クマの住処で働く②クマに出会わないようにする
前回の①では大雪山のヒグマセンターで働いたことを綴りました。
今回はそこで登山者に行っていたレクチャー
で伝えていた内容を、
改めて掘り下げたいと思います。
ヒグマ情報センターは大雪山麓の
沼巡り登山コースの入口に立っています。
そしてこの沼巡り登山コースとは
大雪山の麓に点在する沼や池を巡るコースです。
このコースに入るためにはヒグマセンターで
レクチャーを受けることが必須となっています。
レクチャーを行うのは、
もちろん登山者の安全を守ることにも繋がるのですが、
それよりもヒグマと人の軋轢を避けること、
そしてヒグマの生態系を守ることが目的です。
沼巡りコースがある大雪山はヒグマの住処です。
街に紛れ込むクマと違って、ここにいるクマは実際に住んでいて、私たち人間がクマの住処にお邪魔するのです。
そんな場所で登山者に伝えていたこと、
まず大きく1つ目
ヒグマに出会わないようにするにはどうするか?
ということです。
クマに会ったらどうしよう…と考えるより、
まずクマに会わないようにする、
これが大前提になっています。
まずは周りをよく見る
当然といえば当然かもしれませんが、
足元ばかり見ていてはクマの存在に気づくことはできません。
クマは基本的には嗅覚も聴覚も人より優れているので、先に人の存在に気がついて避けていくのですが、
クマも沢の音が邪魔すれば人間の気配に気が付きませんし、食べ物や別のものに夢中になっていると気が付かないことも多いのです。
沼巡りコースの場合はコース内にミズバショウが生い茂っている場所がありクマはその根を掘り返して食べるので、
大きな葉っぱに隠れてしまうことも。
人が先にクマを見つけることができれば、
その距離が近ければ、
距離を取ればいいですし(およそ50m以内)、
ある程度距離が離れているのであればくまの様子を確認しながら移動したり、
クマに対して人の存在を知らせてあげることで、クマ自身でその場を離れてもらうことも可能です。
何にせよ周りの状況を確認するのは大事です。
音を出して人の存在を知らせる
登山者が持つクマ鈴については
その所持に賛否が分かれる話題ですが、
大雪山に住むクマについてはクマ鈴は有効と考えられています。
クマは基本的には人間を襲う猛獣ではなく、
臆病な動物です。
個体によっては鹿やアオダイショウにさえ驚いて逃げていくほどです。
そしてもちろん人間にも会いたくはないようで、人間が近くに来ると離れていく個体がほとんど。
そのため鈴や声で人の存在を知らせてあげれば基本的にクマとの接触は減らせるのです。
クマが人を避けていることに関して、
私が現地で見聞きした事例を以下に。
まずは登山道のセンサーカメラ。
登山道に設置したセンサーカメラを見ると、
登山道をクマが歩いている様子が映ることもあるのですが、
その時間帯は人がいない時間帯です。
夜はもちろんですが、
早朝の時間や17時過ぎなど。
沼巡りコースはコースの開放時間が7:00〜15:00と決まっているので、
クマもそれを把握しているようです。
また大雪山に長年関わってクマに会っている方の話では、
人が先にクマの存在に気づいた場合、少し大きめに鈴を鳴らしたら、クマがハッと気がついて去っていったという話も聞きます。
そして私もお食事中のクマに会っていますが、
こちらに気がつくと面倒くさそうに去っていきました。
もちろん全てのクマに対して鈴が有効かといえば、そう言い切ることはできませんが、
人馴れが非常に進んでいたり、
人間の食べ物の味などを覚えているクマがいる山域でなければ、
持っていないより持っているほうが、
クマにとっても人間にとっても不幸が避けられると言えます。
人の食べ物やその包装などは絶対に山に残していかない
これをお願いしています。
「ヒグマにとって人間の食べ物は麻薬のようなもの」
これは私が参加したワークショップで講演された
知床財団の特別研究員の山中正実氏の言葉ですが、
その麻薬のような中毒性のあるものを
一度口にしてしまったクマは、
そこに来ればまた美味いものが食べられるぞ!
と居着いてしまったり、
最悪の場合、人間がその食べ物を持っていることを学習して、
人を襲うクマになってしまう可能性があります。
クマの知能は
犬と霊長類の間くらい、
と言われるほど高く、
学習してもおかしくありません。
クマが人間を襲うようになることは、人間ばかりでなく、ヒグマにとっても不幸なことです。
そして人間がその原因になっていることが多いことは忘れてはいけません。
以下には長年にわたってヒグマと向き合ってきた知床財団の情報です。
より詳しく、わかりやすくヒグマの情報を掲載しています。もしよかったらご覧ください
次回は実際にクマに会ったらどうするか?
ヒグマセンターで伝えていたことを綴ります。
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