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闇スロ

この物語はフィクションです。

【登場人物紹介】
椿(つばき)
33歳男性、パチスロで生計を立てる自称スロプロ。
世間体では無職。

さっちゃん
年齢、本名不明…。椿が良く指名する風俗嬢。

八木(やぎ)
40代男性、闇スロ、風俗、ク○リ案内人。
深夜、路地裏で違法キャッチもしている。

田崎(たさき)
50代男性、暴力団、闇スロ、違法営業を取り締まる刑事。

ベレー帽
年齢不詳、全てが謎に包まれている中年男性。

トラババア
50代後半女性、いつも虎柄の服を着て、闇スロに出入りしている常連客。地主で大金持ち。

パチスロ機種の説明
【Aタイプ】
ビッグボーナス(通称ビッグ)約400枚の出玉を得る。
レギュラーボーナス(通称バケ)約100枚の出玉を得る。
ビッグとバケで出玉を増やす、1番オーソドックスなタイプ。
【大量獲得機】
大当たり確率は、Aタイプに比べると、悪いが…
1回のビッグの出玉が約700枚もある。
【AT機】
アシストタイムといってナビゲーション通りに打つと、出玉を得るシステム。
1撃で夢の10000枚も獲得できることもある。
【ST機】
ストックタイムといって、内部で成立したボーナスは、一旦貯金され、一定条件で放出する。
合法的に連チャンと大ハマリをする。
【裏モノ】
非合法で、大連チャンと、大ハマリをする、ハイリスク、ハイリターン。

パチスロ専門用語
【目押し】
高速で回転しているリールを、狙って絵柄を止める。リズム感が重要。ただし、内部的に、ボーナスや小役が成立していないと、どんなに正確に狙っても揃わない。
【小役】
15枚以内の払い出しの役。
またリプレイといって、コインを回さずに、もう1ゲーム消化できる。
【リセットモーニング】
台をリセットした状態で、機種によっては、ボーナスやATが発動する。通称リセモ。
【天井】
ハマリ救済システム。規定ゲーム数消化で、主にAT機とST機でボーナスやATが発動する。大概1000ゲーム~2000ゲーム。
また天井までハマった方が大連チャンする機種も存在する。
【ゴト】
機械や道具を使って、強制的に大当たりをさせる。
勿論、犯罪行為。


パチスロには、6段階の設定というものがあり、
高い数字になっていくにつれ、客が勝ち易くなる。
ということで、打ち手は皆、設定6を狙う。
とは言え、設定6が入っている店は、
優良店で日に約200台中2、3台。
ボッタクリ店だと1台も入っていない。

椿が通っている店は、そこそこの優良店だ。
店側が高設定を入れる癖を掴み、
明日も狙い台に目星をつけ、
自宅で酒を飲んでいた。

3時間位で、ほろ酔い気分になり、
今度はムラムラしてきた…。

馴染みの風俗嬢にメールを送る。
本日は出勤しているとのこと。
数分のやり取りの後、店に向かった。

さっちゃんとは、知り合って3年以上の付き合いになる。少しぽっちゃりでFカップはある。
顔は、それほど好みではないが、波長が合い、
スロ談義で盛り上がったりもする。
さっちゃんが休日の日に一緒に打ちに行ったりもする。

この日も世間話からスロ談義で会話が弾み、
プレイが始まったのが、入店してから20分後だった。

アッチの方も大満足させてくれる。

もう少しで仕事が終わるそうなので、ラーメンを食べに行く約束をした。
マン喫で適当に時間を潰す。

3時間後。

ウトウト寝落ちし始めた頃に、
連絡が来た。

いつもの公園で待ち合わせ、腕を組んで歩いた。
風俗街で深夜にやっているラーメン屋は、
絶品で、時々無性に食べたくなる。
さっちゃんも同意見だ。

店内に入るなり、相変わらず無愛想な店主は、
「いらっしゃいませ」も言わず、一瞬チラッと睨んでくる。
なのに、狭い店内は、常に満席だ。
皆、スープを一滴も残さず完食する。
丁度、2人組のサラリーマンが帰り、席が空いた。
因みにメニューは、ラーメンとビールのみ。

そんなこんなで、さっちゃんと解散して、帰って来たのは…深夜4時。

起床したのは…
お昼の1時だった…。

パチンコ店の開店時間は朝10時。
狙い台は…
もう…完全に誰かに取られている…。
それでも、すぐに仕度して足早に店に向かう。

案の定…
取られていた…。
しかも…狙い通り、ドル箱を積んで出ている…。

初めてではない。
椿は、しょっちゅう寝坊して、こういうことが多々ある。
お宝台を知っているだけに、非常に勿体ない話である。
第2候補、第3候補の台も取られている。
店内をうろうろして、空き台をチェックする。
勝負になる台がない…。
ここで、キッパリ帰れるのが、勝ち組。
ほとんどの打ち手が我慢出来ず、適当な台に座る。
結果負けてしまう…。
勿論、長年パチスロだけで、食べている椿は、前者だ。

しかし…。
最近、椿は、我慢出来ずに打ってしまう…。
昨日も寝る前にスロ動画を見て、無性に打ちたくて、
今日も…適当な台に座ってしまった…。

結果…マイナス3万負け…。

反省するが…
次の日からころっと忘れるのが、椿の悪い癖。

気を取り直して、明日の目星をつける。
入念にチェックして、店を後にする。

この日の夜、夕食を食べながら、SNSを見ていた。

そして、これが椿の運命を大きく左右することになる…。

「闇スロに行って来た」と誰かの呟きを見た。

「闇スロ?」

闇スロについて、徹底的に調べた。
15年以上の前の爆裂機が、しかも高レートで打てるらしい…。
爆裂機とは、負けもデカイが勝ちもデカイ10万勝ちや負けが日常茶飯事で、金銭感覚が麻痺した一昔前の台だ。
今は、規制がかかり、爆裂機は存在しない。

だが、肝心の場所がいくら調べてもわからず、
呟いたユーザーに、DMで問いかけてみた。
しかし、反応は無かった。

「そうだ!」さっちゃんの風俗を紹介してくれた、八木さんなら、夜の街に精通しているから知っているかもしれない…と思い、さっそく出向いた。

繁華街から、少し外れた薄暗い路上に八木さんは立っていた。
さっそく声をかける。
「あのう…すみません。闇スロってご存知ですか?」

「知っているよ。」

「そこに連れてって下さい。」

「誰かの紹介がないと入れないよ。」

「え?そうなんですか?」

非合法営業なので、経営者も客もかなりリスクがあるため、ふらっと一見客は入店できない、みたいだ…。

八木さんはスマホを取り出し、
「ちょっと待ってて、聞いてあげる。」

頼もしい!

小さい声で、誰かとやり取りしていた。
電話を終え、了承を得た。

八木さんの案内で、闇スロ営業しているマンションに向かった。

心臓はバクバクだった。
久しぶりに爆裂機を打てる興奮と、
未知の危ない橋に渡る恐怖感で…。

歩いて15分程度に、さも普通のマンションにたどり着いた。
八木さんがチャイムを鳴らし、
強面の男が出て来た。
「とりあえず入って」と言われ、


闇スロに足を踏み込んだ。


八木さんは「じゃあ頑張って」と言って去って行った。
「ありがとうございました」と頭を下げ、八木さんと別れた。

真っ暗な部屋に案内された、その光景は…。
50台位の名機達が並んでいた。

感動する間もなく、主らしき強面の男が店の説明を始めた。
「レートは100円」

普通は20円なので、5倍である…。

「店内にあるものは飲み食い自由だから。」

ビール、高そうなワイン、シャンパン、ソフトドリンク、ピザ、チキン、ナッツが揃えてある。
食べ放題、飲み放題とは嬉しいサービスだ。

「精算する時は、呼んで下さい。何か質問は?」

「換金率は?」

「手数料を除いた、クレジット数×80円です。」

手数料とは、いくら引かれるがわからなかったが、
それよりも早く打ちたかった。

ボーイに一万円札を渡し、台にクレジットを入れてもらい「100」と表示された。

大好きだった懐かしの大量獲得機を打った。
絵柄、音、全てが懐かしかった。
当時の余韻に慕っていたら、早速リーチ目が!
リーチ目とは、「内部でボーナスが成立しましたよ」の合図。

ビッグボーナスだと700枚!
レギュラーボーナスだと100枚…。

心の中で(ビッグで!ビッグでお願いします!)と祈った。
目押ししてみると…

ビッグボーナスだった!

幸先の良い、闇スロスタートだ。

まともな店なら、700枚で約12000円~14000円に、なるが、闇スロなら…

一撃で56000円だ!!

手数料を引かれても、5万円は来るはず。
1万円しか使ってないので、このまま即止めしても
プラス4万円だが…。
とりあえず100ゲームまで回すことに。

すると!
30ゲームで、レア小役orビッグの激アツ目が…。
レア小役の枚数は、15枚だから…
ビッグの枚数と比べると、雲泥の差がある…。

動揺して、手が震える。
ストップボタンが押せない…。

一度深呼吸し、平常心を取り戻したところで小役を狙う。

外れた!

すなわちビッグボーナス確定だ!
また700枚獲得だ。

連チャンと言われる100ゲーム以内の連続大当たりで、出玉は1000枚以上確保した。

この台は、設定が良かったのか?
この後も5連チャンした!

ドル箱は2箱カチ盛りである。

500ゲームハマリ、出玉は少し減らしたが、
3500枚を精算することにした。

背の高い、イケメンなボーイに「精算お願いします。」と頼んだ。

「少々お待ち下さい」と丁寧な小声で頭を下げ、最初に店のルールを説明した店主らしき、強面の男が奥から出て来た。

男は、電卓を持って「お客様のクレジット数3500に、80円かけた額で…」

「280000円になります。」

スゲー…。

手数料3万円を引かれ、25万円の現金を受け取った。

闇スロ初戦にいきなり大勝利だ!

それよりも、店主やボーイの対応がすごく良かった。
正直、「大勝ちしたら、ちゃんと換金してくれないのじゃないか?」または、「遠隔操作で、当たりを絶対引かせないのではないか?」など不安があった。

だが、その不安は全て解消された。

(また…今夜も来よう)と思い、
時刻は明け方である。とりあえず、午前中からやっている居酒屋に1人で祝賀会をしに行った。
途中、闇スロを紹介してくれた八木さんのところに行った。
「昨日は、どうも。運良く勝てました。これ少ないですが」と言って一万円札を渡した。
紹介してくれたお礼である。
「勝ったんだ…すごいね。」とニコニコしながら、一万円札をポケットにしまった。
良くお礼を言って、後にした。


居酒屋について、まずは生ビールを注文。
隣でオッサンが食べているうな丼がうまそうだったので、うな丼も注文。

さっちゃんから連絡が来た。
昨日は、忙しくこの時間まで仕事だったそうだ。
腹がペコペコだということで、丁度飲み相手が欲しくてグッドタイミングだった。
すぐに誘った。

さっちゃんは、20分位で来た。
「好きなだけ飲み食いしていいよ~」
「えー!?どうしたの?万枚でも出た?」
「万枚よりも…すごい稼ぎがあってね。」と言って、
闇スロのこれまでの経緯を話した。


「何それー!私も行ってみたい~!」とさっちゃんは、目をキラキラさせて言った。
夜に待ち合わせるのも、めんどくさいのでお昼まで、この店にいてホテルで仮眠して、その足で闇スロに行く寸法だ。

夜の7時。
起床して、準備をする。
軍資金は、5万までは出してあげることにした。
それ以降はさっちゃんの自腹だ。
と言っても昨日は朝まで稼いでいたので、さっちゃんの懐はそこそこ余裕だった。
闇スロで余裕か、どうかはわからないが…。
果たして?…。

さっちゃんと腕を組んで、昨日のマンションに再びやって来た。
付き合っているわけではないが、傍から見れば恋人のようだ。

チャイムを鳴らす。
ボーイが出た。
昨日教えてもらった合言葉を言い、中に入れてもらった。
さっちゃんを紹介しながら「連れですが、一緒にいいですか?」と言うと、
ボーイは「どうぞ、ごっゆくりお遊びしていって下さいませ。」と相変わらず丁寧だ。
さっちゃんは耳元でぼそっと「何あの人、超イケメン~」と言ったことに、少しヤキモチを妬いた。

台を見ると、ストック機であと500ゲーム回せば、天井に到達する美味しい台を発見した。
軍資金も大丈夫だ。
さっちゃんに譲った。
椿は、一攫千金を狙いAT機に決めた。

早速、打ち始めた。
リセットモーニングは、残念ながら、かからなかった。
コイン持ちの悪いAT機は、ガンガンクレジットが減る、投資した1万円100クレジットは、一瞬で終わり、イチイチ入れてもらうのも悪いので、5万円分、一気に追加投資した。
因みにコイン持ちとは、ボーナス以外に小役が揃い、小役が多く揃えば当然、回せる回数が増えコイン持ちが良いとなる。普通の台は平均千円で30回がコイン持ちの基準だ。今打っている椿のAT機は20前後だ。
その分、当たった時のリターンが大きい。

一方、さっちゃんは、天井まで行かず、2万円でビッグボーナスをゲットした!
さらにボーナス中、ある一定条件をクリアして
なんと1ゲーム連チャンをした!
文字通り1ゲームでビッグボーナスがもう一度来る。
ストック機ならではのシステムだ。
さっちゃんはかなり喜んでいた。

椿は、すでに6万円が溶けていた…。
さらに追加投資1万、2万、3万が、湯水の如く無くなり…
合計投資10万円入れたところで、ビッグボーナスに当たった。
とりあえず、一息つける。
AT機は、ビッグが主役ではない、あくまでもATアシストタイムと言われる小役を毎ゲームナビゲーションしてくれるシステムに当選しないと勝ち目がない。
ビッグ後の100ゲームは、AT突入率が高確率なため、
気合いが入る!
チャンス目と呼ばれる、役を引けるかがカギだ!

当然、そうタイミング良く引けない…。
100ゲームは、あっという間に過ぎ去った。
次のビッグを引き、再び挑む。
しかし!AT機のビッグ確率は悪く…
1000ゲームハマリも日常茶飯事だ…。

と思っていたら…
出玉がノマれる寸前に、ビッグを引いた!

もう一度気合いを入れて、レバーを叩く…。

50ゲームで念願のチャンス目を引いた!

あとは、AT当選を願うばかり…。

台の液晶とにらめっこだ。

液晶が騒がしい。

AT潜伏している合図とフェイク演出のどちらかだ…。
前者であって欲しい…。

連続演出が始まった。
これで、当選か否か…ハッキリわかる…。

さっちゃんもやって来て見守る。

見事AT当選した!

さっちゃんは椿に抱きついて「おめでとう!良かったね」と祝福してくれた。
当のさっちゃんは、絶好調ですでに2箱3000枚は、出しているらしい!
2人で、このまま大勝ちしたいものだ。

が…。

椿のATは単発で終わった…。
肩をガックシ落とし…
また長い道のりが…。

5時間後。

熱くなっていた椿は、同じ台に20万円以上注ぎ込んでいた…。
昨日の勝ちが…全て消えてしまっていた…。
だが、天井まであと少し…。
この台の天井の破壊力は凄まじく!
ボーナス当選まで永遠にATが発動する。
つまり、ハマリ続ければ、出続けるのである!

しかし…この日の椿はツイてなかった…。

天井直前で当たってしまった…。
しかも、ビッグではなく…何の役にもたたないレギュラーボーナスだ…。

さすがにあきらめた…。

さっちゃんは、最終的に5000枚を越える大勝利だった。

換金すると40万円だ!!

椿に同情したのか…「はい」と10万円手渡された。
受け取ることに躊躇したが…有り難く頂いた。

昨日の居酒屋で、さっちゃんの祝賀会だ。
情けないが…当然さっちゃん持ちだ。
「私~しばらく通いそう~!」と上機嫌で、ビールをガバガバ飲んでいた。
闇スロでいきなり5000枚も出せば、抜け出せなくなるのは、当然だ…。

しかし…
闇スロの本当の恐ろしさは…
ここからだった…。


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