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パッシブデザインの話–1

つなぐデザインオフィスでは『パッシブデザイン』を用いて設計をします。
しかしながら、『パッシブデザイン』は、まだあまり馴染みがないかもしれません。
一体どういうものなのか、簡単にお伝えしてみようと思います。

■パッシブデザインとは

パッシブデザインは日光や風など、誰もが享受できる自然界に存在するエネルギー(自然エネルギー)を活用し、建物の居住性を高める建築手法です。
すごく平たく言えば、使えるものを使って、快適な暮らしを得ようというもの。
要約すれば、以下のようなものです。

・冬は日射を取り入れよう
・夏は日射を遮ろう
・中間期は風を取り込もう
・効率よく換気をしよう

パッシブデザインと言うとすごく難しいものに聞こえますが、こうして噛み砕くと、どれも簡単に実現出来そうに思えます。
では、パッシブデザインではどんなことをするのでしょうか。
それぞれをもう少し詳しくお伝えしてみます。

■冬の日射を考える

まずは冬の日射です。
冬は太陽が上る高さが低くなり、同時に日光が降り注ぐ時間が短くなります。
しかし、冬の日差しはとても暖かいことは皆さんご存知ですよね。
寒い冬の日に、太陽の日差しがあることは、とても嬉しいものです。
日射には熱エネルギーがあるため、これを室内に取り込み、利用できるよう工夫します。

建物に日差しを取り込むために障害となるのは窓前面の建物の位置、窓の位置や大きさ、庇やバルコニーの位置や出寸法などです。
これらは建築設計において、内部空間だけでなく外観をも左右するとても重要な要素です。

これらを簡単にシミュレーションしてみます。

つなぐデザインが事務所を構える松戸市の緯度は、およそ36度です。
ここから、夏至と冬至の南中高度を割り出します。

・夏至 90度 - (計測点の緯度=36度) + (地軸の傾き=23.4度)= 約78度
・冬至 90度 - (計測点の緯度=36度) – (地軸の傾き=23.4度)= 約31度

日射の進入角度は、夏は78度ですが、冬は31度しかありません。
冬のお昼に1階室内に日射を最大限取り入れようとする場合、前面の建物との間隔はおよそ10.7mの離れが必要となります。
郊外でない限り、この距離を取ることは難しいでしょう。
冬の日射を取り込むには、2階にリビングを設けたり、吹き抜けを介して日射を取り入れるなど、プランを検討する必要があります。
バルコニーや庇が窓先に1mある場合とない場合の日射のシミュレーションしてみました。

まずは冬至、庇やバルコニーなしの場合

【冬至・真南・0】14時

次に冬至、庇やバルコニーが1m出ている場合

【冬至・真南・1000】14時

こうして見ると、バルコニーの有無で日の当たる部分の長さが異なりますね。
冬だけで考えると、庇やバルコニーがない方が良さそうに見えます。

■夏の日射を考える

続いて、夏の日射を考えます。
夏の日射角度は78度です。
同じ条件でシミュレーションしてみます。

まずは夏至、庇やバルコニーなしの場合

【夏至・真南・0】14時

次に夏至、庇やバルコニーが1m出ている場合

【夏至・真南・1000】14時

今度は庇やバルコニーが1mあると、室内に日射が入ってこないことがわかります。
夏の日射はとても厄介です。
日が当たる部分は熱くなり、周囲の空気をどんどん温めていきます。
カーテンやブラインドで日射は遮ることが出来ますが、カーテンやブラインドそのものが熱を持ち、室内の空気を温めてしまいます。
ですので、庇やバルコニーがない場合は、日射を建物から遠ざける必要があります。

「パッシブデザイン」と言うと、「受け身」なイメージを持たれますが、実は逆で、積極的に自然エネルギーを取り込むための設計手法なのです。
快適な暮らしを実現するために、周辺環境から日射や風を検討し、配置や建物形状を考えます。
リノベーションの場合は建物の配置を変えることは出来ませんが、吹き抜けを検討するなどして、パッシブデザインを取り入れる工夫をします。
新築もリノベーションも、建物ひとつひとつを状況を把握し、しっかりと検討し、改善策を検討しています。

長くなりましたので、残りの2項目についてはまた改めて。

【心地よい暮らしをつくる建築事務所・つなぐデザインオフィス】

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