初恋の子はバンドマンでモデルだった

2022年の冬アニメで、ぼっち・ざ・ろっく!という作品が放送された。
かつて熱心にアニメを見ていた僕も、今やTwitterで話題に上がる人気作品で気になるものをちょくちょく見るだけのにわかオタクへ成り下がってしまい、ぼっち・ざ・ろっく!を見るに至った経緯もTwitterで流れてきた感想とYouTubeで見た楽曲映像からだった。

作品の詳細は、今回の話には関係がないので割愛するが、簡単に言えばかつて大流行したきらら系バンド漫画『けいおん!』の皮を被った『BECK』だった。
泥臭青春系が好物の僕にとって、非常に楽しめた作品だった。いや、泥臭ってほどではないか。
まぁ、気になる人はぜひ見て欲しい。

さて、本題に入ろう。

ぼっち・ざ・ろっく!を見終えた僕は、ある女の子のことを思い出した。

幼稚園だけ一緒で、その後同じ町内の別の学校に通ってた女の子。
家族ぐるみの付き合いがあって、小学校以降も少しだけ付き合いがあっただけで、幼稚園の頃に1度、一緒に家族連れでディズニーランドに行ったとか、その子の家に何度か遊びに行った程度の思い出しかない。

未だに当時のことをたまに思い出して感傷に浸るくらいには、心に残っている。

多分、これが初恋だったんだろう。

幼稚園卒業前に、彼女は同じ町内ではあるが別の学区に引っ越してしまい、それ以降は町でばったり会うくらいしか関係性がなかった。

中学生の頃は、彼女が元々住んでいた家の目の前に住んでた幼馴染の男子の家でモンハンを狂ったようにやってた時期があり、その度に彼女の事を少しだけ思い出した。

再び彼女と繋がりを得たのは、中三の時だった。
高校進学のために通ってた塾がたまたま一緒で、約10年振りに同じ学び舎で過ごす事となる。
当時BUMP OF CHICKENとポルノグラフィティしか聴いてなかった僕は、彼女の影響でflumpoolを聴いたり、ついでに当時アニメやら映画やらやってた『君に届け』を読んだりして、たくさん話して遊んで、塾通いは受験とは裏腹にとても楽しい時間だった。

そして中学卒業の日、忘れもしない東日本大震災が起きて、僕らは散り散りとなり、当時携帯電話も持っていなくて、連絡先なんて知らないわけで。
それ以降はどこで何をしているのかも全く知らなかった。

転機が訪れたのは、大学入学で上京した時だった。

例の幼馴染とは、高校時代、学校も住んでるところも違ったが、オープンキャンパスの時に顔を合わせたり、上京したての頃に遊んだりしていた。
そんな時ふと「〇〇ちゃん覚えてる?なんか関東いるし久しぶりに顔合わせないかだって」と連絡が来た。

その幼馴染は、元々家が目の前だったこともあって、中学を卒業して高校生になってからも度々連絡はとっていたらしく、僕が上京したのを聞いた彼女がみんなで会わないかと提案したそうな。

特に断る必要も無かったので、僕は上京した人が絶対にやることTOP5には入る「渋谷のハチ公前で待ち合わせ」の約束をした。

3年振りに会う彼女は、僕の記憶よりずっと小さかった。
単純に僕がデカくなっただけだったのだが。

3人で他愛もない会話をし、連絡先を交換し、そして彼女は僕に1枚のCDをくれた。

『ALLEY of CASSIS』というバンドのCDだった。
聞くと、彼女が高校時代にやっていたバンドのCDだと言う。
flumpool好きが高じてか、彼女は高校生活の間をガッツリバンド活動に青春を捧げていたようだった。

家に帰ってから、僕はパソコンに音楽を取り込んで、曲を聴いてみた。

お世辞にも、演奏も歌唱も、上手とは言えなかった。
レコーディングの環境なのか、ミックスの都合なのか、どこかノイジーで雑音混じり。
ジャケットもインクジェットプリンタで印刷したような粗さで、クオリティからして高校生といった感じだった。
ただ、幼稚園から知る彼女が歌うとこんなにもかっこいい声なのかと、僕は随分このCDを聴き込んだ。

その中で特に、パラレルと言う曲が好きで、もうかれこれ7年くらい経つのに未だに時たま思い出しては聴いている。なんなら歌える。

未だにこの曲を聴くと彼女のことを思い出すし、逆に彼女のことを思い出してこの曲を聴く時もある。

ぼっち・ざ・ろっく!を見終えた僕は、そんな彼女のことを思い出して、この曲を聴いた。

ふと、今は何をしてるのかと気になって、彼女の名前を検索してみた。
検索して驚いた。
彼女はどうやら、大学時代の短い間、モデルのような活動をしていたようだった。

今は既に辞めてしまっていて、昔使っていたTwitterのアカウントは更新が止まり、Facebookも特に動かしてないようだった。

彼女の現在を知るすべは絶たれてしまったわけだ。

ひとつ、彼女のLINEだけは知っているが……わざわざ連絡して、動機が「アニメ見て思い出した」では、あまりにも格好がつかないのでやめておくことにした。

とうに恋とは呼ばない感情なのだろうけど、どこかで元気にしてるといいなと、そう思う。

交わらない道でも 出会えてよかったはずだよ
澄んだ星のままで 君が輝けと願う

ずっと遠くにいても この思い響いてくね
君がいてくれたこと 決して忘れないから
continue walking it.
ALLEY of CASSIS 『パラレル』

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