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【短編小説】ハネモノ

「働かなければいけない…。」

男は、いつも
心の中で、そう呟いていた。

「本日は、天気悪いから…」
「寒いから。」
「少し風邪気味だから。」
何かと、理由をつけて、
面接はおろか、求人誌すら
目を通さない…。
口癖は、「明日で良いや。」

そんなニート生活も、
三ヶ月目に、突入した…。

幸い、実家暮らしなので、
家賃や光熱費等の生活費は、心配ない。

しかし!
両親の(働け)視線が突き刺さるため、
深夜以外、家に居づらい…

渋々、外に足を運ぶも…
向かった先は、職安ではなく、

パチンコ屋だった…。

長く時間を潰すなら、
通常の四倍遊べる、一円パチンコ…
通称、一パチの選択だが、
その分、出玉換金も通常の四分の一となる。

強欲の男…
夏空(なつら)は、投げなしの五千円札を
握りしめ、
一直線に、四円コーナーに、
腰を下ろした。


着席した台は、
羽根物と言われる、
大当たり出玉は少ないが、
その分、当たり易い仕様になっている。

スタートチャッカーに、
玉を入れる所から始まる。

なかなか入らない…。

滝のように、ハズレ玉が、
飲み込まれていく…

開始から、二十秒程で、
やっと、入った!

今度は、上部の羽根が開く、
ここで、玉を拾い、
Vゾーンに、玉が入れば
「大当たり」となる!

夏空は、いきなり
スペシャルルートに入った!

スペシャルルートは、
通常のルートより、高確率で
Vゾーン、要するに、
大当たりしやすいということだ!


生唾を飲み込み、

見守る…

カラン…

紙一重の差で、無情にも、
ハズレた…。


また、一から、やり直しだ。

二千円投資したところで、
今度は、「2」と表記されている
スタートチャッカーに入った。
普段は、なかなか入りづらいが、
羽根が二回開く!


夏空の玉は、一回目の解放で二発!
二回目で、一発、
合計三発入った!!


しかし…


当たらず…



このチャンスをものに出来ず、


それ以降も、当たらず…


残高は…


千円…


そういえば、
来る途中、給油ランプが、
ついていたことを思い出した…。


このラスト千円で、
ガソリンを入れられるが…

夏空のもう一つの口癖、
「何とかなるだろう。」

開き直るというより、
当然のように、
玉貸出しボタンを押した…。

だが、
そんな夏空を神は、見捨てなかった。

ノーマルルートで入った玉は、
役物に当たり、
その反動で、運良く、
Vゾーンに入ったのである。
つまり、大当たりだ!

当たったらラウンド抽選が始まる。
三ラウンドで、缶コーヒー三本分。
七ラウンドで、CDシングル一枚。
一五ラウンドなら、
CDアルバム一枚分の出玉が見込める。
当然!一五ラウンドを願う。


夏空の台は…



ハデな告知で、

見事!一五ラウンドを獲得した。


夏空の口元が緩む。


大当たりを消化して、
まだ、持ち玉に、ゆとりはないが、
とりあえず、一息つける。

喫煙コーナーで、
一服して、缶コーヒーを啜った。


小休止を挟み、
夏空の快進撃は続く!


なんと!

一ゲームで大当たり!!

これで再度一五ラウンドなら
一気にプラスである!

しかし…


三ラウンドだった…。


この後も、持ち玉で
当たったり、ノマレたり…
羽根物特有のだらだらした展開が続き…

いつの間にか、
店内は、ホタルの光だった…。

終わって見れば、
トントンで終わった。

遊べた分、得した気分になり、
鼻唄交じりで、
ホールをあとにした。



翌日も、ルーティン化されつつある、
パチンコ店に、足を運ぶ。

某アニメとタイアップした機種に着席。
無論、羽根物だ。

最初の五百円で、
ガッポガッポ、スタートチャッカーに、
玉が入る!
偏りもあるし、まだ始めたばかりだから、
なんとも言えないが…

優良台の予感!?

そして!

なんと、五百円で大当たり!
しかも一五ラウンド!

幸先良いスタートに、
思わず、ガッツポーズを取った。


お昼を過ぎても、
ドル箱二箱、約三千発を出して、
絶好調だった!

そこへ、
隣に、見ず知らずの女性が
腰を下ろした。

風貌は、白い肌に、
ロングヘアー、パッチリとした目が
特徴的で、

挙動不審に、辺りを見渡しながら、
千円札を投入する…。

慣れない手つきと、か弱い指先で、
ハンドルを握り、


話かけられた!


「あのう、どうやって遊戯するんですか?」

優しくて、かん高い声だった…。

一通り説明して、

ビギナーズラックってやつか!?

彼女は、最初の一発目で、
見事!大当たりを引き当てた。

拍手しながら、声をかけた。
「おめでとうございます!」

何がなんだか、
まだ、ちんぷんかんぷんの
その女性は、状況を理解していなかった。

アタッカーと呼ばれる
大当たり出玉を得る部位に、
打つように、指示して、

下皿に、どんどん流れ出てくる玉を見て、
「わぁ~すごーい!」と、
初めて、当たった実感を得たようだ。


終わって見れば、

夏空は、投資五百円で、
四千発の大勝ち!

女性も、投資五百円で、
三千発の勝利。


特殊景品を換金する交換所で、
彼女から、こんな提案をした。

「あのう、ごはんでも行きませんか?」



夏空の脳裏に、こんなことが過った。


「恋の予感!?」


つづく。


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