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福祉・医療制度改革ズームイン(9)名誉会長の宮崎さんとの思い出を綴り、早過ぎる死を悼む

ニッセイ基礎研究所上席研究員
三原岳


本コーナーでは制度改革だの、政策形成過程など普段、堅苦しい話を取り上げていますが、今回は本会の創始者にして名誉会長の宮崎直樹さんの思い出話から綴りたいと思います。実は、宮崎さんとは2年半ほどの短い付き合いだったのですが、随分と濃い時間を過ごさせて頂きました。

今回は宮崎さんとの思い出話を綴りつつ、宮崎さんが考えていたことを私なりに整理し、今後の方向性を模索したいと思います。最後はタイトルの「制度改革」に繋がる話になるハズ(?!)なので、御一読頂けると幸いです。

三原のFacebookで振り返ると、宮崎さんと初めて会ったのは2021年11月11日。当会で同じくコラムを執筆している共同通信の市川亨さんの御紹介を受け、宮崎さん、船橋市議の佐藤つぐみさん、市川さん、三原の4人で会食した時でした。

 その少し前に市川さんが「介護職出身の地方議員が組織を設立」という記事を配信した際、「介護職出身の地方議員グループを発足させた人」「独立型ケアマネジャー事業所を経営している人」ということで、宮崎さんの御名前を教えてもらいました。

 この時、市川さんの取材に対し、三原は「自分たちの代表を議員として送り出し、介護現場の声をもっと政策決定過程に反映させようという活動には一定の意味がある」などと好意的にコメントし、市川さんの記事は全国の地方紙に掲載されました。

(下記のリンク先に飛ぶと、地方紙に配信した記事を再構成した原稿を読めます)

https://nordot.app/781044390695501824

その後、半年ほど経ち、市川さんを介して宮崎さんから会食の御提案を頂き、初めてお目に掛かったというわけです。

 正直に申し上げると、好意的なコメントを寄せたとはいえ、前々職の記者時代から政治家志望の目立ちたがり屋を何人も見て来たため、「宮崎さんも自己顕示欲の強い人なんじゃないの?」と少し疑う部分もありました。

(どうやら宮崎さんも三原について、「小難しいことを話すシンクタンクの偉そうな研究員」と思っていたそうです)

ただ、会食では宮崎さんの熱い想いを聞いて意気投合し、その後も4人で3回ほど会食したほか、何度か御見舞いに御邪魔させて頂きました。

三原が宮崎さんの活動や意見に賛同したのは主に2点です。第1に、介護保険の原則は高齢者の自己決定であり、その意思決定機能を司るケアマネジャー(介護支援専門員)は本来、介護保険の枢要な地位を占めています。

しかし、全国組織や地方組織の動きは総じて鈍いし、個人的な経験として、医療・介護の交流会などに顔を出しても、ケアマネジャーと会う機会も少なく、物足りなく感じていました。そんな思いを持っていたからこそ、「ケアマネジャーがケアマネジャーたりうる為に、私たちの言葉や想いを紡ぎます」という宮崎さんの思いに深く共鳴したわけです。

第2に、政治、特に地方議会から介護を変えるという方法です。介護保険制度では、市町村が保険者(保険制度の運営者)になっており、住民も参加しつつ、それぞれの市町村が関連施策を立案したり、保険料を決めたりすることが意識されています。つまり、地方分権と住民自治の発想が最初からビルトインされています。

このため、現場を良くする上では、介護に精通する市町村議員が増えることは本来、欠かせない(もちろん、国会議員も増えるに越したことはありませんが)ので、宮崎さんの「介護職よ、議員を目指せ!」「国が無視できない存在になった時に、介護に関わる人の待遇は変わります」という意見に賛同したわけです。

このように「ケアマネジャーが重要」「市町村が大事」という意見は三原の勝手な思い込みではなく、介護保険制度の創設に尽力した東大名誉教授の行政学者、大森彌氏も同じことを指摘しています。以下、大森氏による書籍『高齢者介護と自立支援』(2002年)の一部を引用したいと思います(途中、省略している部分があります)。

大森氏によると、介護保険法を根本から支えているのは「自己決定権」という考え方であり、これは主に「高齢者」「市町村」という2つの主体で担われていると指摘されています。その上で、前者の高齢者については、下記のように書かれています。

  • 高齢者はいくつになっても、どんな身体の状態になっても、自分でものを考えられる限り、自分がどのように暮らしたいか、自分がどうしたいか、そのことについて自分の意思を表します。さまざまな方法で表すことによって、自分が最後まで人生の主人公であり続ける。このことが可能になる限り、最終的に人間の尊厳が守られることになります。

  • (注:自己決定を支えるのが)ケアマネジメントであり、これを人で担う場合、ケアマネジャーになる。これが介護保険の最も本質的な部分となっているのです。

  • なぜこれが大事であるかというと、このケアマネジメントにあたるケアマネジャーの方々の立場が決定的だからなのです。利用者広く言えば自治体の住民の立場に尽くすこと。それが大事なのです。決してケアマネジャーが雇われている事業者の立場に立って物事を考えない。住民の立場、利用者の立場に立ち尽くす。

つまり、介護保険制度では高齢者の自己決定権が重視されており、その意思決定支援を担うケアマネジャーが「決定的に重要」という意見が披歴されています。言い換えると、ケアマネジャー(特に「住民の立場に尽くす」独立型ケアマネジャー)が自己主張しなければ、介護保険は改善されないことになります。

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