私の不妊治療④「立ちはだかる壁」

体外受精となると人工授精とは違い「手術」を伴う為、必要な説明を受けて同意書を提出しなければいけない。
最初はその事を知らずすぐに進めると思っていて、段取りを間違えて採卵手術まで2か月近く時間がかかってしまった。

説明を受けて初めて知った。
体外受精にかかる費用が1回60~70万円であること(※病院による)、
採卵手術の前に卵胞を刺激する(育てる)方法がいくつもあること、それに二週間近く時間をかけること。
そして、手術の最大のリスクであるOHSSのこと。

OHSS:
卵巣過剰刺激症候群のこと。
採卵手術後にホルモンの影響で採卵前よりも卵巣が肥大化し、腹痛や吐き気、嘔吐を引き起こすこと。(人工的に卵巣内で複数の卵胞を刺激するため卵巣は通常より大きくなる。)
重症化すると血管内脱水が起こり腹水や胸水、脳梗塞、腎不全、卵巣捻転、卵巣破裂のリスクが上がる。
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)のように元々卵巣内の卵胞の数が多い場合、よりリスクが高い。

私自身がPCOSであることは私も主治医も知っていた為、その時も念を押されたが、後日AMH検査をすると主治医は声色を変えてもう一度言った。
「あなたはOHSSのリスクが非常に高い。甘く見ない方が良い。入院の可能性はある。異変があったらすぐ電話して、入院。下手すれば命を落とす可能性もゼロではない。」

私のAMHの値は12.86だった。

AMH:
卵子の在庫の目安を知ることが出来るホルモン値。
閉経すると値がゼロ。
4以上あればPCOSが疑われる。

私も何も考えなくても妊娠出来る人生が良かった。
毎日注射することもなく、多額の治療費を出すこともなく、劣等感や自己嫌悪で悩むこともなく…妊娠する前に命を賭ける必要もない、そんな人生が良かった。。
帰り道で泣いた。

怖い。
だけどそこにしか希望がないならやるしかない。


一通り説明を受けてから卵胞刺激が始まった。ブセレキュアという点鼻薬を8時間毎に1日3回噴霧する。苦い。
この点鼻薬は排卵抑制。採卵する前に排卵してしまってはいけないため。
生理が始まるとHMGを注射する。
どんどん卵胞が育って行って私の卵巣はすぐに腫れ上がった。
とはいっても私自身に“腫れている”という感覚はなかった。
それでも主治医にとってそれはリスクの塊で、通常生理開始から排卵まで20日以上かかる私が、生理開始から11日目で採卵手術を受けた。

採卵手術はとても痛かった。
膣の中から卵巣に向かって針を刺して卵胞の中身を抜きとり、その中から卵子を探す。
麻酔しているため卵巣に対して何度も針を刺しているときの痛みはなかったものの、膣に麻酔を打つ時が一番痛かった。
手術時はカーテンがない。静脈麻酔で意識はうっすら。エコーの画面をよく見る為なのか部屋の中も暗かった。
20分ほどで終わると聞いていたのに私は1時間手術室にいた。

とにかく卵胞が多かった…手術前のエコーでは素人目に見ても20個弱の卵胞があった。
「全て潰しておかないとOHSSのリスクが上がるので全部出すのに時間がかかった」と言われた。


それなのに取れた卵子はたった4つ。あれほど沢山見えていたのに。

「あなたの場合はやはり排卵が普通じゃない。問題がある。卵胞から卵子が離れない。でも4つあるから。」そう言われた。
その意味も当時はよくわからなかった。

2時間ほど病院で寝て、もう麻酔は切れたと言われたものの立ち上がると少しくらくらした。
手術前は食事制限があり水も飲んでいないのに気分が良くない。
車の運転は禁止されているためバスで帰路についたが、麻酔の影響で珍しくバスに酔い、帰宅早々嘔吐してしまった。
膣の中には止血のため(?)ガーゼが詰められた状態で、感染症を防ぐため帰宅したら自分で抜くようにと言われたけれど、引き抜いたら引き抜いたで血塗れのガーゼとその大きさに卒倒しそうになった。


そして、翌日受精結果連絡の電話が鳴る。

その4つの受精結果は、全滅だった。
受精すらしなかった。

幸いOHSSにはならなかったものの、その結果は到底受け入れられないものだった。
何のためにステップアップしたのか。何のための覚悟だったのか。
緊急事態宣言の下、在宅勤務だったものの、3日間泣き、仕事が出来る状況ではなかった。

1週間後病院に行くと受精障害の話をされた。
「抗精子抗体をもっている場合あなたの体は精子を殺してしまう。顕微授精じゃないといけない。調べましょう。」
なんでそんなこと事前に調べてくれないんだよ、と思ったものの、抗体検査結果は陰性だった。
いよいよ理由が分からない。
「あなたの場合、体外受精は向いていないのかも。」
なんとも無責任な発言に思えた。

病院の都合上次の体外受精はスケジュールが組めない状況だったため、主治医の知人の病院を紹介されたけれど、私は別の病院への転院を決意した。

体外受精が向いていないならどんな手段をとればいいというのか。
紹介されたその病院にいっても方法が一緒なら結果もまた一緒なんじゃないのか。

初めて自分で色々調べ始めた。
すると自分が思っていた以上に世の中にはたくさんの不妊専門クリニックがあることを知った。
PCOSに着目して実績をあげている病院が滋賀にあるということも。

保険診療が普通の世の中、大抵どこの病院でもどんな病気でも安心して意味のある治療を受けられると信じていたのに、どうもこの不妊治療という世界はそうじゃないらしい。
病院によって、医師によって、治療方法も、治療費も、与えられる選択肢も全く違う、闇の世界。


不安だらけの地獄の道を、また一歩進むしかなかった。


次回「これが体外受精」

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