ポプリホール鶴川(窓口)
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