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『愛の不時着』

本作は実はすでに2年ほど前に観ている。だから「これまでに観た海外ドラマ」のひとつなのだが、別枠で書く。

私は基本的にラブストーリーは観ない。よそさまの恋愛事情には特に興味がないからとも言えるし、なんか恥ずいからとも言えるし、若干のアホらしさを感じなくもないからとも言える。しかし、さまざまな年齢、職業、パーソナリティと、このドラマを評価する層が実にバラエティに富んでいるので、興味を持ったのである。だから観た。そして泣いた。

本作は超王道コテコテのメロドラマとして最後まで楽しむこともできる。しかし同時に重厚なヒューマンストーリーでもあり、硬派な社会派ドラマでもある。観るひとによってその捉え方はさまざまなものになるだろう。しかしいずれにせよ、この多層的な語り口からすべてのひとが等しく見い出すのは、これがひたすらに「愛の物語」であるという、シンプルで奥深い真実であるはずだ。愛とは何ですか?という赤面ものの素朴な問いに、なんのてらいもなく、そして本当に素朴に、真正面から答えた。見よ、これが愛である、と。

とはいえ実は、リ・ジョンヒョクが撃たれる7話目くらいまでは、注意深く警戒しながら物語の行く末を眺めていた。すんごいベタなメロドラマ作るんだな、という目線で。それが「あれ?」と思い始めたのは8話目、まだ銃に撃たれたてだというのにリ・ジョンヒョクがユン・セリを助けにク・スンジュンの招待所に乗り込んだところである。「わいはク・スンジュンと結婚するから。あんたウザいのよ」と必死に、そしてベタに、リ・ジョンヒョクを突き放そうとするユン・セリに対してリ・ジョンヒョクが返した反応に驚いたのだ。他の多くのメロドラマにおいて、こうした場合の反応は、アホみたいに真に受けてアホみたいに傷つく(そしてその後、互いの気持ちがアホみたいにすれ違い続ける)か、「何でそげなこと言うだ」と無能にも問い詰めるか、さらにはせいぜいよくて「それでもオレは愛してる」とアホ丸出しで「愛の告白」を始めるか、まあ大体そのあたりである。ああここからつまらない展開に突き進むのか、と絶望していたら、「わかった、だからもう泣かないで」とリ・ジョンヒョクが言ったのだった。私はこれにとても驚いたのである。リ・ジョンヒョクは、ユン・セリの気持ちも葛藤も言葉も、すべてを受け入れた。本当にすべてをすっぽりと。「わかった」の威力すごい。これはもしかしたら私が「知らない」物語かもしれないと衝撃を受け、その後は最終話までまっしぐらとなった。

だからつまりこの物語は、とにかく「愛とは」というテーマをひたむきに描いている。愛が見出されるのは無論主人公のこのふたりからだけではなくて、ソ・ダンとク・スンジュンもそうであるし、親子のあり方でもあるし(個人的にソ・ダンの母がお気に入り)、隣人へのまなざし、仲間への思い、それぞれがさまざまに多層的に、愛の姿を浮かび上がらせていく。そしていつしか、観ているこちらまでが、どの国であろうと関係なく、いくつもの国境を越えて、多くの登場人物たちへの愛で満たされていることに気づくのだ。

他国に引かれた一本の線にこれほどの哀しみを覚えるとは。最終話の軍事境界線のあのシーンで、他国の問題は間違いなく私の問題になった。「どうして愛しあうふたりがこんなものに引き裂かれなくてはいけないの」という実にベタな悲痛を素直に感じ、私は号泣したのである。そして心から世界平和を願った。

ちなみに私のひそかなお気に入りは、14話でリ・ジョンヒョクがセヒョンとそのボディガードを撃退するシーン。アクションがあまりにスマートで美しく、何度でも見たいです。何度でも見ています。

さらにちなみにこれを機に韓国ドラマをいくつか観たが、愛の不時着はやはり別格であった。ヒョンビン目当てで『アルハンブラ宮殿の思い出』も観たが、こちらはむしろ爽快なほどのズッコケドラマであった。ヒョンビンも素敵だが、やはりなんと言ってもリ・ジョンヒョクなのだ。

それにしても返す返す残念に思うのはあらすじである。「財閥令嬢」は絶対に変えるべきだ。ユン・セリを全然表せていないどころかこれじゃ別人である。




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