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AirPodsを買った話。

駅に貼ってあるポスターで印象深いものがある。

AppleのAirPodsらしきイヤホンが手足を生やし、

人の耳にぶら下がり「落とさないで〜」と叫んでいるイラスト。

それを見るたびに思うのは、

足の生えている位置がAirPodsのお尻らしき部分よりも1センチくらい上であり、これでは座りが悪いだろうなということと、

やはり落としている人は多いのだろうな、ということである。

Bluetoothイヤホンはそれなりに高い。失くしたくない。

その割には随分とリスキーなデザインではないだろうか?

両耳バラバラと、耳の穴とイヤホンとの相互作用だけで保たれた関係。

あまりにも結合力が弱い気がする。

どちらかというと、解離が早いというか、

いや、専門用語を使う必要はないんだけど、要は

すぐに外れそうで怖い。という不安。

そんなこんなで今の今まで購入は見合わされていたわけだけれど、この度色々あって旦那氏にApple Watchを買っていただいたことを皮切りに、

Mac、Iphone、Apple Watch、そしてAirPodsと揃えたくなってしまったのだ。

気が付けばビッグな電化製品店へと向かい(別に善でもなんでもないんだけど)、店員さんを呼び止めてAirPods Proを指差し「これください」と言っていたのだから自分の物欲が恐ろしい。

そうして私は、ほとんど何かに操作されているかのような感覚でAirPods Proを手に入れた。

久々に自ら購入したガジェットに心が踊り、近場のコンビニのイートインへ出向き、そそくさとIphoneと接続し、耳に装着した。

AirPods本体のボタンを長押しするとAirPodsは「ふぉーん」という近未来的な音を立て、

スッ と静寂に私を閉じ込めた。

え、何これ。

私、電脳化した?

そう思っても過言ではないくらいの、ノイキャン効果。

やばい、AirPods舐めてました。すみません。

めちゃくちゃいいんすね!!!!

初めてのノイキャン体験に興奮を隠せず、鼻歌歌いながら銀ブラし満足したので電車に乗って帰路につく。

ノイキャンを入れたまま電車内でラジオを聞く。

素晴らしい。

声がクリアに聞こえる。無駄に音量を上げなくとも良いところは、大変に耳に良いだろう。

コロナの影響で窓を開けて走行する電車のノイズ、仕方がないと理解しながらもラジオが聞きとれない歯痒さを感じていた私は、終始、口角をあげてしまうほどの感動に包まれながら電車に揺られた。

そんな最高な気分を噛み締めている最中に、ちょっとした不穏な空気を感じとった。

なんとなしに周りを見渡すと、一方向に車内の視線が集まっていることに気づく。

なんだ〜?とノイキャンをオフにすると、50台くらいのお兄様がギャルに喧嘩を吹っかけていたご様子である。

大声を張り上げるお兄様に対し、ギャルは言う。

「みんな怖がってるから大声だすのやめなよ」

ギャルよ、流石である。

完全に兄さんの負けだよ。

ノイキャンが完璧なせいで経緯は全く不明だが、このギャルのセリフに勝てるものだとあるだろうか。

案の定、お兄さんは「ばーか、ばーか」と連呼して電車を降りた。全く大人気なく、愛おしさすら感じてしまう。

そして切なくもその最後の遠吠えは、ギャルの完全勝利の狼煙でもあった。


今になって気に掛かるのは、喧嘩の経緯である。

私が電車に乗ったときには喧嘩をしていなかったのだから、もう少し早く異変に気が付けていれば、お兄様の開口一番を聞けたのに。

うーむ、高性能のノイキャンめ。

そう思うと同時に競り上がるのは、

「なんでそんなこと気にしてんだよ、この駄人間め」

と、罵る自分自身の言葉だ。


どんな状況であれ、私の複雑な乙女心は止まらないのである。


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