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カムカムエヴリバディのジョーに見る「嘆き」尽くして「お祝い」に至る道

連続テレビ小説カムカムエヴリバディの中に垣間見えるNVC(非暴力/共感的コミュニケーション)に関して、考察を書いています。

カムカム、今週が最終週だなんて(泣)
NHKオンデマンドの見放題を登録してもう一度安子編の最初から見ようとしているそこのあなた、私もです。

それにしてもTwitter民の #カムカム絵  の凄さよ!(このスゴさは漢字で書くべき凄さ!)描きたくなるのねえ……脚本と演出と俳優さんたちがあまりにも魅力的で。その思いに突き動かされて皆さんが手を動かしていることを思うと、ほんと、尊敬しかない。

一方、たかが文字を書くだけの自分を顧みて……ここでネタを出さずに終わってなるものか! と背中を押されてもいます。

嘆きを味わい、日々小さなお祝いを繰り返し人生は深まる

さておき、今回のテーマ、NVCの重要なキーワードでもある「お祝い」と「嘆き」は、第90話にでてくるこのセリフに触発されたものです。

ジョー「新譜出るたびに買うてるけど、いっぺんも聞いてない」

第90話は、五十嵐と別れたひなたをるいがなぐさめるシーン、そして傷心のまま条映を去ろうとしていた五十嵐にジョーがエールを贈るシーンが交互に出てきて印象的でした。中でも、トミー北沢のCD を五十嵐に手渡したジョーが語ったこのセリフを聞いたとき、 グッときました。「あ、これはジョー的な”お祝い”と”嘆き”だ」と思ったからです。

そう、人生にはお祝いも嘆きもあり、それら両方を味わい尽くしてこそ、深みが増し、NVCで言うニーズが輝いてくる。カムカムはこうしたことも描いているようにみえます。 

ニーズとはあらゆる人に共通する、人生を素晴らしく、人間らしく生きるのに大切な概念、価値観。心の中の大切なこと、純粋な意図、あるいは根源的な願いであり、それこそが人を動かす原動力となるもの。ニーズは、その人の人生に通底して必要とされるものもあれば、瞬間瞬間入れ替わり、移り変わっていくものもある。

トランペッターとして活躍する夢が破れ、しかし90話まではその痛みをまったく表現することなく、傍目には何をやっているのかわからない"髪結いの亭主”ならぬ”回転焼き屋の亭主”として生きているジョー。

これまでカムカム×NVC 考察の中で「ニーズを掴んでそれを生きる」ことが大切で、ジョーはそれをやっているのだという記事を書きました。とはいえ、ニーズを掴んでいても、それが満たされることもあれば、満たされないこともあります。

彼は自分の大切なニーズ(この場合は”自己表現”あるいは”存在そのもの”等でしょうか)が「人生を賭けた手段(トランペット)では叶うことがなかった」のを体験しています。その絶望から、死に向かって踏み出したほど。

それをきれいさっぱり忘れ去ったかのようにひなたや桃太郎、妻るいへ愛情深く接し、商店街の人たちと穏やかに交流する日々を視てきた私たち視聴者ですが、90話の「いっぺんも聞いてない」という言葉に、気付かされます。忘れ去ってなどいなかった。彼の中に痛みは痛みのまま存在していたのだ……と。

そうです。ニーズが満たされなければ、痛みはあるのです。ですが、なぜ、表に出さずにいられたのか。どうして屈折せずに精神のバランスを保ってこれたのか。それをNVC的に考察するのならば、痛みをきちんと「嘆くこと」をし続けていたからでは、と思うのです。

ニーズから目を離さないために、感じ尽くす

音楽に人生を賭けるというジョーの夢は叶っていません(90話の時点では)。ということは、彼のニーズ(心の底からの求め)が失われたということなのでしょうか? 

そうではありません。「満たされない痛みがある」のは、「ニーズが存在する」からです。ニーズを思えば思うほど痛みが疼くのは、それほどまでにそのニーズが大事で、それを追い求めたい、手にして大切に愛でたいからです。ニーズは心の中心に存在しています。

ニーズから目を離さないためにも、この痛みと「共に在れ」とNVCは教えます。つまり、きちんと「嘆く」ことが重要なのです。

ふつう、怒りや悲しみ、辛さをもたらす嫌な感情や感覚とは一緒にいたくありません。早くそこから抜け出したい、見ないようにしたい、感じなくなりたい、だからその気持に蓋をしたり、なかったことにしがちです。

ですが、NVCを本当に実践するのであれば、たとえ避けたい感情、感じたくない感情であっても、勇気をもって迎え入れ、深く潜っていくこと、恐れずに「感じ尽くすこと」を避けては通れません。ただただ、じっと感じ尽くしたどん底で見えてくるからです。何が? ニーズが。すなわち私たちの”いのち”が。

ジョーはトミーのレコード、CDをすべて買っているといいます。それはトミーの成功を素直に「お祝い」する気持ちもあったでしょう。しかし、嫉妬や羨望などの「痛み」ももたらしたはず。なによりも自分自身の絶望も。

でもそこから逃げなかった……と、毎回アルバムを買っていたとのセリフから推測します。トミーの新譜を手にするたびに、ジョーはじっと座って、浮かんでくるさまざまな感情に身を委ね、そのどん底まで降りていこうとしていたんじゃないかな?(うふ。また妄想してしまった♡) 幸いなことに、彼には時間はたっぷりありましたから。

ふつう、これができません。純粋にただ感じるのはとてもむずかしい。やってみればわかると思うのですが、感じるところに留まろうとしても、次々と”考え”が浮かんできてしまいます。

「こんな思いをしているのは誰々のせいだ」「社会のせいだ」あるいは「自分が悪いからだ」と自分を含む誰かや何かに責任を押し付けたり、「この嫌な思いにもこんな意味があるはずだ」とストーリーをつくって納得しようとしたりします。いま手に入らないもの、失ったものを思うと辛いからです。
ストーリーをつくって理由づけすると、一時的に心を守るには役立ちます。お化け屋敷の落ち武者幽霊役で腐っていた若き日の文ちゃんこと五十嵐は、そんな考えに囚われて堂々巡りしていたのかもしれませんね。

でも。

理由づけしていったん収まったように見えても、なにかをきっかけに再び感情が吹き出すのもよくあること(それで、破天荒将軍にからんじゃったり)。だからあえて、勇気をもって、痛みに突っ込んでいく選択もあることをNVCは伝えています。

痛みを感じ尽くしたその先にあるものは

身を切られるほどであっても、その辛さから逃げず味わいながら息を深くしてそこに留まり、痛みとともに在ること、いまは無いものを愛おしむこと、悼むこと……をやり尽くします。いったんやり尽くしたと思っても、またしばらくすると湧いてくる胸の痛み……。感じたら、立ち止まって、また同じように味わうことをひたすら繰り返します。

すると……なんとも表現のしようが難しいのですが……心の中でザワザワしていた嫉妬、グサグサと血を流していた惨めさ、あるいはどす黒かった絶望などなどの感情が、ニーズにつながって一体となり、やがてそれらが蒸留されるかのように純度を高め、あるいは昇華して結晶化するときがやってきます。それは、すぐにかもしれないし、痛みを味わって味わって味わった後のある瞬間かもしれません。

その結晶を手にとって見ると、純粋で透明なニーズであることがわかります。あとは、透明な氷砂糖を口に含むかのように、ニーズをゆっくりと味わうだけ。

……すると、そこにあるのは……至福です。

あるとき私が見たのは、澄み切った鏡のような水面、水面に映る青い空と動いていく白い雲(のイメージでした)。痛みは痛みとしてあるのに、ニーズは満たされていないのに「私は私の人生を歩むのだ、私は大丈夫」という穏やかで、落ち着いた心持ちがありました。

「嘆き」を嘆きつくすと、そこにあるのは、命の肯定です。興奮して高ぶるのではなく、ただ静かに受け入れ、しみじみと喜ぶような……。

痛みを避けずにともに在ることを続けていくと、日常の喜びにも目が向くようになっていきます。小さな喜びをきちんと喜ぶ。小さな幸運にも目を留めて感謝し、お祝いする。「やってごらん、きっと人生がステキになるよ(life can be so sweet ♪)」とNVCを学ぶ中で何度も教えられ、15年ほどを経て、ようやくそのとおりだなと思えるようになった私です。

ジョーの例で言えば、不甲斐ない自分の元に生まれてきたひなたを「光の塊」と受け取り人生を祝福できたのも、「子どもたちが大好きなお父ちゃん」であることにひなたの道を見出しご機嫌で過ごせていたのも、片方に「絶望」という痛みを抱えながらそれを避けずに向き合ってきたからではないかな、と思うわけです。

第93話では、トランペッターとして挫折した過去を子どもたちに語り、さらにるいとの会話の中でトランペットに別れを告げるような場面もありました(泣いた〜)。このエピソードからも、ジョーは痛みと共にあり、だからニーズとも共にあったんだ!とわかりました。だからこそ、その後、手段を変更して音楽の道に戻ることになったのも、NVCのメガネをかけてみれば当然の流れに見えるんですよね。

「嘆き」を嘆きつくし、「喜び」を祝福しつくす。そして人生は続いていく……。ああ、朝からそんな深みを見せてくれるカムカムエヴリバディも残りあと少しです。

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