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戦略的な特許権の取得を目指して~早期審査・スーパー早期審査~

 現在、日本特許庁の審査では、審査請求を行ってからファーストアクションまでの期間は約10月程度です(出典1)。つまり、出願と同時に審査請求をしたとしても、約10月は特許庁の審査結果を得ることができません。
 出願の重要度が非常に高い場合や、新製品の販売開始前に権利化を行いたい場合などには、早期に審査結果を知りたいことや、早期に権利化を図りたいことがあるかと思います。そのような場合に利用できるのが『早期審査・スーパー早期審査』です。
 『早期審査・スーパー早期審査』を利用すると、審査請求からファーストアクションまでの待ち期間を短縮し(早期審査:2.7か月、スーパー早期審査:平均0.9か月(DO出願については平均1.5か月)(出典2))、早期に審査結果を知ることができます。

 ここでは、対象となる出願と手続きを簡単に紹介した上で、制度のメリット及びデメリット、制度の有効的な活用方法について具体的に述べさせて頂きます。

<早期審査・スーパー早期審査の対象となる出願と手続き>
 早期審査の対象は、実施関連出願(2年以内に実施予定)、外国関連出願、中小企業等の出願などになります(出典3)。
 スーパー早期審査の対象は、「実施関連出願」かつ「外国関連出願」であること、又はベンチャー企業による出願であって、「実施関連出願」であることです(出典4
 早期審査に関する事情説明書(早期審査を申請する事情、先行技術文献の開示及び対比説明などを記載)を提出する必要があります。
 但し、先行技術文献の開示及び対比説明については、『特定登録調査機関』(出典5)の調査報告書で代替することが可能です(出典6)。
 早期審査・スーパー早期審査の詳細については、上記の出典3及び出典4をご参照下さい。

<スーパー早期審査・早期審査を利用した場合のメリット・デメリット>
 早期審査・スーパー早期審査を利用した場合には、以下のようなメリットやデメリットが想定されます。
[メリット]
 早期審査・スーパー早期審査を利用すると以下のメリットを得ることができます。
1.早期に審査結果を受け取ることが可能
  通常は審査請求から約10月程度、ファーストアクションを待つ必要がありますが、早期審査で約2月、スーパー早期審査で1月以内と早期にファーストアクションを受け取ることができます。

2.公開前に対応方針の検討が可能
  通常、出願日から1年6月後に、出願公開されてしまいますが、出願してすぐに(スーパー)早期審査を利用した場合、ファーストアクションを受け取った段階では未公開であり、出願内容の再検討(内容を補充した再出願)、出願の取下げ(秘匿化)など、様々な対応方針を検討可能です。

3.権利発生時期を早め、権利存続期間を長くすることが可能
  特許権は、設定の登録により発生します。審査を早め、権利を早期に発生させることで、存続期間を長くすることができます。

4.特許庁に払う追加の手数料は不要
  通常の審査請求費用(特許庁印紙代)と、早期審査事情説明書の代理人手数料が必要ですが、特許庁に対する追加の手数料は不要です。

[デメリット]
 早期審査・スーパー早期審査を利用した場合には、以下のデメリットがあります。
1.国内優先権を主張可能な期間が短くなる可能性
  通常の出願の場合、出願から1年以内であれば、改良発明を加えた内容の国内優先権主張出願をすることができます。(スーパー)早期審査を利用して1年以内に特許査定となった場合、出願が特許庁に係属している状態ではなくなるため、国内優先権制度を利用可能な期間が短くなってしまいます。

2.早期に特許掲載公報が発行され、改良発明の障害になる可能性
  (スーパー)早期審査により、特許掲載公報が早期に発行された場合には、当該掲載公報が改良発明に対する先行技術文献となり、新規性・進歩性が否定されてしまう可能性があります(但し、特許掲載公報が発行される前で、発明者等が同一であれば改良発明の権利化は可能です)。
  上記1.及び2.のデメリットを鑑みると、改良発明の権利化が必要な場合には、(スーパー)早期審査を利用する前に慎重な検討が必要です。

3.審査請求書以外に早期審査事情説明書の提出が必要
  通常の審査請求書以外に、早期審査事情説明書の提出(先行技術文献の調査及び対比説明)が必要となります。但し、先行技術調査の開示及び対比説明については、特定登録調査機関の調査報告書を提出すると省略することが可能です。

<早期審査を活用した権利獲得戦略の提案>
 早期審査を有効的に活用した権利獲得戦略について、特定登録調査機関を利用したケースを参考例として紹介させて頂きます(なお、本例は、あくまでも参考であり、本例に従って手続きを行った場合に権利化を保証するものではございません)。
1.出願
  特許庁に出願を行います。
2.特定登録調査機関の利用
  特許庁に出願をした後であれば、特定登録調査機関を利用することができます。各特定登録調査機関を利用すると、特許庁の審査官から先行技術調査手法の指導を受けた有資格者であるサーチャーによる調査報告書を受け取ることができます。
3.特定登録調査機関の調査報告書の検討
  特定登録調査機関の調査報告書に記載されている、先行技術文献の内容及び、本願との対比説明の内容を検討します。
4.対応策の検討
  調査報告書の検討の結果に基づいて、対応策を検討します。補正が必要であるか否かの検討以外にも、内容を追加した新出願をするべきか、公開前に出願を取り下げるべきかなど幅広い検討を行うことが可能です。
5.早期審査請求(調査報告書を添付)
  対応策を検討した上で、早期審査請求を行います。早期審査事情説明書の先行技術の開示や対比説明を、特定登録調査機関の調査報告書により代替することができます。
6.中間対応
  約3か月で審査官からファーストアクションがあります。
  審査請求の際に適切な自発補正をして、先行技術との差異が明確になっており、新規性・進歩性が認められた場合、そのままの内容で特許査定となり、中間対応が必要ない場合も想定されます。
7.特許査定
  調査報告書に基づいた対応策の検討を行った上で審査請求を行っていると共に、審査官は特定登録調査機関の調査報告書を参考にするため、素早い権利化に繋がる可能性があります。
8.PPHを利用して、海外出願
  特許査定になった場合には、PPH(特許審査ハイウェイ:Patent Prosecution Highway)を利用することにより、外国特許庁において簡易な手続で早期審査が受けられます(出典7)。

 早期審査請求を行うに際し、「2.特定登録調査機関の利用」を行った場合には、「3.特定登録調査機関の調査報告書の検討」において、調査報告書の先行技術文献及び対比説明に基づいた出願内容の検討が可能であるため、
・「4.対応策の検討」における検討がより充実したものとなり、
・「5.早期審査請求」に必要となる早期審査事情説明書の先行技術の開示や対比説明を、特定登録調査機関の調査報告により代替することができます。
・また、「3.特定登録調査機関の調査報告書の検討」で新規性・進歩性を否定する先行技術文献が抽出された場合には、「5.早期審査請求」を行う前の、「4.対応策の検討」の段階で、内容を補充した新出願や、出願の取下げ、等の対応を取ることも可能となります。

 このような権利獲得戦略を実行した場合には、通常の出願よりも多くの手間や費用が発生します。しかし、非常に重要な出願の場合には、このような戦略を検討する価値があるのといえるのではないでしょうか。
 さらに、外国出願を行う場合には大きなコストが必要ですが、事前に日本国特許庁における審査を受けて、権利化の可能性を検討することで、不必要な海外出願コストの削減が可能となります。



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