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短編小説【ギャル男先生/女子校へ行く】

今年の梅雨は、例年よりも、酷く…
本日も、朝から大雨だった…。
そんな中、ハイテンションでスキップしながら、浮かれている男がいた。
彼の名前は、綱木夏男。
風貌こそ、金髪、小麦肌で、服装も口調もチャラけているが、こう見えて、教師だ。
夏男が、浮かれている理由は、
この夏、臨時教師として、女子高に就任になったのである。
初出勤の今日、職員室の自分の席で、
一人、ニヤニヤしていた。
それを見て、対面の真面目そうな、同僚の教師が問いかける。
「綱木先生…楽しそうですね?」
「そりゃ~夢の女子高ですよ!回りは、JKだらけなんて!ここは、天国ですな!教師やっていて良かった~!」
同僚の教師は、冷静に語りかける。
「何か、変な幻想抱いているところ…水を差すようですが…奴ら…生徒は、全員敵ですよ…。」
「またまた~。そんなわけないでしょ!」
「忠告しておきます!初日に、絶対ナメられないようにして下さい!」
朝九時________。
ホームルームの時間に、理事長に連れられ、
担当する、教室に向かった。
(どんな、可愛い生徒達なんだろう!)と、期待に胸を膨らませ、足早に歩く。
ガヤガヤ雑談が、廊下まで響き渡る教室に着いた。
理事長が、先に入り、説明する。
「皆、おはよう。ちょっと聞いて!」
理事長の問いかけに、数名のグループ以外、注目する。
「えー本日から、あなた達、一年B組の臨時担任教師として、二学期まで、請け負って下さる。綱木夏男先生です。」
理事長の合図で、夏男がやって来た。
いよいよ生徒達と対面の時だ。
黒板に大きく「綱木夏男」と書き、
自己紹介を始めた。
「じゃあ、あとはよろしく。」と言って、理事長は、教師をあとにした。
「今日から、短期間だけど、皆の担任の夏の男と書いて、夏男でーす!よろしく。」
ピースサインして、呟くが、誰も何の反応もない…。
それどころか、全員、白い目で見ている…。
一人の生徒が、ある疑問をぶつける。
「あのう…見た目かなりチャラそうですけど…本当に、教師なんですか?」
「それ、良く聞かれるんだけど…バッチリ英語の先生だよ~ん。」
夏男の茶化した口調に、イライラしたのか?
ヤンキーっぽいグループの一人が、ペットボトルを投げて、怒り口調で、こう言った。
「喋り方も、服装も、顔も、全てキモイんだよ!!」
連れて、筆箱やら、お菓子の箱、雑誌など、
教壇に立っている夏男に、向けて一斉に投げられ、
一人の生徒をきっかけに、「帰れ」コールが、
教室充に、響き渡った…。
「物投げないで!皆、話し合おう。」
夏男の声は、虚しく…結局追い出された。
逃げるように、職員室に駆け込み、
先程の同僚の教師に、これまでの経緯を話した。
「だから、言ったじゃないですか!特に綱木先生のようなキャラは、一番ナメられるんですよ…。」
チャイムが鳴る_______。
一時限目の授業の合図だ。
「ほら…綱木先生、授業始まりますよ!」
夏男は、すがるように呟く。
「嫌です!行きたくありません!あのう…ウチのクラスの岩崎って生徒が、超恐いんです…。」
「ああ…。岩崎ね…。彼女、一年の中で、一番の不良で、二年生、三年生も、ビビる位で…下手に逆らわない方が良いですよ。」
「高田先生…脅さないで下さいよ…。」
今朝の浮かれた態度と、百八十度変わり、
重い足取りで、教室に向かう。
授業を始めようと、出席を取ろうとするが、
誰ひとり、夏男に耳を傾ける生徒はいない。
案の定…岩崎が、鋭い目つきで、睨みつけてくる…。
夏男は、ある提案をする。
「良し!初日だし…授業やめて、先生と皆で、コミュニケーションとろう!」
全員シラケた目で、夏男を見ている。
それでもお構いなしに、強引に話をする。
「やっぱり今は、BTRだよね~。皆は、誰が好き?」
BTRとは、話題の韓流ユニット。
誰も、答える者は、いなかった…。
お菓子を食べる子、雑誌を読んでいる子、スマホをずっと弄っている子、寝ている子…
もはや、無法地帯だった…。
めけずに、違う質問で問いかける。
「皆はさぁ~休みの日、どこ行ってる?渋谷?池袋?新宿?原宿?」
「うるせぇーんだよ!!」
岩崎の怒鳴り声で、さっきまでガヤガヤしていた教室が、静まりかえる…。
岩崎は、机を蹴り、話を続ける。
「マジで、殺されたくなければ…今すぐとっとと消えろ!!」
「…はい…すみませんでした…じゃあ…今日は、自習にするので…それじゃあ…。」
夏男は、ビビって、足早に去って行った。
「ダッセー!アイツマジで尻尾巻いて帰ったよ~!」
帰り際に、岩崎の言葉と、クラス全員の笑い声が、聞こえた。
購買部に行き、コーヒー牛乳を飲み、近くのシートに腰をおろしていたら、
校内一、厳しいと恐れられる、小林先生と会った。
サボっている夏男に、問いかける。
「綱木先生、こんな所で、何しているんですか?」
これまでの事の経緯を全て話した。
すると、小林は、「わかりました。私が、ビシッと言いましょう!」と自信満々に言った。
ズカズカと歩く、その姿は、頼もしいが…
夏男に、疑問が残る。
「あのう…男の俺ですら、奴らにナメられているんですよ…。女性の小林先生なんて…もっと、ナメられるのでは…?」
小林は、教室に着くなり、ドアを力強くバン!と開き、大きな声と、ハッキリした口調で、こう言った。
「やる気ない者は、今すぐここから出て行きなさい!」
やはり一年B組を仕切る岩崎が、それに答える。
「ウゼえーんだよ!!クソばばあ!お前こそ、出てけ!」
眼鏡をキュッと上にあげ、見下した様子で、
小林は、囁く。
「岩崎さん…。あなたみたいな生徒は、本校に必要ないわ。手続きは、後でいいから…今すぐ退学して頂ける?」
夏男が、割って入る。
「小林先生…いくらなんでも…退学までは…。」
「綱木先生は、黙っていて下さい。」
「はい…。」
突然、岩崎が机を倒し、椅子を蹴って、こう言った!
「上等だよ!こんな学校…こっちから辞めてやるよ!」
そう言うと、物凄い剣幕で、小林を睨み、
最後にドアを叩いて、出て行った…。
夏男は、その後を追う。
「なぁ-岩崎…考え直してくれよ…。学校辞めるなんて、言わないでくれよ!」
「話かけんなよ!もう…ほっとけよ!」
夏男は、懸命に説得する。
「ほっとけない!頼む…辞めないでくれ!」
「マジうるせぇーんだよ!!」
そう言って、夏男を突き飛ばした。
だが、諦めなかった。
岩崎の家までついて行き、道中、必死に言葉を投げるが、伝わらず…鍵をかけ、自分の部屋に閉じ籠ってしまった…。
大雨の中、夏男は、玄関先でずっと待っていた。
その様子を二階の部屋から、カーテンの僅かの隙間から、岩崎は、覗いていた。
翌日__________。
(さすがに、帰っただろう…。)と思い、
再度、覗いてみたら、夏男の姿は、そこにあった。
呆れて、歩み寄って、問いかける。
「アンタ…マジで、バカなんじゃないの?」
「岩崎に、どうしても…学校辞めて欲しくなくてさ。」
「何でそこまで、こだわるの?私みたいな問題児…居ない方が、センコーのため…クラスの皆だって…本当は…」
タバコに火をつけて、夏男が真剣な面持ちで語る。
「正直…俺…お前のこと恐いよ…。先生方も、クラスの皆も、お前にビビっている。」
岩崎に、背中を向けて、話を続ける。
「学校って、勉強はつまらないし…苦痛なことだらけだけどさぁ…。社会に出たら、もっと地獄だぞ…。
お前に、あとで後悔して欲しくないから、
一週間、本気で考えてみて欲しい!」
ケータイ灰皿に、タバコを消し、
最後に投げかけた。
「退学は、保留にしておく。また答えを聞きに来る。それじゃ…。」
一週間後________。
朝のホームルームに、一人の女子生徒が、入ってきた。
真っ赤な髪から、黒く染め、制服もちゃんと着こなしている…。
態度を改めた岩崎を見て、
(それが、答えか!)と、笑顔で、呟く。
「岩崎おはよう!」
恥ずかしそうに、軽く頭を下げ、小声で、
「先生…おはよう。」と、それに答えた。
そして、クラス全員に、向かって、
大きな声で、言った。
「皆、おはよう!私…学校辞めない!今まで、威張っていてごめんなさい。これからもよろしく!」
一同、拍手で、それに答えた。
ホームルームが、終わり、職員室に戻る夏男を、
岩崎が追っかけて、礼を言う。
「今まで、私のこと…真剣に心配してくれたの…先生だけだった…。嬉しかったよ。ありがとう!これから真面目に頑張るね。」
何人もの生徒を見てきた夏男には、わかる!問題児ほど、根は、素直で優しい!
「ヨシヨシ。」と、調子に乗って、頭をポンポン撫でたら…ヤンキーの口調に戻る。
「気安く、触わんじゃねぇ~よ!」
そそくさと、夏男は、逃げて行った。
一方___校長室での会話_______。
小林と、教頭が、コーヒーを啜りながら、話していた。
岩崎の履歴書を見ながら、教頭が呟く。
「まさか…あの岩崎を更正させるとは…綱木先生って、何者なんですかね?」
「さぁ…。私的には、岩崎を追い出したかったのですが…まぁ、もう少し様子を見ましょう…。」

ある日の昼休み______。
生徒と、一緒に昼飯を食べていた夏男。
ひとりの可愛い教え子に、目がとまる。
彼女の名前は、茜。
音楽を聴きながら、漫画を読んでいる。
不思議に思い、ある疑問をぶつける?
「茜どうした?弁当忘れたのか?水くせえーな!言えよ…ほら!」
そう言って、千円札を渡し、「購買で、パンでも買って来いよ。」と投げかけるが…
茜は、一切受け答えしなかった。
心配して問いかける。
「体の調子でも、悪いのかい?」
さらに、余計な一言を、茶化して囁く。
「それとも…月に一度のあの日?」
ついに、堪忍袋の緒が切れた。
「ウゼーんだよ!ほっとけよ!!」
怒鳴り、教室を飛び出して、どこかに行ってしまった。
茜の一番仲良い友達の望が、夏男に呟く。
「最近、茜…ピリピリしているの…。昨日も、ドーナツ食べに誘っても、来ないし…。LINEのやり取りも、素っ気ないし…。」
「そっか…。どうしたんだろうな…アイツ…。」
その日の午後________。
授業のない、夏男は、職員室で、仕事をしていた。
そこへ、二人のクラスの子が、血相を変えて、駆けつけて来た。
「先生ー!茜が、体育の授業中に倒れた!今保健室で休んでいる。」
急いで、保健室に向かった。
ベッドに横たわっている茜を見て、問いかける。
「おい!大丈夫か!?茜!!」
「うるさいなぁ-大袈裟なんだよ!イチイチ来ないでよ…。」
若くて美人な保健室の先生が、呟く。
「軽い貧血ですから、しばらく休んでいれば、大丈夫ですよ。」
夏男は、ジロジロ保健室の先生をガン見して、
鼻の下を伸ばして、それに答える。
「あっそうですか!では、茜のこと、よろしくお願いしますね~。」
しかし!事態は…急変する…。
その日の夜、またしても、茜は、自宅で意識を失い、病院に搬送された!連絡を受けて、夏男は足早に、向かった。
ドタバタと病院内を走り、茜が入院している病室にやって来た。
そして、大きな声で、問いかける。
「茜ー!無事かー?大丈夫かー!?」
茜は、露骨に嫌な顔をして、言った。
「大きな声出さないでよ…。ここ病院だよ。」
茜の両親もいた。
二人ともキョトンとした表情で、夏男を見ている。
夏男は、慌てて自己紹介する。
「あっ!申し遅れました。茜さんの臨時担任の綱木です。」
母親は、笑いながら、答えた。
「あぁ、なんか変わった先生が入ったって聞いてましたけど、あなたが…」
「ところで、茜の病気って何なんですか?」
その問いに、父親が応える。
「それが、今時、栄養失調で…コイツ、ダイエットとかで、ここ数日、全く食べないで、倒れたんですよ…。」
夏男は、茜に説教する。
「茜!何が、ダイエットだ!お前、全然痩せているだろう!ちゃんと飯食え!」
茜は、怒鳴り口調で反論する。
「男の人には、わからないよ!もう帰ってよ!!」
「人間…空腹だと、イライラしがちになる。お前、最近…友達の望にアタっているだろう?」
「気をつけるよ…。」
父親は、母親に注意する。
「大体、お前もお前だ!倒れるまで、気づかないなんて母親失格だぞ!何考えているんだ!」
「もう!先生もお父さんも、とにかく出て行って!」
強引に、追い出され…
帰り道、夏男は、父親に呟く。
「娘さん…学校でも、昼飯食べないから、変だと思ったんですよ…。」
「全く…何考えているのやら…。お恥ずかしい…。わざわざ足を運んで頂きありがとうございました。これからも、茜のこと、よろしくお願いいたします。」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします。」
深々、頭を下げて、帰った。
夏男は、自宅に着くと、すぐに望に電話した。
「茜のヤツ…原因は、栄養失調だった…。空腹で、イライラしてたんだ…アイツの無礼を許してやってくれ。」
「それは、いいけど…入院するの?しばらく学校休むの?」
「二、三日は、病院で、様子見るみたいだ。ところで…茜が、ダイエットにそこまでこだわる理由って知っているか?」
「絶対内緒にしてくれる?」
「するする!」
「何か…将来…グラビアアイドル目指しているんだって。」
「そうなんだ。それで、ストイックになっているんだな…。」
「夏休みに、オーディション受けるみたいで、今から、体型を気にしているみたい。」
「そっか…アイツ、元からスタイル良いから、痩せる必要ないと思うけどな…。」
思春期で、夢のタメに頑張っている茜に、
あまり、口出ししたくなかったが…
無理をして、また倒れることが心配だった…。
翌日____________。
望の誘いで、放課後、一緒にお見舞いに行くことになった。
病室に入るなり、茜は、迷惑そうな顔をした。
そして、イライラした口調で、こう言った。
「何しに来たの…」
望は、少ないお小遣いで買った、茜の大好物のケーキを手渡しながら、呟いた。
「これ!食べて!代官山の新作のスイーツ。」
その瞬間…
ケーキが入っている箱ごと、振り払い、
床に、散りばめられた…。
「望!嫌がらせ?ケーキなんか…一番太るじゃん!」
「ごめんね…。」
その時!夏男は、力強く茜をビンタした!
バチーン!!
口を抑え、凍りつく望…。
一方で、茜は、ブチキレる…。
「何すんのよ!教師が暴力振って!絶対、教育委員会に、訴えてやる!」
「なんとでも言え!教師なんかいつでも辞めてやる!食べないなら、食べなくてもいい!ただ…食べ物を粗末にすることだけはヤメろ!それに…望は、お前のタメに、何時間も並んで、そのケーキ買ったんだぞ…。友達の優しさを無にするな…」
茜は、ふてくされて、吐き捨てる。
「別に…頼んでないし…。」
望が謝る。
「そうだよね…ごめんね…余計なお節介だったね。」
ケーキを片付け、涙をこらえて、足早に、望は病室を去って行った。
夏男も、後を追う。
帰り際、「叩いて悪かった…。じゃあお大事に。」と言い残し、病室をあとにした。
次の日から、茜は、なぜか登校した。
あえて、本人には、詮索せず、望を呼び出して、
問い詰めてみた。
「なぁ、アイツどういう心境の変化だ?」
「良くわからないんだけど、食べたい物、我慢せず、目一杯食べて、それで太って、グラビアアイドルに、なれなくても良いんだって!」
「そっか!良かった。」
「先生のビンタが効いたのかもね!?」
その日のお昼には、弁当とパンを頬張っている茜の姿があった。
(良かった!良かった!)とそれを遠くで、
当の本人は、グーグーと、腹の虫を鳴かしながら、
夏男は、見守っていた。
昼食をとらない夏男に、茜が問いかける。
「食べてないの?お昼忘れたの?」
「その、なんだ…給料日前で…飯買う金無くてさ…。」
「全く情けない…。」
そういうと、茜は教壇にパンを一つ置き、
「あげるよ!」
「マジ!助かる~!」
ガツガツと、パンを食べている夏男に、茜は囁く。
「色々…ありがと…。」

このあとも、一年B組に、色々な問題が起きる。
つづく________。

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8,764字

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