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Rainbow㉟

 熱帯夜③

 いよいよメインステージでのショーが始まる。世界でも著名なドラァグクイーンによるショーとあって、観客たちも国際色豊かだ。
 ステージは、ビーチに向けて作られている。観客は、海を背中に砂浜で立ち見をしている。
 エリーシャと真里は、メインステージ裏の控室に到着した。すると、史が真里の所へ駆け寄ってきた。
「おいおい、時間ギリギリだぞ!……それと、お母さんを見なかったか? もうすぐ着くって言ってたんだけどな」真里は史の恰好を見てびっくりした。
 黒のパンツに白Tシャツ、その上からサスペンダーを掛けている。
「どうしたの? その恰好」
「エリーシャから、メインステージの警備主任をお願いされたんだ。ライブ中の安全はお父さんが守るから安心してくれ!」史はヤケに上機嫌だった。
 真里は小さな声でエリーシャに「かなりのビビりだけど大丈夫?」と聞いた。すると、エリーシャも小声で答えた。
「史さんが、何か手伝えることないかって、しつこくて。警備の方は問題ないわよ。史さん以外はみんなプロだから!」
 真里は深く頷き、史に声を掛けた。
「お父さん、頑張って!」真里の言葉に、史はガッツポーズを見せメインステージの前へと掛けて行った。
「あなた、優しいじゃない?」
「ま、私なりの『親切』かな!」真里の言葉を聞いて、エリーシャは声を出して笑った。

 海外からきたドラァグクイーンの中には、海外テレビ番組でよく出てくるル・ポートがいた。エリーシャは、メインステージの一部のプログラムを彼女に任せていた。彼女は、リップシンクを中心に演出を考えていて、エリーシャもそれを了承し段取りを進めていた。
「ル・ポート、今回は本当に助かったわ。あなたのおかげで、メインステージも滞りなく本番を迎えられる。本当にありがとう」
「あなたの期待に応えられるよう、全力を尽くすわ」そう言って二人はハグをした。

 ル・ポートの演出で日本といろんな国から集まったドラァグクイーンたちが夢の共演を繰り広げた。会場は、大盛況となり陽は西の空に傾き掛けている。最後のプログラムは、エリーシャの演出による全ドラァグクイーンのラインダンスだ。これはエリーシャのショーの代名詞ともなっている。曲が流れ出すと、ステージ上ではドラァグクイーンたちが歌いながらラインダンスを始めた。すると、観客側に真里やサポートメンバーたちが乱入し観客と一緒になってラインダンスを楽しんだ。観客に混じって千夏や南乃花、そして五人の女性たちもラインダンスに加わっているのを、真里は見た。
 会場が笑顔に包まれている。手と手を取り合い、肩を組み合って一つの時間一つの空間で.「一つの幸福」が、たくさんの人たちによって創り上げられていく。
 大きな理想や戦略、大義名分や協定。そんなもの無くても、今こうして皆の思いが一つになっている。真里は、陽の沈む西の空を見て思った。この地球も一つの空間であるならば、「一つの幸福」を世界全体で創り上げることができるのではないだろうか。
 そう考えてから真里は可笑しくて笑った。
「エリーシャの側にいると、考え方までグローバルになってきた」
 真里たちをオレンジ色の光が包み込んだ。(つづく)

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