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裏社会系ASD精神科医と、路上で奇行する患者。ヤバい組み合わせが爆誕した。


余寒が身にしみる2月上旬。オフィス街のビルにあるメンタルクリニックの一室。

裏社会系ASD精神科医こと瞳先生の前で、私は不覚にもポロポロ泣けていた。

「瞳先生、聞いてください、あの、わたし、路上での奇行が止められないんです。このままだと、わたし、誰かに盗撮されて、SNSに載せられて、拡散されて、ネットのおもちゃになってしまうかもしれません。デジタルタトゥーになったら取り返しがつかないのに。あと、迷惑防止条例違反で警察に捕まるかもしれません。最悪、新聞報道されて『〇〇所職員、迷惑防止条例違反で懲戒処分』みたいなニュースになるかもしれないです。どうしたらいいですか・・・」


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ここまで読んで、「なんだ、この状況は…」「裏社会系ASD精神科医ってなんだ」「てか路上で奇行!?」と色々不思議に思われた方も多いだろう。

まずこれを書いている私は、発達障害その他諸々を持っておりメンタルクリニックに通院中の三十路女である。
「路上での奇行をやめられない」という珍妙な習性を持っている。

そして私がクリニックでお世話になっている先生が、それはそれはもう最強に個性的な先生なのである。

その名も「裏社会系ASD精神科医」。わたしと同年代の女性である。

瞳先生は裏社会系の経歴を複数持っておられる。
また彼女自身もASDやADHDの特性を持っておられる。
プライベートでは一般に向けて広く発信しているアカウントにおいて、卑猥な自撮り写真を掲載したり、自身の性事情を赤裸々に公開しておられる。
非常に突出したパーソナリティの持ち主であるが、仕事では「患者に良くなってほしい!」という思いのもと、熱心に診療してくださる素敵な先生である。
大きな瞳が印象的な顔立ちをしておられるので、ここでは瞳先生と呼ぶ。



医師と患者との出会いは、偶然である。無数に発生しうる組み合わせの中で、瞳先生―わたしという、とんでもないペアが爆誕した。
日本中の精神科医―患者のペアの個性強さを競ったとき、瞳先生―わたしの右に出るペアはそういないのではないかと思う。

傍から見れば「混ぜるな危険」と思われかねないペアの爆誕であるが、わたしにとっては非常に幸運な出会いであった。

世間の常識にとらわれない感性を持っている瞳先生の前でなら、今まで「こんなこと他人に話したら引かれてしまう…」と誰にも言えなかったことも安心して話せたからだ。
また鮮烈な個性を発揮して堂々と生きる彼女のオーラを前にすると、長い年月をかけて防壁のようにガチガチに固めてきた過剰適応モードも緩めることができた。

彼女と出会っていなかったら、わたしは過剰適応モードをますますこじらせ、過労から鬱症状を悪化させて自殺、享年三十歳、チーン。だったかもしれない。


瞳先生の診察を受けにいく前、わたしは笑い溜めをする。
彼女の独特すぎるオーラが私にはどうもツボで、吹き出しそうになるのだけど、真面目に仕事をしている人を笑うなんて失礼な行為である。
だからわたしは診察中にツボに入ってしまわないように、待ち時間に瞳先生のアカウントをこっそりと覗き、先生の白目画像や猥褻画像を見てあらかじめ笑い溜めをしておく。



そして冒頭の場面。

「路上での奇行がやめられないんです(略」

彼女の独特オーラに吹き出してしまわないように、表情筋を一生懸命にコントロールしてながら話していたとき、目頭が熱くなってきた。
最初は「笑いをこらえてるとき特有の生理的な涙かな?」と思ったけど、ポロポロ止まらなくなってきて「あ、これは情緒がおかしくなってるときの涙だな」と気づいた。

自分ではどうして泣けてくるのか分からなかった。
路上での奇行はわたしにとって日常で、特別なことではない。深刻な話でもない。
瞳先生も「なんの涙なのwww」と不思議がっていた。


しかし診察から数日経って少し冷静になったので、その場面を振り返ると。

そのときの私は安堵感と不安感が同時に発生していたのだと思う。
安堵感と不安感がどちらも大きく発生して、さらに二つがごちゃまぜになって、情緒がおかしなことになっていたのだと考えられる。

良い歳した大人が、年相応の社会経験も重ねてきた大人が、「路上で奇行してます」なんて世間ではなかなか言えない。
かといって自分の中だけにしまっておくことはしんどい。誰かに話して楽になりたい。
ドン引きすることなく聞いてくれる瞳先生に、わたしは張りつめていた糸が切れてしまったのだと思う。


もうひとつは見捨てられ不安、みたいなもの。
今の良好な医師―患者関係がいつか崩れてしまうのではないかと、心のどこかで危惧し続けている。

主な原因は前医との関係のもつれ。
瞳先生と出会う前、わたしは別の精神科医に数年間お世話になっていた。

わたしは前医にとって「めんどうくさい患者」だった。
わたしはかなりの心配性で、服薬する薬についても自分で徹底的に調べ、懸念事項を洗い出しては診察で熱心に質問していた。若干精神医療不信の傾向もあった。
服薬調整を続けても、なかなか良くならないどころか悪くなっていく一方。

医師自身も人間である以上、キャパシティというものがある。
私の面倒臭さは前医のキャパシティを超えていた。

やたら副作用を気にする上に一向に回復しない私に、前医はだんだんと嫌気が差していったようだった。

そしてあるとき診察で、前医に投げやりな口調でこう言われた。
「もうあなたは自分でお薬を調整して飲んでください」
と眠剤3種盛を最大量、ドーンと出されたのだ。

えっ、ベネフィットを最大に副作用を最小になるように考えてお薬の量を決めるのが精神科医の仕事なんじゃないですか? それを患者自身でやれと…?

こりゃアカンわ、と私は転医した。

まあ瞳先生と出会う直近にそういうことがあったのもあって、
「わたしの面倒くささは瞳先生のキャパシティを超えないかな。もしもキャパシティ超えてしまって関係壊れたら詰むな」という不安を持ちながら診察を受けている。

瞳先生と信じていないとかじゃなくて、私自身の問題。


ちなみに路上奇行に関する瞳先生の見解はこちら。(私の解釈でまとめています)



・路上で奇行してしまうのは、過剰適応で封印した衝動性多動性の爆発だと考えられる。

・個人的には路上で奇行する人がいてもいいと思う。別に直さなくてもいいのでは。

・もしも多動さん自身が奇行を抑えたいと望むなら策は2つ。過剰適応をやめるか、衝動性多動性を奇行以外で発散するか。

・ADHDは依存症リスクがとても高いので、衝動性多動性を発散する手段は、依存しても安全なものを選ぶこと。おすすめは創作系。間違っても違法薬物など危険なものにはハマらないようにすること。





・・・とのことなので、何か創作系の趣味を見つけられたらいいなと思います。


ポエムでも書こうかしら。
もしも私がいきなりポエムを投稿するようになっても、皆さんビックリしないでくださいね😂