オリオンの残した涙②

 ミーーン。ミーーン。 
 今日も朝から蝉が大合唱を繰り返している。
 昨日の夜は旅の疲れと幽霊のことが気になって上手く眠れなかった。ばあちゃんが用意してくれたそうめんをつつきながら昨日のことを話すべきか悩む。ばあちゃんは幽霊を見たと言ったら信じてくれるだろうか。
「ばあちゃんはさ……」
「んんー?」
 そうめんを頬張りながらばあちゃんがこっちを見る。
「いや、昨日の幽霊の話なんだけど……」
「さては、見たね、さっそく」
 ふふーんと得意げな顔。そんな顔をされても。
「大丈夫、あれは悪いことはせんよ」
「そうなの……?」
「座敷童子みたいなもんやね」
「ばあちゃんも見たことがあるの……?」
「……ないね」
 そう言ってばあちゃんはケラケラと笑った。
 なんなんだ。全部ばあちゃんの冗談だったのだろうか。昨日見たものは確かに長い黒髪の白い服を着た少女のようだったけれど、あれは本当に幽霊だったのだろうか。
「そういえば今日は、今度行く中学校の先生が挨拶しに来てくれはるからね。田中先生いう担任の先生と、校長先生やって」
「校長先生まで来るの?」
「この辺は子供が少ないからね、たかせが来てくれてみんな大喜びなんよ」
「そんなに……?」
「なんてったって、十四人しかおらんらしいからね、たかせの学年は」
 十四人という数にただただ驚く。東京にいた頃は一クラス三十人はいたし三クラスはあった。何もかも東京とはスケールが違うのだと改めて感じた。

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