材料の信頼性③

こんにちは
材料技術者のつんちゃんです。
私の仕事は主に工業の世界でどこにどんな材料を使っていくのか、調子よく使うためにはどんな工夫をすればいいのか、ということ実験したり調べたりしています。
工業にしても農業にしても、何かものづくりをする人にとって材料の信頼性というのは必ず付きまとってきますよね。このnoteでは、安全安心な製品をお客様に届けるために、気を付けなければならない材料の信頼性について書いていきます。

さて今回は、金属の鋳物の話をしてみたいと思います。


ニアネットシェイプの代償

鋳物と言えば、型を起こせばそのとおりの形に作ることができる。
まぁこれに尽きますね。
大量生産の部品ではよくつかわれる材料で、主に鉄鋳物(鋳鉄)とアルミ鋳物があります。もちろん、他の金属でも鋳物を作ることはできますが、ほとんどは鉄とアルミと思って差し支えないでしょう。

材料メーカーから棒や板を買った場合は、結構機械加工をしなければいけませんから、はじめから部品の形で作れるというのは、コスト面ではすごい有利です。板や棒だって、溶けた金属を流して板とか棒の形にしているわけなので、製造プロセスが2手も3手も短くなるということですね。

もちろん、型を作るのにお金がかかりますので、同じ形の棒を連続して作る人たちよりも、部品ごとに初期費用が掛かってしまいますから、部品1個のために鋳造はやりません。大量生産の部品でこそ力を発揮するのが鋳物ということになります。

ところで、金属を溶かして型に入れて固めるというのは、アイスキャンデーを作るのとは少しちがいます。いや、似ているかな。
金属というのは、普通は合金なので、つまり異種金属が混ざった状態で使うので、つまるところ混合物です。混合物の液体は、冷え固まっていくときに均一には固まらず、だらだらと温度が下がりながら、早く氷になる成分といつまでも溶けたままでいる成分に分かれていきます。
アイスクリームでも、混ぜなければ、凍るタイミングで氷とクリームに分離してしまいますが、金属でも同じことが起こります。

凍った時の成分の分離の仕方で不純物が固まるところができたり、うまく分散したりするわけです。これを我々技術者や研究者は金属組織と呼んだりするのですが、厄介なのは、型の形が変わると冷え方が変わって、場所によって強いところや弱いところができてしまう点なのです。

また、氷でも家庭で作ると白っぽい氷ができてしまいますが、買ってきた氷は透明ですよね。あれは氷の中に気泡ができることによって白っぽくなっていて、実際雑に凍らせると空気が入ってしまうのです。これも、鉄やアルミでも同じで、鋳物の中には気泡が混ざっています。当たり前ですが、気泡が多ければその部分の強度は弱くなってしまいます。

形を鋳物の段階で作りこむのは、一見すごいことのように見えて、強度や品質の面からいうと、コントロールしにくい要因になっているわけですね。
つまり、鋳物を使うということは、それだけ品質には気を遣う必要があるということです。

強度部品としての鋳物

金属の鋳物にも、強度を必要としない部品はあります。
例えば、仏像などの造形品、または表札のように情報を残したいものは、強度を保証する必要がありません。金属が壊れるほどの強い力がかかる可能性が極めて低い使い方だからです。こういったものは、見た目がキレイであれば、中は気泡だらけでも、成分が偏っていてもあまり問題はありません。

一方で強度部品として使われる鋳物もあります。
自動車のエンジンに使われる鋳物部品などはその最たるものですね。こちらは慎重に金属組織の在り方や気泡を如何に抑えるのかに気を使い、きちんと強度が保証できるようにモノづくりを行っています。実は自動車メーカーでも鋳物部品は内製で作っている場合が多く、あまり材料メーカーや部品メーカーからは購入していないんですね。つまり、それだけ品質に気を使わなければ使えないということなのです。

先日、試作品ではあるのですが、うちの会社の機械設計が、結節部の部品に安物の鋳鉄を購入してきて、数時間でぶっ壊れるということがありました。そういう不具合が起きると、どうして壊れたのかを調べてほしいということで、私のチームに依頼が来るので、今回も調査をしてみたわけです。そうして、割れた破面を見て愕然としたというか、笑ったというか。
「これ強度部品じゃないよね?置物とかで使う材料ちゃう?」
内部は気泡だらけで、そりゃ壊れますわ。というようなシロモノでした。

機械設計の人たちは、とにかく鉄なら大丈夫だろう、ということで安い材料を購入してきたみたいなのですが、鉄だって強度保証されてない部品はそんなものです。そうは言っても、設計した本人たちは、強度設計はできているつもりで、材料の強度も参考値ながらカタログ上にはスペックは出ているわけで、全く納得できていないどころか、材料メーカーに改善を求めるにはどうしたらいいかなどと聞いてくる始末です。
いや、これはこういう材料だし、メーカーも保証はしないし、改善のレベルでどうにかなるものではないよ・・・・
身内の恥ですね・・・

実際、鋳物で強度を保証するということはなかなか難しく、一品一葉でニアネットシェイプができることはいいのですが、鋳造品の部品を作っているメーカーは、さまざまな工夫をしているわけです。それだけに、大手鉄鋼メーカーや大手アルミメーカーも手出しができない分野でもあり、意外にも機械メーカーが内製で作っていたりする場合も多いのです。

鋳造部品を使ってみたいときはどうするか

さて、大手でもなく鋳造設備を入れることは難しい、かといって鋳造の素材は魅力的だなと思った機械メーカー、部品メーカーの人はどのように材料を入手すればよいのでしょうか。

ここまでの話で分かった通り、材料商社に鋳鉄くださいなんて言おうものなら、どんなものがくるのか想像もつきませんから、絶対にやめたほうがいいです。もし頼むとしても、ある程度鋳造の知識のある人を同席させて、守るべきプロセスや保証の仕方などをしっかり伝える必要があります。

それよりは、鋳造部品を作ることを生業にしているメーカーさんがいらっしゃいますので、そういうところにお願いすることが一番です。部品として加工をして形にしてくださるところがほとんどですが、仕上げの加工は自分のところでやるとして、鋳造の素材を作っていただくことも可能です。そういったメーカーさんと話をしてみると、気にすべきことなどがいろいろわかりますので、とても勉強になります。

さて、鋳造部品の何に気を付けるべきなのかを少し書いてみたいと思います。
① 部品の中で、空孔などの欠陥があると困るからなるべく避けてほしい場所と、最悪残っていてもよい場所を示す。
② JISなどの規格をもとに、評価の方法を決める。硬さ測定や、引張試験、顕微鏡による金属組織の観察などが考えられる。
③ 評価用の試験片を採取する場所を決める。これを相談すると鋳造屋さんはかなり真剣に考えてくれます。
④ 繰り返し荷重がかかるような使い方の場合には、最大の欠陥サイズがどの程度になるのかを確認し、最終的には繰り返しの試験(疲労試験)で検証する。

②や④の評価は、大手の機械メーカーであればもちろん社内でできることが多いですが、中小のメーカーでやれる会社は多くないと思います。やれても簡易的な試験になってしまいます。そういう場合は、各都道府県にある産業術センターなどを頼ることがよいでしょう。かなり親身になって評価の方法などを考えてくださいます。

まとめ

・鋳造品は、棒材や板材とは異なり、強度を鵜呑みにしてはいけない
・鋳造品を使ったり作ったりする場合は、専門のメーカーに相談して、特に空孔の発生についてしっかり話す
・鋳造品は同じ素材でも形状ごとに強度が変わるので、ちゃんと評価して確認する


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