思ひ出ボロボロ

全部嘘(妄想)ですが、この思い出について、少し詳細に、後日談まで含めて語ってみたいと思います。

その幼馴染の女の子は、高田幸子さん(仮名)という名前で、「さっちゃん」と呼んでいました。

いえ、ずっとこのように呼んでいたわけではありません。

幼稚園~小学校低学年くらいまでは『さっちゃん』と呼んでいましたが、小学校中学年くらいになると男子女子の区別があって、『男子は女子とは仲良くしてはならない』みたい風潮もあって、私は『高田』と呼び捨てにしていました。

でも、彼女は私のことをずっと『鶴くん』と呼んでいてくれて、例えば下校時の帰り道のような、他の友達がいない二人きりの時は、いつも『さっちゃん』『鶴くん』と呼び合っていました。

家も近所でした。親同士も仲が良く、またさっちゃんのご両親は忙しくて彼女が一人で家にいることが多かったため、彼女はよく私の家に来ました。本を読んだり、テレビゲームをしたりしました。

なんとなく私は彼女とこのまま一生ずっと一緒にいるんだろうな、そんな風に考えていました。ところがこのツイートのように、彼女の転校が決まりました。

12月の中旬ごろ、私は母親から「さっちゃん、お父さんの仕事の都合で引っ越しするんだって。」と聞きました。私は彼女がいなくなるということが想像できなくて、「ふーん。」と流しました。

さっちゃんからは何も言われませんでした。私は彼女がいなくなってしまうことに実感が湧きませんでした。この日常がこのまま続くとしか思えませんでした。

そしてバレンタインの日…。

彼女は私が好きな青色の包装紙にきれいに包んで、「鶴くんにチョコあげるの、これで最後だね。」とチョコを渡してくれました。その時でさえ私は彼女がどこか遠くに行ってしまう実感が持てず、「うん。さっちゃんも元気でね。」とありきたりな生返事をしてしまいました。

家に帰ってから青色の包装紙をやぶきましたが、手紙は添えられていませんでした。チョコを食べながら、なぜか涙があふれてきて、「包装紙、きれいにはがして取っておけばよかったな…。」などと変なところを後悔したのを、今でも覚えています(妄想ですけど)。

それからホワイトデーを待たずして、彼女は引っ越していきました。


この話には後日談があります(妄想ですけど)。


私はさっちゃんのいない日常を平凡に生きました。中学を卒業し、高校に入学し、勉学と部活に励み、好きな女の子ができては恋をして…。いわゆる普通の青春です。

それはさっちゃんとの別れから5年後、大学の入学式でのことでした。

私は、新入生だけで数千人規模の、大きな大学の文学部に入学しました。入学式で、何となく一人で手持ち無沙汰に学長の話などを聞くともなく聞いていました。

ふと隣を見ると、とてもきれいで、でもどこか見たことのある女の子が微笑んでいました。


「やっと気付いた笑。相変わらずぼーっとしてるのね。」


そう。声の主はさっちゃんでした。

彼女はとてもきれいになっていて、ものすごく大人びていました。もちろん驚きましたし、懐かしさもありました。でも、それとはまったく別の感情がふつふつと湧き上がってきました。

入学式が終わり、私たちは二人でお茶をして、二人が一緒だったころの思い出と、二人が離れてしまったそれぞれの思い出を、途切れることなく話しました。


「あ、もうこんな時間!行かなきゃ!」

彼女はそういうと席を立ちました。

「これから予定あるの?まだ話したいことあるし、夕飯でも食べに行かない?」

私がこう誘うと、彼女は首を横にふりました。


「私ね、付き合ってる人がいるんだけど、その彼が仕事終わりに私の入学祝いをしてくれるんだ。」


私は「そっか。」と言うだけで精いっぱいでした。


バレンタインのチョコレートっていうのは、いつもこうやってほろ苦い大人のビター味なんですよね。


まぁ、全部妄想なんですけど。




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