見出し画像

【特別対談】大人になってしまった私たち|#37『ナイトスイミング』

劇団代表作の中でもとりわけ人気の高いSF冒険活劇『ナイトスイミング』。皆様から再演を望む熱い声をいただき、2022年冬、札幌演劇シーズンにて待望の再演です!

公演を記念して、主演の深浦佑太さんと劇団員の佐久間泉真による特別対談を行いました。作品の見どころや登場人物像について語っていただいています。公演の前にぜひご一読ください。

役に近づき、遠ざかる

― 前回の上演から約4年。再び『ナイトスイミング』に取り組むにあたって、意気込みを教えてください。

佐久間 初演が高校1年生(2014年)で、再演が大学1年生(2017年)、そして今回の上演が社会人1年生になります。『ナイトスイミング』は毎回、僕の人生の節目で参加させていただいていて、そういう意味でも大切な作品です。

深浦 新しいことが始まる度に、この作品に取り組んでいるんだね。

佐久間 はい。今回の上演が決まった時、僕の役のタケミナについて色々と考えました。彼は中学3年生で、これから人生における大切な決断が待っている時期です。

以前はもっとタケミナの持つフレッシュさ、キラキラと夢を追いかける姿に共感できていた気がするんですよね。でも、僕自身が大人に近づけば近づくほど、タケミナから遠ざかっていく感覚があります。「なんでタケミナはこんなに明るいんだろう、なんでこんなに夢に真っ直ぐでいられるんだろう」って。

深浦 あー確かに稽古を見ていたら、前回よりちょっとお兄さん目線の演技になっている気がするよ(笑)

佐久間 迷いがあります。中学生ってこんなに子どもだったっけ?とか、あるいは、こんなに大人だったっけ?とか。

深浦 難しいよね。中学生当人は、自分自身のことを子どもっぽいとは思っていない、むしろ大人ぶっていると思うし。

佐久間 大人から見たら明らかに子どもなんだけれど、自分ではむしろ大人の仲間入りをしているような、中学生ってそんな時期ですよね。実年齢がタケミナから遠ざかるほどに、また新しく難しさを感じています。

タケミナ役:佐久間泉真

佐久間 深浦さんの演じるサルタは35歳の設定ですね。

深浦 そうだね、僕がいま36歳だから、逆に上演の度に役に近づいている感覚があるよ。単なる年齢だけじゃなくて実感としても。初演の時は、サルタみたいに人生に絶望していなかったから。

佐久間 今は絶望しているんですか!?(笑)

深浦 絶望するような出来事が人生を重ねるごとに増えていくんだ。初演のときはまだ20代で、好きなことやって人生充実していると感じていたし、サルタの持つ絶望感を、正直理解できていないことが多かった。

それが2017年の再演では、絶望ってこういうことかなって思えることが増えたんだ。それからさらに時が経って、仕事も変わって、責任が増えて、生きづらいなって感じることも増えて。サルタの感覚を理解しやすくなった気がする。

サルタ役:深浦佑太

佐久間 絶望……。思い描いていた自分と違うということですか?

深浦 多分サルタは、自分自身や周囲に対して諦めているんだと思う。僕自身も実生活で諦めることが増えて、それがサルタに近づいている気がする。

佐久間 僕と逆ですね!タケミナから遠ざかる僕と、サルタに近づく深浦さん。登場人物の持つ希望や絶望感に対して、それを演じる役者が実感を持っているかどうかは稽古の中でも重要な視点ですね。

深浦 僕は年齢的にもサルタを演じるのに丁度良い時期だから、より地に足がついた実感を出せるかが勝負になると思うし、佐久間くんはタケミナにどう近づくか、どうその時代を思い出すかが重要になるかもね。

佐久間 そういう意味では、僕もサルタに近づいているのかもしれないですね。大人になるってそういうことなのかなぁ。大人になるにつれてサルタみたいな一種の諦めを抱えていくのかな。観ている人の年齢や、人生の段階によってサルタに共感したり、しなかったりするのかなと思うと面白いですね。

深浦 他にもこの作品には、生き残った大人としてオクヤマ(池江蘭)とミシマ(村上義典)がいる。35年間でどうやって生きてきたか、三分岐あるよね。受け入れ難い過去に対してもがいているオクヤマと、過去を正当化して自分の生き方を見つけるミシマ、そして腐っちまったサルタ。お客さんによって、共感できる部分が異なるかもしれないね。

2017年上演 サンピアザ劇場にて

中学生から見た大人って?

―「宇宙旅行会社で働くサルタは、旅行先の調査中に事故に遭い、氷で覆われた星に不時着する。そこで彼は、20年前、宇宙旅行事故に遭い行方不明になった同級生達と再会する」というあらすじですが、お二人は自分が中学生の立場で突然35歳になった級友が現れたらどう感じますか?

佐久間 「こんな大人になりたいな」と思いたいですね……。「自分もこんな大人になっちゃうのかな、なりたくないな」とは思いたくない。

深浦 中学生の時って、「この大人すごい」って思わなくなかった?

佐久間 確かに。あんまりなかったですね。

深浦 今だったら学校の先生とかは本当すごいなって思うけど、中学生の時ってあんまり大人に対し尊敬の念を抱かなかったな……。

佐久間 自分も大人になるってあんまり思っていなかったからかもしれないですね。

深浦 そうそう、このまま行くって思っていた。この万能感のまま生きていけるって思ってたし、大人はみんな自分のこと分かってくれないって思っていた。

佐久間 もしかしてタケミナもそうなのかもしれないです。何か未来を見据えて、「絶対こんな大人になりたい!」と思っていたんじゃなくて、未来のことなんて分からないから、自分が大人になるって本当に思っていたわけじゃないから、あんなに恥ずかしげもなく夢を語れているのかもしれない。

深浦 タケミナは、夢を叶えるための具体的な将来設計・ビジョンを持っていたのかどうか。多分サルタが中学生の時は考えていなかったと思う。

佐久間 タケミナも考えていないんじゃないかと思います。まだ漠然と「ああしたいこうしたい、こういう大人になりたい」と思っているだけで、そのために何を決断し、何を犠牲にするのかなんて、きっと考えていない。そこが、「決断せざるを得ない瞬間」をたくさん経験した大人のサルタと、まだ決断しなくてよいタケミナの違いなのかも。

2017年上演 サンピアザ劇場にて

宇宙空間を創り出す

―注目してほしいところや見どころを教えてください。

佐久間 先ほど話してきたように、『ナイトスイミング』は、決断せざるを得なかった大人と、無知ゆえの万能感を抱いている子どもとのギャップ、そんなノスタルジックな側面もあるお芝居です。でもそれだけではなくて、身体、音楽、舞台、照明のプロフェッショナルによる、派手でパワフルでダイナミックなエンターテイメントとなっているので、気楽に楽しんでいただけたらと思います!

深浦 この作品はダイナミックさが良いよね。小劇場演劇として、宇宙空間を共演者全員で創り出すプロセスが優れた作品だと思います。豊かな演技・感情表現にダンス的な身体表現を乗せて、宇宙空間の無重力を心身でどう感じてどう振る舞うか…といった描写や、ロケットが崩壊したときに演者たちが散らばっていく非現実感などが目の前で見て体感できるようになっています。僕も実際に舞台にいて「今、宇宙だ!」って感じられる時があって、それがとても面白いです。

佐久間 時空の歪みと、宇宙の歪みと、登場人物内の心の歪み。ぜひ一緒に体感してほしいです。

2021年12月19日 稽古場にて


公演情報

弦巻楽団#37『ナイトスイミング』

遠い未来。太陽系やその他惑星は次々に開拓され、宇宙は未知でも危険でもなくなりつつあった。
宇宙旅行を企画する会社で働く主人公サルタは新たな旅行先の調査中に事故に遭い、氷で覆われた星に不時着。そこで彼は、20年前宇宙旅行のさなか、事故に遭遇し行方不明になった同級生達と再会する。彼らは当時の姿のまま、氷に包まれた惑星で救助を待ち続けていた。
大人になれなかった彼らと、大人になってしまった私たちを巡る、約束と失望の物語――。

札幌演劇シーズン2022-冬 参加作品

脚本・演出 弦巻啓太

出演
深浦佑太(ディリバレー・ダイバーズ)
村上義典(ディリバレー・ダイバーズ)
池江蘭

遠藤洋平(ヒュー妄)
温水元(満天飯店)
塩谷舞
鈴山あおい(Studio MAZUL)
高橋友紀子

佐久間泉真
相馬日奈
木村愛香音
島田彩華
阿部邦彦

日時
2022年2月5日(土)〜12日(土)
2月5日(土)18:00
2月6日(日)14:00/18:00
2月7日(月)19:00
2月8日(火)19:00
2月9日(水)19:00
2月10日(木)19:00
2月11日(金祝)14:00/18:00
2月12日(土)14:00

※全10ステージ。
※上演時間は1時間40分を予定。
※開場は開演時間の40分前。

会場
生活支援型文化施設コンカリーニョ
札幌市西区八軒1条西1丁目 ザ・タワープレイス1F(JR琴似駅直結)
TEL 011-615-4859

料金
前売・当日ともに
一般 3,000円
学生 1,500円

ご予約(当日清算)
https://ticket.corich.jp/apply/115549/

チケット事前購入
・ローチケ(Lコード:10104)
・チケットぴあ(Pコード:509-399)
・エヌチケ(https://www.ticket.ne.jp/nt/
・札幌市民交流プラザチケットセンター
・道新プレイガイド

スタッフ
照  明:高橋正和
音  響:山口愛由美
舞台美術:高村由紀子
衣  装:佐々木青
衣装助手:斎藤もと
音  楽:加藤亜祐美
振り付け:渡部倫子
宣伝美術:勝山修平(彗星マジック)
記  録:イノッチ
演出助手:大川美希、柳田裕美
制  作:久慈優花、弦巻楽団
制作協力:ダブルス

主催
札幌演劇シーズン実行委員会、演劇創造都市札幌プロジェクト、北海道演劇財団、コンカリーニョ、BLOCH、札幌市教育文化会館(札幌市芸術文化財団)、北海道立道民活動センター(道民活動振興センター)、北海道文化財団、ノヴェロ、札幌市

後援
札幌市教育委員会

お問い合わせ
一般社団法人 劇団弦巻楽団
メール:tsurumakigakudan@yahoo.co.jp
電話:090-2872-9209​

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?