自分自身・人と人・自然・社会とつながり直す。中野民夫さんワークショップレポート
⾃分⾃⾝、⼈と⼈、⾃然、社会ーーー。ファシリテーターでありワークショップ企画プロデューサーの中野民夫さんのもと、あらゆる関係性の中で起こり続ける分断をひとつずつ繋げていき、関係性を再⽣していくためのワークショップを開催しました。今回は、そのワークショップの様子をお届けします!
中野 民夫さん
東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授、ワークショップ・ファシリテーター。学生時代はアジアや中南米への旅人。博報堂に就職し営業職から苦労する。休職・留学したカリフォルニアで組織開発を学び、ワークショップの魅力に出会う。以後、会社勤めの傍ら、人と人、人と自然、人と自分自身、人と社会をつなぎ直すワークショップや、参加型の場をつくるファシリテーション講座を実践。2012年に早期退職し京都の同志社大学教授、2015年から東工大のリベラルアーツ教育に携わる。
主著に『ワークショップ』『ファシリテーション革命』『みんなの楽しい修行』『学び合う場のつくり方』など。
自分自身、そして社会とのつながりに思いを寄せる
ワークショップの冒頭は、参加者メンバー全員による自己紹介のチェックインからスタート!
どんな方が、どういう思いで、ここに集っているのか?一人ずつ話していった後、自分の着ている服はどこから来るのかを調べながら共有する時間に。また、今日食べたものはどこから来て、どこへいくのかをマップで描いていき、私たちの生活の背景にある人々や環境とのつながりを確認していきました。
(筆者が描いたマップ。描いてみると、自分が食べているものが多くの人・場所と関わっていることが分かりました)
自分自身と社会の動きのつながりに思いを寄せながら、次に⾝体と呼吸、⼼を調える 「マインドフルネス」の実習が行われました。忙しい⽇常から少し⽴ち⽌まり、今この瞬間に⽴ち戻っていく。「調⾝・調息・調⼼」の気持ちを持ち⾝体を調えていくと、呼吸そして⼼が徐々に整っていく。心身を落ち着かせながら裸足で床に立ってみると、自分の身体の軸の感覚や、自分を取り巻く空気、そして地球全体とのつながりを感じることができます。
中野さん:マインドフルネス=「念」とは、今ここ、ありのままに気づいていくという心のこと。丁寧に背伸びして、天と地のあいだの柱になる感覚など、身体を調えるところから入ると入りやすいです。それは、自分が呼吸していることに気づくところから始まります。吸っている空気、自分の脈はどこから来ているか、想像していくのです。
その後中野さんから、真っ白なただの紙が用意され、禅僧・詩人・平和活動家のティク・ナット・ハン氏の言葉の紹介が。
もしあなたが詩⼈なら、この⼀枚の紙の中に、雲が浮かんでいるのをはっきりと⾒るでしょう。雲が無ければ⾬はなく、⾬がなければ樹は育たないでしょう。そして樹がなければ、紙を作ることができないからです。 紙が存在するために、雲はなくてはならないものなのです。 もし雲がなければ、この⼀枚の紙も存在することはできません。ですから、紙と雲は「相互存在(Interbeing)」していると、⾔うことができます。(Thich Nhat Hanh, “The Heart of Understanding”より)
「何かが存在する」ということは、その背景に様々なもの、人、環境が存在するということ。想像力を持って周りを見回してみると、些細な物事でも自ずと自分自身とのつながりを感じられる。そして、そのつながりに思いを寄せると、”分断”のない連鎖的な物事の姿が見えてくる。そんなメッセージを受け取っていきました。
"We are all children of the earth.(みんな地球の子どもたち)"
(中野さんのプレゼンテーション資料より)
中野さんが大切にしている言葉の一つに、"We are all children of the earth.(みんな地球の子どもたち)”という北米先住民の言葉・世界観があります。
数十年前から環境活動をされている中野さんは、「平和のために戦争をする」というような、暴力や憎しみが付き纏う「平和活動」に対して違和感を持っていたと話します。
その中で中野さんが出会ったのが、仏教学者・社会活動家のジョアンナ・メイシーさんです。Life(生命、いのち)は、普段私たちが思っているものよりずっと大きいということ、私たちの生命は40億年もの地球の生命の歴史につらなるということ、そしてそういった「大きなつながるいのち」に帰ろうというメイシーさんの言葉は、まさに今世界中で盛り上がる「サステナビリティ(持続可能性)」の基盤になる。大きな感覚で"Life"そのものを感じ取っていくことで、分断を乗り越えた「つながり」を得られるというメッセージは、筆者自身にとっても印象的なものでした。
ここで、ジョアンナ・メイシーさんの著書『カミング・バック・トゥ・ライフ 生命への回帰 つながりを取り戻すワークの手引き』にインスパイアされ、中野さんが作曲した歌「Coming Back To Life(つながるいのちに帰ろう)」を参加者とともに歌いました。
徹底的に自分と向き合う、修験道の世界
中野さんは、日本古来のスピリチュアルな道である「修験道」の探究もされています。「修験道」とは、神道、仏教、道教などが融合した自然信仰であり、祈りの精神とともに山を歩くことで「野性の感覚」を取り戻していく修行だといいます。
(中野さんのプレゼンテーション資料より)
修験道の中で発して良いのは、「うけたもう」という言葉のみ。それ以外は沈黙を通し、修行の中で誰がいるのか、何をするかが分からない状況で進行していくそう。
草鞋で山道を歩くため怪我をしたり体力的にも限界を感じたりする中で、頭が空っぽになり、野性/野生の感覚が取り戻されて直感が冴えてくるそう。「うけたもう」という言葉には、「まずはやってみて体験し感じる、それから考える」という心の向き合い方を示しており、「沈黙」という社交が一切不要の中で自分自身と徹底的に向き合うことができるといいます。
偶発的なご縁からつながる、キャリアの道
このように、ワークショップのプロデュースから修験道に至るまで、多岐にわたる活動をされている中野さん。そのキャリアの道のりは、偶発的に繋がってきた人々のご縁に結びついているといいます。
中野さん:私個人のキャリアは、予想しない偶発的な出来事によって起きていると思いますね。大学卒業後、博報堂へ入社し働いていたのですが、行き詰まりを感じ、平和活動や環境活動について学べるCIIS(カリフォルニア・インスティチュート・オブ・インテグラル・スタディーズ。心理学やセラピーなど人間の意識に関する研究を強みとしている私立大学院)ヘ入学したい気持ちになりました。上司の理解も得てCIISを出て、以前からやりたかった環境・持続可能性の仕事を、愛知万博の地球市民村の中でようやっとできることになりました。
その後、東日本大震災でボランティアのため東北を訪れた中野さん。たまたま隣にテントを張っていた方の紹介で同志社大学の教授の職に応募し、京都に住むという夢を叶えたり、東京に戻った後出会ったクラシック音楽業界の方とのご縁から中野さんの曲をCDにしたり…と、まさに偶発的に出会う人々のご縁で活動を展開されてきたそうです。
中野さん:自分が天職だと思うのは、「エコロジー」と「スピリチュアル」の間を繋ぐことだと思っています。まさに、「エコ・スピリチュアル・ワークショップ・ファシリテーター」という肩書きですね。
(中野さんのプレゼンテーション資料より)
私たちの”intention(奥深い希求)”は何か?
最後に行われたワークでは、私たちの "Intention" を掘り下げていきました。"Intention"は「意図」と和訳されることが多いですが、この言葉にはもっと奥深いものがあると中野さんは話します。
中野さん:"Intention"は、ジョアンナ・メイシーさんもとても大切にしていた言葉です。 この言葉の私なりの意訳は、「奥深い希求」です。「私」という存在の奥深いところで、希い求めているものは何か。 "Intention"とは、言語化できていないけれど、「自分の奥深いところにあるものが求めているもの」だと思っています。
こうした「奥深い希求」を探るために、個々人が実際によくやっていること、これからやりたいと思っていること、奥深いところで希い求めていると思うことを言葉にしていき、それぞれ気づきや発⾒を探っていきました。
最後には、中野さんから "Follow your bliss!"というメッセージが。アメリカの神話学者 ジョーゼフ・キャンベル氏による言葉で、自分の至福を追求することの大切さを説いています。
中野さん:"Follow your bliss!"とは、「自分の至福についていこう」ということ。気になることについていく、命がたぎることを楽しくやっていく。その過程は楽なことだけではないですが、「なにくそ」と頑張ることも「⾄福」だと思います。至福を追求していくと、努力が苦痛でなくなっていることがあると感じますね。
そして、中野さんが作詞・作曲した「気になることについて行こう(Follow your bliss!)」を参加者全員と歌い、歌詞の意味を噛み締めながらワークショップは締められました。
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今回の中野さんのワークショップを通して、修験道のお話からご自身のキャリアのお話に至るまで、とても濃い時間となりました。
「奥深い希求」を大切にしながら流れに身を委ねていくと、自ずと自分自身が進む道が開かれていく。そして、個々人が"Follow my bliss"を積み重ねていくことで、真に分断のない、つながりあった世界が立ち現れてくるのではないでしょうか。
筆者自身も、もっと自分の感覚に正直に、そしてご縁を大切にしながら、自分の至福についていこうと思います!
Written by Mari Kozawa
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