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とある男の新型コロナ病床録(後編超)

(後編超)

 この記事は順番で言うと五番目の「後編超」になります。(前編→中編→後編→後編Z→後編超)
 そしてこの記事で完結になります。
 本文はすべて無料で読めます。

 前編からお読みいただけると幸いです。

前回↓

7月19日

 午前、スマホがけたたましく鳴り響いた。
 表示されたのは見慣れない番号――ついに新型コロナ陽性判定にリーチである。今までの症状を鑑みるならば、34面待ちしている状態と言っていい。
 
 
「竹岡さん、陽性でした」


 ですよね。
 案の定、保健所からの一発振り込み。


 これだけ陽性の匂わせ症状を出されて陰性なはずがない。インスタグラムだったらもうお相手が登場している。縦読みどころか横読みで「ようせい」と投稿しているようなものだ。もはや白状に近い。だからあまり驚きはなかった。


「竹岡さん、症状と体温はどうですか?」

 この日、朝の体温は36度9分。熱は下がりつつあるが症状のほうはまだ強いことを伝えた。
 
「あーそうですか。症状があるようなら入院になるかもしれません」

 保健所の話では、無症状者は自宅療養もしくはホテル療養になり、有症状者のみが入院措置となるとのことだった。
 ちなみにホテルも入院も費用はかからない。

「なんで無料なんですか?」と訊いた。
「指定感染症だからです」

『費用がかかるなら入院したくない』という感染症患者もいるだろう。そういう患者からの伝播を防ぐために、公費で強制的に隔離療養させるのだ。就業も制限される。だから入院費やホテル代は無料なのだ。

「この後、医師に竹岡さんの容体をお伝えしてからまたご連絡します」

 これが一回目の電話。次の電話は午後だった。

「竹岡さんは自宅療養になりました」

 こっちは枕まで準備して入院する気満々だったのに、唐突な肩透かし。自宅療養になった理由は、『熱がそこまで高くないということと、呼吸器系の症状がないから』ということだ。ホテル療養じゃない理由はわからない。
 勝手に想像するなら、おそらく私が一人暮らしで、家族に感染させる危険がないからではないだろうか。もっとホテルを必要としている人がいたのだろう。


 当時は池袋と八王子のホテルにあわせて200床ほどがあるということだった。部屋はほとんど埋まっているという報道もあった。


 ここで私は、やっと己の過ちに気付く。
 中編でも説明したが、陽性判明後にきちんとした診察はおろか、医師との会話すら出来ないまま自宅療養がはじまるのだ。

 当然、薬などもらえない。
(補足する。もちろんこの時点でコロナに効く薬などないのはわかっている。私が欲していたのは症状緩和の薬だ)

 しかしこれは私が馬鹿だっただけで、保健所は1mmも悪くない。7月16日に町のクリニックで診察を受けたとき、薬をもらえばよかったのだ。コロナかどうかわからない時点でもらうのは無駄だ、と勝手に自分で判断したのが悪かった。


 症状緩和の薬が欲しい旨を伝えると保健所は、
「まず最初に受診した『かかりつけ医』に電話で相談してください」とのご回答。
 心の中で、『そうか、あのクリニックは私の『かかりつけ医』になったのだな。ついに『かかりつけ医』が仲間に!』と、少し胸がはずんだ。わかりました、と言って電話を切り、返す刀でクリニックへコールする。

 が、この日は日曜日。タイミング悪くも休診日であった……
 かかりつけさせてくれよ。俺たちもう仲間だろうが!


 さて、置かれた状況は微妙だった。

・症状はあるが救急車を呼ぶほどでもない。
・自分の免疫力だけでコロナと戦うのは皆同じだが、そのためには睡眠をとりたい。
・ところが熱・症状は夜にきつくなることが多く、満足な睡眠を得られない。
・睡眠を得るために鎮静剤なり眠剤なりが欲しい。
・しかし外出は禁止。電話診療出来る医者は休診。
(栄養だけはなんとかなった。缶詰もあったし、野菜や肉をいくらか冷凍保存していたのが救いだった。足りない分はウーバーイーツの置き配に頼った。経済的にはきつかったが)


「今夜も我慢か……でもきつい。いい加減ぐっすり眠らないと、良くなるもんもならないぞ……」

 と、ため息まじりにつぶやいたとき、私はあることを思い出した。
 それは昔に処方してもらった風邪薬・PL顆粒の存在だ。それがまだ余っていたのだ。

「ひょっとしたらこれ、症状抑えられるんじゃ……」

 ネットで調べると、効能に「痛みの緩和」とある。

「これじゃん!」


 なぜ今まで気付かなかったのか! 本当に輪をかけてアホである。大事なものはそばにあると「17歳のカルテ」が教えてくれたのに、とんだ「とある男の病床録(カルテ)」だ。


 私は早速保健所に連絡して、新型コロナ陽性時に、PL顆粒を飲んでも大丈夫か確認した。(なぜならネット記事によっては『PLは飲んだら駄目』と書いてあったのだ)


 保健所の回答はOKだった。
 これが本当に効いた。薬を飲んだ、という精神的なプラシーボ効果もあったのだろう。この日の夜は症状が驚くほど軽くなり、深い眠りを得られたのだ。

 ここで一点注意がある。私がPL顆粒を飲んで全身症状を抑えられたからといって、同じような症状の人が独断で飲むのは絶対にやめてほしい。必ず医師の判断のもとに行動するべきだ。
 第一に信用するべきはまず厚生労働省からの情報と医師の意見。書いといてなんだが、こんなよくわからないおじさんの記事を信用するべきではない。これは単なる記録的読み物だ。「こういうケースがあるんだなあ」と知ってもらいたいだけの記事なのだ。信用はしちゃ駄目だ。刻一刻と状況が変わっているなか、もうこの記事の情報は古いかもしれないのだから。


 
7月20日

 朝、芯から疲れが溶けたような気持のいい目覚めだった。長く深い睡眠をとることが出来たおかげで、昨日に比べて体調は格段に良くなった。
 検温も36度6分。はじめて安心できたのを記憶している。
 保健所にもそのように伝えた。(保健所からは毎日連絡がくる)

7月21日

 この日にはお菓子を食べる余裕が出来た。
『cheeza』というお菓子をご存じだろうか? 濃厚なチーズを彷彿とさせる、芳醇な香りが特徴的なスナック菓子なのだが、これが家にあった。

 はじめの一切れをかじったとき、新たな異変に気が付いた――
 そう、匂いを全く感じないのだ。

 以前の私ならば悪質クレーマーと化してお客様センターに鬼コールするところだが、今回は違う。私は成長していたのだ。もう悪質クレーマーでもメンヘラ彼女でもない。瞬時にこれが新型コロナのせいだと気づけた。

 以前は味覚異常はあったが嗅覚はまともだった。
 一方このときは味覚は戻り、全身症状も軽くなってきていたのだが、それと引き換えに新型コロナウイルスは今度は嗅覚を奪っていったのだ。
 なかなかにしぶとい。ただでは終わらない、絶対爪痕残すぜという若手芸人ばりの気迫を感じた。


 試しに香水を何度か手に振りかけて嗅いでも、アルコールのつんとしたような感じが鼻にあるだけで、香りはまったくわからない。本当にゼロに近かった。シュールストレミングと戦えるんじゃないか? と思えるほどだ。
 Youtubeに載せたら伸びただろうか? 新型コロナVSシュールストレミング。
 前作で敵だったコロナとともに、新たに現れた敵・シュールストレミングと戦うなんてクソ熱い展開じゃないか! 
 新型コロナ系Youtuberがやるかもしれない。そのときは悔しいが絶対に見てしまうと思う。


7月22日

 この日以降、症状は緩やかに改善していく。波はあったが、ピークのときまで戻ることはなかった。


7月24日

 自宅療養最後の日。
 制限解除にあたっての検査などはない。いつものように保健所からの電話で、熱と症状などを伝えて判断される。私はもうこの頃には随分回復していたので、すんなりと解除になった。

 他人への感染性を持つのは発症の二日前から十日間だけとのことだ。
 おそらくたくさんのデータを基にしているだろうから、きっと大丈夫だとは思うが、さすがにすぐに人と会うのは怖い。
 私は全くの無症状というわけでもなかったから、せめて7月中は誰とも会わずに過ごそうと決めた。


現在(8月5日)

 体調はほぼ元通りで元気だが、若干胸焼けのような気持ち悪さはある。これが新型コロナ由来かは微妙なところ。断っておくがお酒は飲んでいない。
 嗅覚のほうは50パーセントぐらいに回復している。


最後に

 ここで私の新型コロナウイルスに対する評価を述べたいと思う。
 結論としてはもちろん、恐ろしいウイルスだ。もう二度とかかりたくない。


 よくインフルエンザと比べてどうかと聞かれるが、私は大人になってからインフルエンザにかかったことがないから比べることができない。最後にかかったのは小学生くらいだろうか。
 そんな私の免疫力を、いとも簡単に突破してきたのだ。新型コロナのやつは。
 
 症状もきつかった(半分は自分のせいだが)。しかし私のケースはこれでも「軽症」の部類に入るだろう。

 反省点として、いままで対症療法のことを軽んじていたのもよくなかった。『原因を叩かないと意味がない』と思っている私のような人も、なかにはいるのではないだろうか?
 私は今回のことで考えを改めた。『睡眠を守る=体の抵抗力を守る』という意味で、対症療法は非常に大事だった。

 

 私のことを心配してくれた家族、友人、フォロワーの方々、本当に本当にありがとうございます。
 そしてもちろん保健所や医療従事者の方々にも御礼を言わなければならない。検査や毎日の症状確認、ありがとうございました。

 正直一人暮らしで不安だったが、送ってきてくれた沢山のメッセージは、もうべらぼうに心強かった。なんて皆心暖かいのだろう。「代わりに買い物いくよ」と声をかけてくれて、どんなに安心できたか。皆が精神面で支えてくれなかったら危なかったと思う。最大限の感謝を申し上げます。


 これからも、より一層の感染拡大防止に努めていきます。


 最後に、ここまで長いことお付き合い頂きました皆様に対しても、本当に感謝を申し上げたい。お読み頂きありがとうございました。
 皆様も、決して油断することなく、健やかな毎日をお過ごしください。

  

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 書いている内容は大したことじゃないです。
 
 今までのまとめとか、この先どうしたらいいんだろうね、不安だね。というようなことを書いています。
 あ、あと、コスパがよくて本当は教えたくないウーバーイーツで食べられるおすすめハンバーグを紹介しています。


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