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時代は変わるのに、なぜ言葉は変わらないのか(編集日記より)

※会社の広報用記事として書いたものを、noteにも残しておこうと思います。

言葉で受けた傷は消えない

突然ですが、あなたは言葉で傷ついた経験はあるでしょうか。

この文章を書いている私は、挙げればキリがないほどたくさんあります。
真っ先に思いつくベスト3はこちらです。

3位:顧問の先生の一言から、運動で努力する意味がわからなくなったこと
2位:面談での心ない一言が突き刺さり、仕事が手につかなくなったこと
1位:クラスメイトの何気ない一言から、学校での居場所がなくなったこと

不思議なもので、傷ついた数よりも多い数々の楽しかった思い出よりも、相手が意図していないような些細な一言のほうが、記憶に深く刻まれています。

反対に、言葉で相手を傷つけた経験もたくさんありました。

・ファッションを褒めたかっただけなのに、相手にムッとされたこと
・自分では忘れていた不用意な一言を、友人はずっと忘れていなかった
・SNSでの一投稿が見ず知らずの人の反感を買い、注意されたこと

いま改めて振り返ってみると、意地悪で「相手を傷つけてやろう」とは、微塵も考えていませんでした(いや、思春期の頃とかはあったかも)。

その状況は大人になっても変わらず、今でもちょっとした言葉が誰かを傷つけ、傷つく日々を私たちは過ごしています。

特にコロナ禍以降は、おうち時間の増加に伴い、インターネットやSNSに触れる機会は増え、その日常はより一層、当たり前のように受け入れられているように思います。

言葉が誤解され、傷つけやすい時代だからこそ、もっと言葉に臆病になってもいい。
「意図せず誰かを傷つけない」ための言葉を身につけられる本が、いま求められているのではないか。

そう考えて、「言葉のアップデート術」という本を作ることになりました。


なぜ言葉だけがアップデートされないのか

働き方、ジェンダー、人種、経済、人生設計、価値観、テクノロジー、SNS、スポーツ、ファッション、音楽、マンガ、アニメ。

コロナを契機に、あらゆるものがアップデートされつつあると思います。

その中で、本書は言葉で誰かを傷つけたり、誤解をもたらしたり、モヤッとさせないために、時代にチャンネルを合わせて「言葉もアップデートできないか」というのを目指して書かれています。

例えば世代論について。
「〇〇世代って、みんな△△が好きだよね」という何気ない一言。

この言葉は、受け手を特定の集団としてくくりつけ、当事者からすると「実は◎◎が好きだったりするんだけどな〜」といったモヤモヤした気持ちにさせかねない言葉の1つです。

このようなシーンに対して、本書では「主語はデカくせず、小さくしよう」という形でアップデートをし、主語を例えば「Aさん」に変えてみませんか、と提案をしていきます。

こんな形で、

「特定の人の話ではなく、コトの話をしよう」
「スペックではなく、ベネフィット視点から言葉を考えよう」
「情報をつまみ食いするのではなく、完食を目指そう」
「平均値だけを見るのではなく、中央値も見よう」

など、言葉をより良く伝わるようにするための考え方・思考法を24つピックアップし、思わず受け手がモヤッとする一言をアップデートできるよう、コピーライターの観点からまとめています。


「この人だからこそ、書くべきテーマ」になった瞬間

著者は平成生まれのコピーライター小竹海広さん。本業で広告のキャッチコピーやCMの企画をしながら、2020年にSNSでの誹謗中傷を食い止めるためのプロジェクトを立ち上げた方です。

2020年というのは、新型コロナウイルスが世界中で蔓延し、まさにSNSでの誹謗中傷によって悲しい事件が起きてしまった時期でした。その頃から、小竹さんが誹謗中傷を食い止める活動を拝見するようになりました。

そんな言葉を扱う仕事をされている小竹さんに、「SNS時代の傷つけないための言葉術」をテーマに、コピーライターの視点から本を書いていただきたい、と依頼をしたのが本書の始まりでした。

しかしその数ヶ月後、小竹さんはSNSでの過去の発言により、自分自身が誹謗中傷を受けることになりました。(詳細は本書の「あとがき」に書かれています)

私も近くで本の打ち合わせをする中で、匿名の方々から誹謗中傷を受ける小竹さんが目に見えて変わっていく姿は、言葉にできないような苦しさを感じました。

どのような言葉をかければ良いかわからない私に、小竹さんは「この本を書くことが、1つの希望になっている」ということを口にしました。

その言葉を聞いたとき、「この本は不用意に傷つけてしまった過去と、自分の発言により傷ついた経験を持つ小竹さんだからこそ、書くべきテーマなんだ」と、思いを強くするきっかけになりました。


初の編集×初の執筆×初のデザイン

本書『言葉のアップデート術』は面白い本に仕上がった、という自信を持って言えます。

もちろん、「面白い」の定義はさまざまあると思いますが、本書の場合は読者をできるだけ飽きさせないよう、ときどき脱線もしながら、具体の話をめちゃくちゃ詰め込んでいるからです。

その数は60を超えています。それだけの引き出しを1つずつ開けていった小竹さんの原稿は、本当にすごかったです。

また今回の本は、私が未経験でこの仕事を始めてから、はじめて一から担当をした本でした。制作の過程から、社内でのトラブル、そして著者の小竹さんも含めて、各所にご協力とご迷惑をかけてきました。

一人での編集が初めての私と、本の執筆が初めての小竹さん。そしてブックデザインが初めてのデザイナーさん。そんな「はじめて」が重なった1冊なので、個人としても忘れられないものになりました。


少しでも言葉と向き合うきっかけになれたら

「はじめに」にも書かれていますが、この本は言葉と向き合うときの「たたき台」になればいいなと思っています。

というのも、『言葉のアップデート術』というタイトルの本ながら、本書だけですべてをアップデートすることは決してできないからです。

できるだけ傷つけたり、誤解を生まないような文章にできるよう吟味をしてきましたが、100%当たる天気予報がないように、全方面に配慮をしたコンテンツにするのは難しいですし、強さも面白さも半減してしまうでしょう。

それでも、言葉が氾濫する世の中において、言葉と向き合い、言葉をよりよくアップデートするきっかけになれるよう、著者の想いが込められている1冊になったことは紛れもない事実です。

特に本日5月23日は、言葉によって悲しい事件が起きた、忘れてはならない日でもあります。

そんな日に合わせて、少しでも言葉で傷つき、誤解され、モヤッとしたことのある方に、本書を手に取っていただけたら嬉しいです。

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