帰路
電車に飛び乗るとある男の子と目が合った。岡田健史みたいな力強く通った鼻,少し焼けた肌,凛々しげな瞳。
一目惚れだった。
ドアのすぐそばの角に立っていた。
電車のドアが閉まり私が立ち位置を決めると,彼は少しだけ体の向きをこちらに向けた。
その些細な仕草だけで胸が高鳴った。
横目で見る彼はきっと少しシャイで,多くはないが友達に恵まれ,きっと時々静かに本を読むのだろうと思った。
いや,もしかしたら休みは友達とサッカーしたり遊びに行ったりするアウトドアなタイプかもしれない。
彼はどんな人なんだろう。どんな生活をしているのだろう。
気づけば私は彼の声を聞きたくなっていた。
しかしただ同じ電車に乗り合わせただけだ。さらにお互い一人でいるのだ。友達と話すふりをして自分のことをわざと知らせたり,相手のことを知ることもできない。
そうこうしているうちに私の降りる駅になった。ドアが開くと私より先に彼が降りた。この辺の子なんだ。これ以上はいいから,せめて北口か南口かだけ知りたい,と思った。すると彼は改札前で曲がった。トイレに向かったのだ。私はそのまま改札を出て,足の止め方も振り返り方も分からずにただ帰路を進むしかなかった。
久々だった。高揚した。心臓の場所がこんなにもはっきりわかるのはいつぶりだろうか。
あんな素敵な瞳の彼が好きになるのはどんな人なんだろう。どんな映画を見るんだろう。
なんて妄想。ただ電車に乗って帰っただけです。
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