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飾らない日常の鮮やかな景色

朝起きて、支度をして家を出て、仕事をして、そしてまた家に帰る。ぶっ倒れるように寝てまた朝になる。

通勤途中の川沿いの木々が橙色になっているのを見て、季節が変わっていることに気づく。

昨日より成長できているのかも分からない、
同じことの繰り返しのような毎日の中で、
知らない間に季節はどんどん変わっていくし、時間はどんどん経っていく。

過ぎていく時間を、実感させられるような季節の変わり目が、
いつもとは違ってしんどかった。
緑色が、橙色が大好きだったのに、秋が大好きだったのに。
芯を持って生きている自然の姿に、その大きさに、
悔しさではなく、焦りや嫉妬を混ぜた感情が出てくる自分が嫌になる。


ある休みの日。いつもは暗闇カーテンの隙間から差し込んでくる夕日に誘われるように、散歩に出た。いつもの道をいつもとは違う時間に歩いてみる。

川の青と夕日の赤、木々の橙とそして刈り取られた稲の株。
毎日見てきたはずの風景が心を温かく包んだ。いつもより鮮やかに見えた。思わずスマホで写真を撮る。そして、ふとこの言葉を思い出した。

自然と、命と、自分たちと。みんな引っくるめて生きるぼくら。

『生きるぼくら』原田マハ

本で読んだけの、見たことのない景色が、目の前に広がってるみたい。

原田マハさんの小説は、文章は、読んでいるだけで、情景が色鮮やかに想像される。

手をどうやって動かしているか説明できないみたいに、文を読んで情景が思い浮かぶこの現象も説明できない。

でも、ひとつ言うならば、僕はその色鮮やかな情景が好きということだ。
飾らない日常の中にある、飾らない風景や情景が、僕を飾らない日常へと戻してくれた。

散歩からの帰り道、近所のスーパーによって夕食の食材を買って帰る。
ただいまをいつもより大きく言ってみる。
ほかほかの新米をいつもより味わってみる。

「これ、これ。生きるってこういうことやな。」

そう心に呟いて、忘れていた感謝を思い出して。
また明日から、今日とは違う明日を生きていく。

生きていく中で、嫌なことに向き合わないといけない時もある。
でも、そんな時こそ、毎日の中にある小さな変化に目を止めて。
遠く見えない最大限の幸せよりも、目の前にある小さな幸せを噛みしめて。
最低限を最大限にして生きていく。

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